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  • 2016/08/01 掲載

都市ガスの小売自由化、「逆襲の」東電・関電のキーになる企業がある

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今年4月、電力の小売が完全に自由化されたが、2017年4月には都市ガスの小売が完全に自由化される。春から電力市場が東京ガス、大阪ガスに攻め込まれ、顧客を奪われた東京電力、関西電力にとっては、相手の本丸の都市ガス事業に1年遅れで斬り込みをかけ、ひと泡吹かせるチャンス。その「カウンター・アタック」をアシストしそうな存在がある。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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都市ガスの小売自由化で地殻変動は起きるのか?


電力小売自由化で健闘している都市ガス大手

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 2017年4月の電力小売の自由化では、通信、流通、私鉄などさまざまな異業種の300社以上の企業が名乗りをあげ、参入してきたが、4月の自由化開始以来の3カ月間で一定の成果をおさめたのは、都市ガスと石油の大手企業である。

 電力広域的運営推進機関(広域機関)が7月8日に発表した6月末時点の状況によると、電気の購入先を切り替える「スイッチング開始申請」の件数は累計で126万4400件だった。4月1日の全面自由化から3カ月で、全国の電力総契約数6260万件の2.01%に達している。

 地域別では東京電力(東京電力パワーグリッド)管内は76万2500件、関西電力管内は26万500件、中部電力管内は8万3700件で、この3電力管内の契約の切り替えは全国の87.5%を占めている。

 東京電力管内では東京ガスが約37万件の契約を獲得し、年度目標の40万件をこの夏のうちにも突破、達成しそうな勢いだ。

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 関西電力管内では大阪ガスが約15万件の契約を獲得し、年度目標の20万件の4分の3をクリアした。東京ガス、大阪ガスの電気事業は好調な滑り出しをみせ、両社とも年度目標を達成できれば、東京電力、関西電力の家庭用電力シェアの約2%を切り取ることになる。

 石油会社では、KDDIと提携して東京電力管内で電力小売に参入したJX日鉱日石エネルギー(エネオスでんき)が約10万件の契約を獲得した。目標は3年間で50万件なので、順調な滑り出しと言える。

 東京ガス、大阪ガス、JXの3社だけで、6月末時点での全国の契約切り替え申請全体の49.0%と、約半分を占めている。現時点では都市ガス大手と石油大手が、電力小売の自由化をリードする存在だ。

 自由化で長年の地域独占が終わりを告げた電力大手にとっては、都市ガス大手は管内の自社の電力シェアを侵食する最大のライバルと言える。とはいえこの春、電力自由化に関するメディアの記事には、判で押したようにこんな文言が添えられていた。

「1年後の2017年4月には、今度は都市ガスの小売が自由化される」

 まるで「電気がやられても、1年後、今度は都市ガスのほうが仕返しされる番だ」というニュアンス。ボクシングで言えばカウンター・パンチ、サッカーで言えばカウンター・アタック。だが、電力大手と都市ガス大手がお互い、1年の時間差をおいて相手のふところ深くを突き、その結果「引き分け」に持ち込めるほど、自由化の話は単純ではない。

電気と都市ガスでは、自由化の事情が異なる

 都市ガスの供給エリアは電気よりもずっと小さい。それ以外の地域は金属製のボンベで供給されるLPガス(プロパンガスなど液化石油ガス)が利用されている。電気もガスも、それが止まったら困る生活のライフライン。「オール電化住宅」もあるが、大都市圏の大多数の家庭では電線で電気、ガス管で都市ガスの供給を受け、毎月メーターで検針されて料金を支払っている。

 電力の小売自由化後、ガス会社がLNG(液化天然ガス)を燃やすなどして自前の発電所で発電した電気も、電力会社の電線網を通じて契約家庭に供給されている。その場合、ガス会社は電力会社に「託送料」を支払っている。電気の規格は家庭用は電圧100V、交流周波数は50Hz(東日本)、60Hz(西日本)と決まっている。

 2017年4月の都市ガスの自由化後は、電力会社は発電用燃料にも使われるLNGを使って自前の設備で都市ガスを製造するが、そのガスはガス会社の導管(ガス管)網を通じて契約家庭に供給される。その場合、電力会社はガス会社に「託送料」を支払う。都市ガスの規格は一部地域を除いて「13A(発熱量10750キロカロリー/立方メートル)」と決まっている。

 電気も都市ガスも供給のインフラは現状のものを利用し、品質管理は厳しく問われる。どちらも自由化の条件は同じように見えるが、実際はそうではない。最大の相違点は最近、電気料金はよく値上げされているが、都市ガス料金は逆に、原料安とともに下がっているという点である。

 原料のLNG価格(CIF価格)は、財務省の「貿易統計」によると2014年12月の9万6,500円から2016年5月の3万3,100円まで、およそ3分の1になった。東京ガスの東京地区標準家庭(月間使用量32立方メートル)の都市ガス料金は「原料費調整制度」で毎月変わっているが、直近のピークだった2015年4月の6,200円から2016年8月(予定)の4,600円まで25.8%も下がっている。2015年12月には平均0.71%の料金値下げも実施されている。

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天然ガス価格と都市ガス料金の推移
※天然ガス価格:液化天然ガス(LNG)のCIF価格 財務省「貿易統計」による
※都市ガス料金:東京ガスの原料費調整制度に基づく標準家庭(使用量32立方メートル)の月間料金


 「国民感情」という点でも、電力会社と都市ガス会社は異なる。東日本大震災以来、もともと脱原発派ではなくても、電力会社を快く思わない人が増えた。東京電力は福島第一原発の爆発事故、関西電力は度重なる値上げがその要因である。関電の値上げは、震災前の原発依存度が50%前後と高く、原発を停止して火力発電に切り替えると燃料費がはね上がったためで、それも原発がからむ。電力自由化を機に新電力に切り替えた人の中には、経済的な理由だけでなく、電力会社を快く思っていなかった人も一定数はいるだろう。

 しかし、都市ガスの会社を快く思わない人は、ほとんどいない。大事故を起こしたわけでも、値上げを繰り返したわけでもない。LPガスよりずっと安く、しかも料金は下がっているから特に不満は出てこないはず。ガス会社が主催する料理教室に参加して喜んでいる主婦や、最近は男性もいるだろう。「現状のままでいい」と思っている消費者の心理をくつがえすには、新規参入の「新ガス業者」は、思い切った料金設定が必要になる。

 だが、都市ガスの小売自由化では、新規参入業者はコストアップが確実になるある義務を課せられることになった。それは「ガス保安義務」というものである。

【次ページ】電力大手がガス自由化に臨む「本気度」は高い?

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