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  • 2016/09/27 掲載

メタップス 佐藤航陽 氏が指摘、AIを使いこなすために「問いの設計力」を養え

#tiatokyo2016

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人工知能(AI)によるデータ分析や未来予測に強みを持つメタップス。同社のCEO 佐藤航陽 氏は、自身がつくり出した造語である「Datanomics(データノミクス)」(Data+Economics)と呼ばれる知能革命により、「AIが資本主義と社会システムを変えていく可能性がある」と説く。しかし、その前に解決すべき課題も多い。佐藤氏とWired Japanの若林 恵氏が、社会と経済と技術の交差する未来について大いに語りあった。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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メタップス CEO 佐藤航陽 氏とWired Japan 若林 恵氏が議論

共同幻想が溶け始め、あらゆる価値観が変わりはじめた

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メタップス
代表取締役
佐藤航陽 氏
 テックインアジア東京2016に登壇した若林氏は、現在の経済に対する佐藤氏の考え方について質問した。

 佐藤氏は「お金のあり方が多様化している。最近はクルマや家を買う人が減っているが、お金で買えるもの以外に価値が移っているからだ。これからの時代はデータそのものがお金の代わりになるなど、価値感の移り変わりが進んでいく。物々交換や貨幣でないもの、たとえばビットコインなどで価値を交換する時代になるかもしれない」と見解を述べた。

 価値判断の軸が変わったのはお金だけではない。例えば仕事に関しても、若い世代は必ずしも賃金のみで就職先を選ばない。最初から事業を始めたり、NPOをスタートさせたりと、従来の判断基準が変わったようだ。若林氏は「価値観の変化が、いまなぜ起きているのか?」と、その原因について問うた。

 佐藤氏は「価値判断の軸が変わったのは、インターネットで、様々な情報が取れるようになったからだ。国内に限っていえば、高度経済成長期からバブルが崩壊し、90年代に入って経済が鈍化した点が大きな要因。イケイケドンドンの時代が終わり、誰もが新しい価値観を求めるようになった」と分析する。

 成長至上主義のシフトによって、考える必要がなかったことを、自分で考えなければいけなくなると佐藤氏は指摘する。

「たとえば昔は、自分らしさを考える余裕すらなかった。いまは誰と付き合い、何を求めるのか、誰も教えてくれない。自分でゼロから情報を取りに行くしかない。そうなると個人の負荷も増えてくる」(佐藤氏)

 若林氏は「では、成長しない世の中になることは佐藤氏にとって良いことなのか?」と問いかけた。

 佐藤氏は「良し悪しの判断は難しい。右肩上がりに成長しなければいけないという考えは産業革命以降の思想であり、自然の仕組みとは異なる。誰もが成長は善で、衰退は悪と疑わないが、この100年間に共同幻想(注1)が溶けるかもしれない。ただし、共同幻想は一応、社会を守っているため、溶けないほうがよいこともある。幻想があるが故に、人はシステムで生きていける。全員が夢から覚めたらシステムが崩壊するだろう」と指摘する。

(注1)共同幻想とは、複数の人間で共有される幻想のことで、日本の思想家である吉本隆明が用いて有名になった言葉。岸田秀は、同氏から共同幻想の考え方を引き継ぎ、唯幻論を提唱。岸田氏の唯幻論においては、幻想は私的幻想と共同幻想に大別される

 ある意味ではコミュニティを維持するために共同幻想は非常に重要なことなのだ。佐藤氏によれば、その典型的な例がお金だという。

「アフリカ原住民にとって、札束は何の価値もない。日本人が千円札を見たら価値がある。ただの紙きれだが、日本では価値があると思っているから価値が出る。法律もその場に生きている人にとって、強制力があり意味がある。だから思い込みや勘違いも重要だ」(佐藤氏)

データ社会は情報格差を埋めるが、諸刃の剣にもなり得る

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 若林氏は「近代社会は制度に乗って生きていけばよかったが、いまは会社も我々を支えてくれない時代になってきた。そんな時代に、データはどう自分たちに関係してくるのか?」と疑問を投げかけた。

「過去の情報を分析することで、自分の欲しい選択肢をシステムが見つけ出してくれる時代も近い。それをテクノロジーが代替してくれれば、情報格差が埋められることもある。とはいえ、思いがけないものを偶然に発見する『セレンディピティ』が失われることもあるので、諸刃の剣ともいえる」(佐藤氏)。

 この見解に対し、若林氏は「データ利用は面白いと思う半面、レコメンデ―ションで何かを推薦されると反発したくなる気持ちも起こる。データが諸刃の剣であるところを、もう少し詳しく教えて欲しい」と語った。

 佐藤氏は「我々が事業展開する広告も、過去の顧客履歴から成果の高いものだけをすすめている。しかし、一定期間経つと効果が頭打ちになる。マスメディアに興味がない人にも当てに行く必要があるが、もともと興味のない人に興味を喚起させることは難しい。また情報として取れない意識をマッチングすることも困難だ。現状ではデータが圧倒的に足りない。目の前にある不完全なデータだけでロジックを組むと間違いが起こる」と強調する。

 つまりAIや機械学習そのものが世の中にデメリットを与えると言うよりも、情報がないのに無理やりロジックをつくって実装してしまうことで、デメリットが生まれてしまうリスクもあるということだ。

 若林は「自分は、好きな音楽だけ集められても楽しくはない。データはある種の予測可能性を実現するもので、そこにスッポリと収まるものは基本的に退屈だ。全部が予測できる恋人はつまらないのと同じで、意外性や自分との距離が重要。それをデータでどうキャッチアップすればよいのか?」と質問した。

 佐藤氏は「それはデータにおける間接評価(アトリビューション)の部分だ。一見すると関係なそうに見えることが、相当関与していることもある」と説明する。

 若林氏は「自分はWebでの認知に限界を感じる。一方で電車の吊り広告のようなものに意味があると思う。自分と関係ない人が見ている状況下で、自分が見ていることに価値や重さがある。『情報が社会性を持つ』ということだ。単純に情報が届くだけでは、情報の価値は策定されず、知らない人々の間でどのように情報が流通するのかも、受け手にとって重要な意味を持つ」と自身の見解を示す。

 しかし佐藤氏によれば、それも顕在化していない一種のデータ、つまり雰囲気のデータなのだ。若林氏は「雰囲気のデータをどのように特定し、数値化するのか? かなり厄介な問題だろう。情報と自分が一対一で紐づかず、顕在化しないデータが含まれているからだ」と、雰囲気のデータの実態をつかむことの難しさを示した。

真実は残酷? 人は共同幻想の中で生きていくほうがラクなのか?

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Wired Japan
編集長
若林恵 氏
 若林氏は、人気ブロガーだった佐藤氏がBlogをやめた理由について質問した。

「書きたい内容は多くあるが、人が聞きたくない真実もあるので書くのをやめた。データを分析すると、社会は真実と真逆の仕組みで成り立っていることが分かる。もともと弱肉強食や淘汰の仕組みから身を守るために、社会システムができた。その真実に近づいていくと、自然が残酷なのは当然だと分かる。人間からに見た平等・自由は、自然から見れば摂理に逆らっている」(佐藤氏)

 不平等・不自由という意味での典型が経済だろう。お金はあるところに偏在し、貧富の差が生まれているからだ。「お金の性質は研究されていない。どのように増え、どのように動くのか。多額の資本を扱う、ごく一部の人しか分からないことだ」(佐藤氏)。

 若林氏は「それを知っていれば、佐藤さんはものすごい大金持ちになれるのだが、なぜ活用しようとしないのか?」と切り返した。

 佐藤氏は「お金は意味がある。ただ増やしていくことに意味を感じる人と、そうでない人がいる。自分は後者。何かを発見することにエクスタシーを感じる。地獄にお金は持っていけない」と明快に答える。

 逆に、データによって捕まえられる真実はパワフルでもある。従来の社会学や政治学は、データがないため実験も検証もできなかった。自然科学のような検証プロセスはなかったが、ビックデータやAIの普及で、いままでの議論の虚実があぶり出されるかもしれない。

「お金が格差を構造的に生み出す原因であるのに対し、お金の価値が相対的に下がれば、格差が少し是正されるかもしれない。そういう流れをメタップスを通して促進するのが、我々のミッションだ。機会平等の仕組みがベターだし、そういうキッカケをつくれるように、世の中に一石を投じることが、自分の役目だと勝手に思っている」(佐藤氏)

 お金は信用・価値・時間とも言える。いろいろなことを代替するが、必ずしもお金の形をとる必要もなく、お金に変えて流通させる必要もない、というのが佐藤氏の主張だ。

 ただし若林氏は「お金が果たす役割が解体され、社会を成立させていた幻想が相対化されると大変かもしれない。お金で価値を計っていたときの方がラクに生きられる。我々は社会を成立させる大きな物語に乗っていないと不安だし、自分の意志で選択できない側面もある」と、共同幻想と絡めて反駁する。

 佐藤氏も「テクノロジーは選択肢を膨大に増やしていく性質がある。しかし人間は選択肢が増えると、相対的な幸福度が下がる。選択肢があると、後からアレもコレも選べたという後悔が残るからだ」と同意する。

 若林氏は「いま大きな物語の中で、人も流されやすい環境にある。ある種の共同体が崩壊し、個人のアイデンティティが揺らぐ中で、大きな物語をもう一回包み込む幻想が非常に強いパワーを持つかもしれない。イスラム原理主義運動も、ナショナリズムの台頭も同様だろう。我々は100年前の第一次大戦前夜と同じ状況を生きているのかも」と危惧する。

 100年前の産業を現代に照らし合わせると、巨大インターネット企業は、昔の鉄道会社や石油鉄鋼に近い存在だ。「それに反対する人たちが、ポピュリズムや尖った政治の考え方に寄っていくという点では、確かに100年前と状況が似てるかもしれない」(佐藤氏)。

【次ページ】時代の流れを読むための「問いの設計力」を養え

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