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  • 2016/08/16 掲載

米MITを凌ぐインド大、「超熾烈」なエリート教育の全貌 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(77)

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インド工科大学といえば、優れたエンジニアの育成で世界的に有名だ。グーグル、ボーダフォン、インフォシスのCEOらを輩出し、今ではモデルとなった米国マサチューセッツ工科大学(MIT)を凌ぐほどの評価を得ている。その熾烈な入試では「速く正確に解く力」が求められる一方、入学後は、チームで協力しながら「答えのない問題を、時間をかけて深く考え抜く力」が涵養(かんよう)される。徹底した少数精鋭教育で鍛えられた学生は、その後いかなる進路を取っていくのか。現地で聞いた。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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今や米MITを凌ぐ評価を得ているインド工科大学

多様なインドのエンジニア育成

連載一覧
 情報産業を支えるのは、エンジニアなどの人材だ。社会のあらゆる面で格差が大きいインドでは、トップレベルのエンジニア教育からボリューム層の能力底上げに至るまで、さまざまな組織が多様な方法でIT人材の育成に取り組んでいる。

 3月の現地調査では、トップレベルの大学教育で有名なインド工科大学(IIT: Indian Institute of Technology)、政府の研究機関で社会人エンジニアの研修にも熱心なC-DAC(Center for Development Advanced Computing)、新しい教育を目指して1990年代末に官民共同のPublic Private Partnership方式で設立された国際情報技術大学院(IIIT: International Institute of Information Technology)を訪れた。

 今回は、その中からインド工科大学ボンベイ校(コンピュータ科学・工学部)で実施した人材育成に関する聞き取り調査を報告しよう。

世界をリードするインド工科大学の卒業生

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インド工科大学には経営学部もある
 1947年に植民地支配からの独立を成し遂げたインドでは、技術を基礎にした工業化と近代化が急務であり、インド工科大学は初代首相ネルーの肝いりで1951年に開設された。

 米国のMITをモデルに西ベンガルのカラグプールで第1校が開設され、1958年にボンベイ校、1959年にはカーンプル校とマドラス校、1963年にはデリー校が次々と設立された。1994年設立のグワハティー校と2001年設立のルールキー校を合わせた7校が旧IITと称される。

 その後も新設が進められ、現在は計画中を含めてインド全国に20校以上に拡大し、世界に冠たる高等教育が行われている。各校は独立した組織でありながら総体として一つの共同体を形成し、技術、工学教育を中核に、経済、経営、歴史など、人文社会学を含めた教養教育も一部取り入れ、優れた人材を輩出している。

 卒業生には、インフォシスの共同設立者であるナラヤナ・ムルティ氏、グーグルCEOのスンダル・ピチャイ氏、サン・マイクロシステムズの共同設立者のヴィノッド・コースラ氏、ボーダフォンのCEOを務めたアルン・サリン氏など世界のIT産業をリードする蒼々たる顔ぶれが並ぶ。

熾烈な競争で選抜された少数精鋭のエリート

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インド工科大学 ボンベイ校
Department of Computer Science & Technology
 筆者らが今年3月に訪れたのはボンベイ校で、数あるインド工科大学の中でも2番目に古い歴史を持つトップレベルの名門校だ。同校では、コンピュータ科学・工学部長(Head, Department of Computer Science & Engineering)のSudarshan教授に、教育内容から学生の進路や気質に至るまで話を聞いた。

 教授によると、同学部に入学してくる学生の受験競争は熾烈だ。毎年百万人規模が受験する全国共通試験で選抜されたおよそ15万人が2次試験に進み、IITには総計約1万人が入学できる。その約1万人の中からトップクラスの約100人が最終試験で厳選され、IITムンバイ校のコンピュータ科学・工学部に入学してくる。まさに少数精鋭のエリートだ。

 外国人の学生は、米国、イギリス、ロシアなどから短期の交換留学で入って来るが、フルタイムの留学生は少ないという。「IITより米国の大学が入りやすいのではないか」というのがSudarshan教授の見立てだ。

 以前は記述式の入試だったが、受験生の増加にともない、今は多項選択式の試験が行われている。そこでは、短時間にどれだけ多くの問題を正確に解けるかがカギとなる。その意味では日本のセンター試験と同様だ。膨大な人数から選抜するためには、これで能力を判断せざるを得ないのだろう。

 ところが、入学後の教育は一変する。

【次ページ】IITでは入試とは異なる能力を鍛える

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