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  • 2016/09/26 掲載

トランスファーワイズ「格安国際送金」のビジネスモデルは何がスゴいのか?

注目フィンテック企業を解説

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TransferWise(トランスファーワイズ)は、その革新的なビジネスモデルによって、国際送金の手数料を1割近くまで削減することに成功し、国際的に活躍する人々から支持を集めています。留学や赴任などが増える昨今では国際送金の需要が高まる一方ですが、既存サービスは手数料が高く、不満を抱く人も少なくありませんでした。38の通貨で55の国へ送金できるまでにサービスを拡大し、日本への参入も果たしたトランスファーワイズは、どのようにして格安国際送金のビジネスモデルを実現しているのでしょうか。Paypal創業者のピーター・ティール、伝説的起業家のベン・ホロヴィッツなどが投資家として名を連ねる注目フィンテック企業、トランスファーワイズを解説します。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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日本に本格進出したトランスファーワイズのビジネスモデル


グローバル化でニーズが増え続ける国際送金

 グローバル化の流れは個人の生活におよび、留学や赴任・海外就職のために海外で生活する人が増えてきました。2015年時点の海外在留邦人は131万人を超え、前年比2.1%増、統計開始以来、最多を記録しています。また、日本に滞在する外国人の数も過去最多の223万人となりました。

 国境をまたがって生活する際に避けては通れないのが国際送金です。生活費や学校の授業料を支払うため、他国の銀行へ多額の送金を行う必要があります。また、海外に住みながらもインターネットを通して日本の企業と仕事をして報酬を得るなど、柔軟な働き方をする上で、国際送金は重要な役割を担っています。

 国際送金を行う際に見られる大きな問題として、その手数料の高さが挙げられます。大手都市銀行では送金金額に関わらず、4000円ほどの手数料が設定されています。場合によっては、銀行間の取り引きに関わる中継銀行によって、さらなる手数料が取られる点も、利用者にとって透明性が欠けるため、不満の元となっていました。

 さらに、手数料に加えて、為替レートにも手数料がかかります。例えば、1ドルにつき1円といった割合で手数料が加算されるので、送金額が増えるほど、手数料も増加する仕組みです。複雑な手数料に加え、送金先の事前登録など手続きも煩雑であり、改善が待たれる分野と考えられていました。

国際送金を8倍安くしたトランスファーワイズ

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 この国際送金の仕組みを変革し、手数料を圧倒的に下げた格安国際送金を提供するのがトランスファーワイズです。最大で8倍安い手数料に下げ、24時間以内にオンラインで送金を完了できます。

 2011年に創業したトランスファーワイズは急激な成長を遂げ、全世界100万人以上のユーザーを有します。月間で60万件、1100億円ほどの送金を取り扱っており、これはユーザーにとって合計50億円ほどのコスト削減に相当すると言われます。半年で50%増加するほどの成長率であり、既に38の通貨で55の国へ送金が可能です。2016年9月には関東財務局より認可を受け、日本への参入を発表しました。

 送金を行うには、まず、トランスファーワイズのWebサイトを訪れ、免許証やマイナンバー登録証などで本人確認を実施します。振込先の情報を入力した後に、トランスファーワイズの口座へ送金したい額を振り込めば、手続きは完了です。わずらわしい手続きはなく、分かりやすいWebサイトによって、利便性を高めました。

 トランスファーワイズは顧客サービスに注力しており、600人の従業員のうち、2割から3割はカスタマー・サポートに従事しています。これまで国際送金の利用者が抱いていた不満を、徹底的に排除するよう、大手銀行などとは異なるアプローチをとっているのです。

格安国際送金の秘密は「国際送金しない」ビジネスモデル

 トランスファーワイズが安くて速い国際送金のビジネスモデルを実現できるのには、スマートな仕掛けがありました。例えば、Aさんが日本からアメリカの口座へ100万円を送金したい場合、アメリカから日本へ同じように100万円相当のドル(約1万ドル)を送金したいBさんを見つけます。そして、トランスファーワイズは双方を引き合わせる役割を担います。Aさんがトランスファーワイズの口座へ入金した100万円は、Bさんの送金先の口座へ振り込まれ、同様に、Bさんの1万ドルはAさんの送金先の口座へ振り込まれるのです。

 つまり、トランスファーワイズは、国際送金を国内送金へ変換してしまうため、為替手数料がゼロになるのです。実際は、同額の送金希望が必ずしも合致するとは限らないため、トランスファーワイズは適宜、送金マッチングに必要な金額を用意しています。この人と人とを仲介する仕組みは「ピア・ツゥ・ピア(P2P)」と呼ばれ、コミュニティ全体での流通を円滑化し、ムダを省く利点があります。

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スライド1枚で分かるトランスファーワイズのビジネスモデル

 トランスファーワイズのように、金融の仕組みを先進的なビジネスモデルやIT技術によって変革するベンチャー企業はフィンテック(ファイナンスとテクノロジーを合わせた造語)と呼ばれ、世界中で注目が集まってきました。国際送金事業も例外ではなく、様々なフィンテック企業が創業されています。トランスファーワイズの直接的な競合としては、CurrencyFairが知られています。同社は、低い手数料と使用できる通貨の多さで顧客を獲得し、2015年時点で、総額3000億円近い送金を手がけました。

 フィンテック企業の勃興を、大手銀行も黙ってみているわけではありません。これまでの中央集権的な金融システムを脱却し、ブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳の仕組みを導入し、国際送金の手数料を大幅に削減しようとする取り組みが進んでいます。例えば、三菱東京UFJ銀行はブロックチェーンに基づいた仮想行内通貨の開発を発表しました。また、みずほ銀行は、世界30行が参加する国際送金実験Soraへの参加しています。他には、三井住友銀行などもブロックチェーンの実証実験を開始したと報じられています。

【次ページ】厳格化する金融規制にフィンテック企業はどう対応する?

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