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  • 2016/06/09 掲載

薬事法改正から2年、日本はもうすぐ「再生医療」で世界一になれる

iPS細胞の臨床研究も次々と開始

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理化学研究所や京都大学らは6日、iPS細胞で作った網膜組織を患者の目に移植する臨床研究を行うことを発表した。2013年に行われた臨床研究では、患者自身から作ったiPS細胞をもとに網膜色素上皮(RPE)シートを作り移植を行ったが、今回の臨床研究では他人の細胞を使用する移植の研究も計画されている。こうした日本における再生医療の取り組みは、2014年の薬事法改正に後押しされる形で活発化している。日本のバイオベンチャーである「ヘリオス」や「サンバイオ」が取り組む、再生医療の研究最前線を紹介しよう。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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薬事法改正で日本が世界に先んじた再生医療

世界で初めてiPSの臨床研究を開始したヘリオス

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へリオス
代表取締役社長
鍵本 忠尚氏
 ヘリオスは、2011年に日本網膜研究所として設立したバイオベンチャーだ。2014年から世界で初めてiPS細胞を用いた臨床研究をスタートさせ、2015年には東証マザーズ上場を果たした。

 ヘリオス 代表取締役 鍵本 忠尚氏は「日本の問題は高齢化社会だ。2010年の段階で65歳以上が4分の1、2050年には3分の1になる。日本でiPS細胞の発明が行われたように、再生医療は日本が世界にリードしていける分野だ」と自信を見せる。

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 自信の背景にあるのは、薬事法改正である。再生医療の薬は、一定数の患者のデータから有効性が推定されれば発売できるようになり、日本で再生医療製品を開発すれば、最短2年程度で国の承認を得て販売可能になった。

 鍵本氏は「これまで新薬を出すのに最短でも7年はかかっていたものが2年まで縮まった。これは、世界で最も保守的であった日本の医薬行政の方向性が大幅に変わり、いち早く承認が取れる状況になったということ。実際に、昨年は2つの製品が世に登場している」と説明する。

 ヘリオスでは、現在脳梗塞に体性幹細胞(生体のさまざな組織にある幹細胞)の技術を導入中だという。

「iPS治療は非常に単純な発想だ。歳をとって病気になった細胞を、iPS細胞で若い細胞につくり治し、数多くの病気を根治する。現在、理化学研究所における臨床実験は17カ月経っており、患者も再発がない状態だ。次のステップでは、臓器原基のテクノロジーを用い、いろいろな臓器をつくれるようにすることだ」(鍵本氏)

今後100年は難しいと言われてきた中枢神経の再生医療が間近に

 森 敬太氏が率いるサンバイオは、2001年に設立された脳梗塞の再生医療技術を研究するベンチャーだ。世界中の患者に再生医療を届けるためには良質の細胞を量産化する必要があるが、サンバイオは、この量産化に成功した数少ない再生医療ベンチャーの1つだ。

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サンバイオ
代表取締役社長
森 敬太氏
 森氏は「この分野は今後100年ぐらいは難しいと言われてきた。しかし最新医療を導入すれば、脳も再生できると信じている。もう実際にそういう時代が来ている。実は当社でも米国で臨床試験が完了し、患者もかなり良くなった事例がある」と説明した。

 サンバイオが手がける再生医療は、人々が本来持つ自己再生能力を最大限に生かすことで、失われた機能を復元回復させる医療だ。同社の研究開発により、従来治せないと言われていた領域の治療法に光が見えてきた。ある女性患者は31歳のときに脳梗塞を発症し、肩に痛みを抱えていたが、同社の新薬を投与したところ、腕が上がるようになった。さらに脚力も強くなり、話す能力も改善。ある高齢女性も脳梗塞で体が動かせない重篤な状態だったが、頭上まで腕を伸ばせ、足も床から上げられるようになった。2年が経過した後も、良好な結果が得られているという。

「再生細胞薬は現実のものになりつつあるが、研究から臨床へ移行するには量産化技術の確立が必須だ。現在、米国では次フェーズに進んでおり、製薬会社と一緒に開発を進めている。我々はカリフォルニアと日本に拠点があるが、2年前の薬事法改正によって、日本が世界の中心地になると確信した。そこで本社を日本に移し、すでに厚生労働省から国内における臨床試験の許可も受けて、準備が整った」(森氏)

再生医療は「足し算」、がん治療は「引き算」の治療

 アメリカがん研究所・米国NIH主任研究員の小林 久隆氏は、がんに対する治療を行う人物だ。再生医療は、体の中で足りなくなったものをプラスして元に戻す「足し算の医療」だが、小林氏の研究は、選択的に細胞を壊す「引き算の医療」であるという。

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分子イメージングプログラム・アメリカがん研究所・米国NIH主任研究員
小林 久隆氏
 同氏は「我々が取り扱うがんは、たとえば体に100個の余分ながんができた状況なら、引き算で不要なものをきっちりと壊す必要がある。逆に取りすぎると障害が残るため、どれだけ正確に100に戻すか、これが技術の肝になる」と説明し、開発中の「近赤外線免疫療法」(以下、NIR-PIT)について紹介した。

 NIR-PITでは、まず抗体によって、がん細胞の膜に、無害で深部に届く波長(近赤外光)を選択的に吸収する物質(Photoabsorbring chemical)を運搬させる。次に「ナノ・ダイナマイト」という技術を応用し、近赤外光を照射すると、その物質が近赤外光を吸収し、がんに付着した細胞膜を破壊するという流れだ。

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NIR-PITは、抗体によって、がん細胞の膜に、近赤外光を吸収する物質を運搬させ、ナノ・ダイナマイトで発火して、選択的にがん細胞のみを破壊する

「つまり近赤外光によってナノ・ダイナマイトに発火することで、がん細胞のみを瞬時に完全に破壊できる。しかも、がん細胞のみを狙い、選択的に破壊するので、正常な細胞には影響を与えない。これが大きな特徴に1つだ」(小林氏)

 NIR-PITの凄い点は、がん細胞を殺した後に、免疫細胞が誘導されるということだ。樹状細胞(注1)が、壊れた癌細胞のプロファイルを認識し、免疫として働き始める。すると治療していない転移部の腫瘍部も消えてしまうという効果が得られるのだ。「人間ががんで死ぬのは転移するから。しかしNIR-PITでは、複数の腫瘍があったとしても、どれか1つだけ治療すれば、全身に転移したがんが縮小・消失して治せる可能性がある」(小林氏)

(注1)生体のさまざな組織にある幹細胞。造血幹・神経幹・皮膚幹などの細胞があり、限定された細胞にしか分化しないものや、広範囲の細胞に分化するものなど、種類も多い。

【次ページ】日本は再生医療ベンチャー創業に最適な国

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