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  • 2016/06/07 掲載

不安をどう解消する? ライフネット出口氏流「数字・ファクト・ロジック」の極意

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仕事、残業、結婚、家庭、金銭、これからのキャリア…。「将来への不安」と聞けば、思いつくことは多い。成長して年齢を重ねれば不安もなくなるかと思いきや、人にはその時々に応じた不安がつきまとうもの。では、その不安に対処し、解消するには何をすればよいのか。怯えず、恐れず、前向きに生きるための極意をライフネット生命 出口 治明氏と政治経済学専門家 島澤 諭氏に聞いた。
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ライフネット生命 出口 治明氏の不安解消の極意とは?

日本の生活保護の捕捉率はなぜ低いのか

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島澤:最近は国民年金の未納者が増えているので、「将来的に年金財政に影響が及ぶのではないか」とも言われていますが、その答えとして、「未納者は年金をもらえないから年金財政には影響しない」という論があります。これはまったくおかしな話で、年金局の論理でしかありません。

 年金がもらえない人はどうするかと言えば、困窮して生活保護を受給することになるでしょう。そうなれば、年金財政は安泰でも政府全体の財政で見れば負担は増加します。政府財政の負担は国民の税負担ですから、社会的コストとなって私たちに跳ね返ってきます。国民を無視した理屈です。

 現実には、生活保護の受給世帯は過去最多を更新しており、社会の一部には受給者を叩く傾向があります。でもこれは生活保護の制度が機能している結果であって、セーフティーネットが設計どおりに機能しているわけですから、むしろ喜ばしいことだと思います。景気の低迷や高齢化の進行により、仕事につくのが厳しい者の数が増えているので、生活保護の受給者が増えるのは当然の話です。それがもっときちんと機能すれば、かえって社会の安定性が増すと思います。

 むしろ、日本の生活保護の捕捉率は2割程度であり、欧州先進国イギリスやドイツの捕捉率8~9割よりも著しく低いことの方が問題です。本来はもっと生活保護受給世帯は増えなければいけないのです。しかし、申請主義や風当たりの強さ、行政窓口での水際作戦などによって捕捉率が先進国でも低くなっていると考えられています。

出口:諸外国に比べて3倍も4倍も受給者がいれば問題ですが、実際は他の先進国よりも少ない。生活保護を非難する人は、こういうデータにも目を向けるべきです。

島澤:それから生活保護でいえば、不正受給の問題がクローズアップされがちですが、実際は諸外国と比べて高くはありませんよね。

メディアの報道を疑ってみる

出口:はい。実際は少ないのに、メディアが煽り立てているのです。だから市民はもう少し賢くならないといけません。

 各国の市民の意識を比較する「世界価値観調査(World Values Survey)」の、自国の制度や組織に対する信頼度を見ると、日本人は7割近くの人がマスメディアを信用しているという結果が出ています。ドイツが40%台、アメリカが20%台という結果を踏まえると、日本人はマスメディアの情報を鵜呑みにしている人が多い気がします。

 なかには「メディアはもっと客観的に報じるべきだ」と主張する人もいますが、メディアが政治的・経済的な意図をもって報じるのは当たり前のことですし、そもそも情報を取捨選択する段階で、個人的な主観は必ず入るものです。100%客観的な報道というのは、そもそもどこの世界にもありえないのです。それをよく知っているアメリカ人やドイツ人は、メディアの報道をはじめから疑ってかかっているのです。

島澤:メディアが不安を煽って報じると、それを真に受けて不満を抱く人も少なくありません。私がテレビ番組で言った「今の高齢者は恵まれている」という部分だけを抜き出し、「あなたは『恵まれている』と言ったかもしれないけど、俺は自動車税や固定資産税も取られて、貧乏で大変なんだ」と苦情を入れてくる人もいます。その人は、BSの番組で言った内容に噛みついてきたんですね。

 「貧乏で大変」と言っているけれどBSの契約ができるし、自動車も家も持っている。自動車も家もなく、BSの契約もできない人も老若男女問わずたくさんいるわけですから、その人は平均的な物差しで測れば、むしろ恵まれているとさえ言えます。さすがに「あなたよりも恵まれていない人はたくさんいますよ」とは言いませんでしたが、自分の物差しだけを基準に語られるのもどうかなと思います。

 蛇足ですが、他者への配慮の欠如がこれまで以上に蔓延すると、民主主義がうまく機能しなくなるのではないかと正直心配しています。

出口:皆保険や皆年金制度、介護保険制度は、細かい粗を探せばいくらでも見つかりますが、全体としては割と上手くいっていて、整合的で優れた制度です。

 古代中国の専門家である落合淳思氏はすごく正義感が強くて、小さい頃から「これだけ文化が進んで、人間社会が成熟しているのに、不都合なことが山ほどあるのが嫌で嫌でしょうがなかった」と回想されています。彼は中国の古代王朝である商(殷)の研究を続けていましたが、王が亡くなったら殉死させるなど、無茶苦茶な制度がいくつもあったので研究しながら「けしからん」と思っていたそうです。

 しかし、そんな無茶苦茶なことをやってきた商は500年も続きました。落合氏はなぜ500年も続いたのかを考え、そして「部分的には歪んだ制度があっても、社会全体を見ればそれなりに安定していて、特に不満もなかったので、商王朝は500年も続いたのだ」という結論に至りました。

 これは現代でも同じだと思います。今の社会も、部分的には不都合があっても、全体が上手くまわっていれば大丈夫なのです。

 『老後破産』とか『下流老人』といったタイトルの本がベストセラーになりましたが、これは出版社が売上を伸ばすために煽っている側面もあるのですから、メディアに流されず、物事の本質を「数字・ファクト・ロジック」でよく検証し、自分の頭でよく考えて物事の本質を見極めることがとても大事だと思います。

【次ページ】「不安の種」が消える考え方

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