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  • 2016/08/27 掲載

「ブラック企業」になる理由は、社員が「ストレス」に耐えすぎるからだ

社風改革は植物の「生存戦略」に学べ

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現代日本の企業社会において「ブラック企業」という言葉がある。このブラック企業の社風を改革するために様々なアプローチでその変革を試みているが、なかなか成功事例が少ない。なぜ企業が「ブラック化」するのだろうか? それは、「ブラックな業務環境に耐える人々」の存在なしには説明がつかないのである。今回は、人類が誕生したはるか昔から生存している植物の生存戦略を参考に、ブラック企業の社風を改革するためのアプローチを考えてみたい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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ブラック企業の社風改革は可能なのか?


ブラック企業という「社風」を変える難しさ

 「ブラック企業」という言葉が生まれてから、随分長い時間の経過があり、すっかり一般用語として定着した感がある。

 筆者にも、実際に出会った中で「ブラック企業だな」と感じてしまった企業がある。不思議だったのは、その企業で働く人々が「ここの職場環境はブラックである」ということを自覚し、マネジメントも現場も、そこから脱却すべきとの認識を有しているということだ。

 だったら今すぐその残業をやめればいいのに、というのにそうはいかないのが日本企業の性である。ということは、改めてここで主張するまでもなく、全ての読者が胸に手をあてればわかるだろう。

 もちろん、あらゆるブラック企業が同じようなブラックさで日々を生きているわけではない。ある組織は比較的風通し良く、またある組織は極めて厳重な統制が敷かれている、というような差異はある。また、実態としてはブラックと言わざるを得ないような業務環境であっても、それを苦とせず、むしろ充実感をもって皆が仕事にまい進する、という企業もあれば、そこまでひどい環境ではないのに、怨嗟の声が絶えない、という組織もある。

 こうした現象に対して、人は例えば、ある企業を指して「あの会社は自由闊達なのが強みだ」とか、「あの会社は軍隊式だから」といったふうに評する。

 そうした組織の雰囲気を、我々は「社風」と呼んでいる。これは社是やクレド、中長期計画書に書いているわけでもなく、人事制度にロックインされているわけでもない。その企業が長い歴史を生き抜いてきたなかで、いつのまにか備わったものである。

 組織に属する人間は、その社風が良きものではないと感じたとき、それをよりよく、あるいは少しでもましなものに変革できるものなのだろうか? ブラック企業の事例ひとつとっても明らかな通り、これを変革するのはそう簡単ではない。スローガン、クレド、人事制度、事業構造、様々なアプローチで社風を改善しようと、どの企業も日々頭を悩ませる。

植物生態学から学ぶブラック企業の社風改革

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 人々はブラック企業の社風を改革するために、組織の内外から様々なアプローチでその変革を試みているが、なかなか成功事例が少ない。そこで今回は、人類が誕生したはるか昔から生存している「植物」がどのように環境に対応してきたかを研究する生物学、「植物生態学」から、社風改革のアプローチを考えてみたい。

 新人類が誕生したのは20万年前とされる。そのはるか昔、4億7500万年前に誕生したとされる陸上植物は、いかにして環境に対応してきたのか。

 植物生態学においては、植物が育つ環境を「ストレスの強さ」と「撹乱(かくらん)の強さ」で考えるそうである。この世には、栄養分が豊富で環境変化が少ない土地もあれば、その逆もある。日光や水分、栄養分が少ない砂漠のような土地を、「ストレスが強い環境」と呼ぶ、ということである。撹乱とは、変化の激しさのことであり、例えば水害のようなイレギュラーが気象現象によって環境に変化が大きいと、そこに生育しやすい植物種が変わってくる、という話だ。

 これはもちろん、植物にとっての土地の話であるが、人間にとっての企業に言い換えても、まったく違和感がない、という点が本論の出発点であり、誠に興味深い話なのである。

植物がとる3つの「生存戦略」とは

 ここに、C-S-R三角形と呼ばれる理論がある。これは、植物の生存戦略に関する仮説であり、ジョン・フィリップ・グライムによって提唱された用語である。この仮説では、上記の2軸に分類される環境のなかで生きる植物種を3つのタイプで考える。

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C-S-R三角形によると、植物が環境に対してとる戦略には3つの種類がある

 植物生態学の面白みとは、あらゆる環境に対して強さを持つ種、という存在を仮定するのではなく、それぞれの環境に対する適応の問題として、種を考えるという点である。

 C-S-R三角形によると、植物が環境に対してとる戦略には3つの種類があるという。ひとつは、ストレスが小さく撹乱が少ない生育場所に適応した競争戦略(C:Competition)である。こうした環境では、生長速度が速く、種子や地下茎などの繁殖器官の生産力が高い、といったふうに、いわゆる「競争」というものに対してもっともストレートな方向に進化した種が勝つ。

 企業社会で言えば、多くの大企業はこれに該当する。それなりに良い人材が集まり、それなりに競争が繰り広げられる、安定した世界、ということである。

 ふたつ目は、ストレスが強く撹乱の小さい生育場所に適応したストレス耐性戦略(S:Stress)である。植物の世界で言えば、砂漠で生き延びるサボテンがその典型例となる。そもそもこうした環境を選択する競合が少ないのでC型のような優れた特徴を持たずしても、生きることができる、というわけだ。企業社会で言うと、実はほとんどの中小企業がこうであると言っても差し支えない、かもしれない。

 最後が、ストレスが小さく撹乱の大きい生育場所に適応した撹乱依存戦略(R:Ruderal)である。栄養豊富な土地で、数年に一度の洪水が起き、壊滅した後でいかにスピーディに勢力範囲を拡大するか、という話で、これは雑草的な特徴である。

 企業社会でいえば、急激に成長、拡大しているベンチャー・スタートアップ、新規事業がこれにあたるだろう。成果を出した分だけ見返りも得られるので、成長スピードが早い人材がより伸びる、というわけだ。

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植物の3戦略の関係
(作成:ビジネス+IT)


【次ページ】ブラック企業に残る「ストレス耐性種」たち

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