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  • 2016/06/06 掲載

IVI 西岡 靖之 理事長に聞く、なぜ日本の製造業に「ゆるやかな標準化」が必要なのか

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製造業のIT化がグローバルで急速に進んでいる。こうした中で、日本版インダストリー4.0の実現に向けて2015年に発足した団体が「Industrial Value Chain Initiative」(以下、IVI)だ。IVIでは、「ゆるやかな標準化」というコンセプトを掲げ、工場と工場がつながる仕組みづくりに関する業務プロセスのシナリオ作成や、リファレンスモデルの定義づくり、実証実験などを進めてきた。日本の製造業は今、どのようなアクションが求められているのか。IVI理事長として先導役を務める、法政大学 デザイン工学部 西岡 靖之 教授に聞いた。
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IVI理事長
法政大学 デザイン工学部 システムデザイン学科 教授
西岡 靖之氏

製造業は、業務のIT化に対応できるか

――世界中で「インダストリー4.0」というキーワードが話題になっていますが、世界の製造業の実情について教えてください。

西岡氏:4月にドイツで開催されたハノーバーメッセの出展をみても、製造業のIT化は急速に進んだ感があります。SAP、マイクロソフトをはじめとしたIT企業が製造業のIT化に参入してきたり、反対に製造業がIT企業に変容したりする中で、従来の製造をベースにした企業は非常に危機感を感じている印象です。CAD/CAMや自動化の流れも同様ですが、さまざまな業務をIT化するという変化に対応できるかどうかが、従来の製造業に問われているといえます。

 特に日本の製造業は、これまでITと無縁だった現場の力が強いため、業務のIT化がうまく進んでいない現状があります。そこでIVIが目指すのは、製造現場からみたボトムアップのIT化です。「ITを与えられる」のではなく、「ITを自らで作って活用する」という流れを作ろうとしています。

 これまで日本の製造業の多くは、IT化しようとすると、どうしても一部だけでつくり込まれる「部分最適化」になってしまい、全体のプロセスがつながらない仕組みになっていました。個別のシステムを作り込んだ結果、システム連携がうまくいかないという状況です。

 全体のプロセスをつなげていくというのは地道な作業で、ある程度時間がかかることも事実です。しかし、大方針がないと実現できません。IVIの活動を通じて、さまざまな発見があればよいと考えているのです。

IVIから生まれた小島プレス工業のPepper導入

――IVIの昨年度の具体的な取り組みについて教えてください。

西岡氏:昨年の活動初年度から計148の会員が集まり、20のワーキンググループ(WG)に分かれて活動してきました。具体的な活動は、工場と工場がつながる仕組みづくりを目指した業務プロセスのシナリオ作成や、リファレンスモデルの定義づくり、実証実験などです。

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2015年度のIVIのシナリオ連携WG。全部で20のWGがシナリオを策定し、実証実験に臨んだ

 日本の製造業は、コンセプトを提示するだけでなく、体験しないと動いてくれません。そのため大がかりな仕組みを構築するよりも、先般IVIのWGが示した合計20の「業務シナリオのテーマ」のように、ちょっとしたケーススタディの“構築した感”が大切だと思います。

 初年度は、こういった事例づくりにしても、WGが業務シナリオを策定してから、わずか3カ月足らずで実証実験までこぎつけてしまいました。IT企業に見積もりを取ってもらって、契約して進めていたら、たぶん半年以上はかかっていたでしょう。現場主体でスピード感をもってやればできることを証明したと思います。

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――「企業を超えて連携するMES」をテーマにしたWGのなかで、小島プレス工業が製造ラインにPepperを導入しています。

西岡氏:IVIのユニークな点は、ちょっとしたアイデアが現実のものになる点ですね。Pepperの検討も半分冗談のように始まったのですが、調べてみるとコストもかからず、つながる端末として使えそうだということになりました。そういう発想は普通では、なかなか出てこないのですが、シナリオ策定から入るIVIならではのものです。スピードも早く、1週間で見積もりを取って導入を始めました。

――小島プレス工業は、他社も見据えた標準化の流れを考えているようですね。ほかにWGの中で面白いと感じたテーマはありますか?

西岡氏:流石だなと感じたのは、トヨタが主導で実施した「人と設備の共働工場における働き方の標準化」ですね。このWGは名古屋地区が多かったのですが、やる以上は必ずモノにするという意気込みがありました。中間発表で事例をすでに2つも構築しており、最終的にさらに2つの事例を追加してきました。良い意味での貪欲さは、間違いなく欧米のIT企業の流れとは一味も二味も違うと感じています。

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WGの1つ「人と設備の共働工場における働き方の標準化」の実証実験の結果。トヨタが主導で実施したもの

 トヨタのアイディアは、裏付けのあるネタを引っ張りだし、IVIのやり方で展開して形になった典型です。トヨタの場合は「人との共働」という点がブレません。その中で、ITのよい部分を取り入れていくというスタンスで、見極めが非常に優れています。海外でセンスを磨いていることもあるのでしょう。

IVIのコンセプト「ゆるやかな標準化」とは

――IVIの掲げる「ゆるやかな標準」というコンセプトとはどのようなものでしょうか。

西岡氏:「関連する業務が相互に連携する仕組み」「必要なデータを交換または伝える仕組み」ということです。IVIはこれを「ゆるやかな標準」という表現をしています。プラグインで完璧に動作保証せずとも、全体の8割ぐらいをつなげられて、最後のネジ止め部分は自分たちでやれるというイメージです。

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IVIの考えるプラットフォーム

 ひと昔前のソフトウェアスイーツやERPのように、いろいろなモジュールがセットになって選べるものだと、逆に自由度を狭めてしまうリスクもあります。シナリオをつくり、どんな技術やソフトが必要かという点を見極められ、それらをつなぐノリシロができればよいと思います。

 「ゆるやかな標準」はいわば、ユーザーサイドに立った考え方です。いまの時代はメーカー単独の独占ということは考えられませんから、このプラットフォーム構築ががうまくいけばユーザー売り手もメリットがあります。

【次ページ】インダストリー4.0の本質はオープンイノベーション

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