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  • 2016/10/14 掲載

日本のものづくり企業が「世界に勝つ」エコシステムはこう確立せよ

早大 尾形哲也教授×ベッコフ川野 俊充社長対談:

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標準化、モジュール化の流れが、インダストリー4.0やIoTによる取り組みを加速させている。では、こうした流れの中で、今後日本のモノづくりの現場、製造業はどのように変わっていくのか。前編に続き、後編では早稲田大学 基幹理工学部教授の尾形 哲也 氏と、ベッコフオートメーション 代表取締役社長の川野 俊充 氏に、インダストリー4.0が導くものづくりの未来とそれを担う産学連携のあり方などについて話を聞いた。
(聞き手はフロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎氏とビジネス+IT 編集部 松尾慎司)

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早稲田大学 理工学術院 教授 基幹理工学部 表現工学科 尾形 哲也 氏(右)と
ベッコフオートメーション 代表取締役社長 川野 俊充 氏

AI、ディープラーニングの産業活用は「匠による強化学習」がコアになる

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──AI、ディープラーニングなどの技術によって、今後製造業のものづくりはどう変わっていくとお考えですか。

川野氏:製造業の分野では、IoTやディープラーニングは暗黙知を形式知化するツールとして有効だという認識でいます。これまで企業や組織は、言語化しにくい行動の因果関係を、SECIモデルなどのナレッジマネジメントの方法論を駆使することで形式知化してきました。

 センサーやカメラなどのデバイスの性能が高まり、価格も安くなってきました。産業機械の制御はデータ化され、膨大なデータを解析する基盤や能力は安価に手に入ります。そうすると、行動の因果関係をディープラーニングによりモデル化、アルゴリズム化することで、例えば、これまで継承に長期間の時間が必要だった匠の加工技術を若い人に短期間で継承できるようになります。

 AIを効果的に活用することで、技能の継承や、新たな技能の開発ということが、これまでの倍の速度、半分の人手で可能になるかもしれません。

──IoTの製造分野での活用は「人間の感覚をデータ化する」という暗黙知の形式知化が一番理解しやすいです。

川野氏:熟練の匠が現場を歩いて、「今日は油の匂いが変化した」とか「いつもと異なる周波数の音がする」というように「人による予防保全」は経験的に行われてきました。では、判断基準となる「匂い」の判別方法をどうやって継承していくか。今までは長い時間をかけて若い技術者に経験させるしかありませんでした。

 IoTにより、同じ経験を獲得する時間を短縮化できます。誰でも因果関係が特定できて予防保全ができるようになります。人が必要なくなるのではなく、今までできなかった人ができるようになるといった方が正しいかもしれません。

──ソフトウェアの観点では、もっと現場に行って、現場を知らないといいシステムが作れないといわれますが、その点についてはどうお考えですか。

尾形氏:現場には色々なセンサーがあり、さまざまなデータが処理できますが、この匂い、この色を見て、結果としてどんな行動に結びつけるのかは、現場の人しかわからないのです。

 昔のAIの問題点は、あらゆる事象を言語化しようとした点にあります。人間は言葉にできないような事象を普通にやっています。この人間の能力を素直にリスペクトし、人間のやり方を真似させるというアプローチが大事になってくるのではないでしょうか。

 その点で、ディープラーニングは画期的だったのだと思います。完璧ではないかもしれませんが、特定の領域では機械が人間を超えることができるようになったからです。

川野氏:期待すべきポイントとそうでないところをきちんと区別することが大事です。その点で、モノづくりは加工したモノの品質が高いか、加工時間は短いかといった明確な評価基準があるため、アプリケーションとの親和性が非常に高いと思います。

 熟練の匠によるロボットのティーチング結果がどんな軌道になっているか、データ化が可能です。人が生み出す最適解、アウトプットがデータ化され、その因果関係がディープラーニングによってアルゴリズム化できれば、「匠のティーチングの結果」がパッケージ化されます。そういう産業向けアプリケーションが「AppStore for Machines」で広く流通するようになれば、新しい産業が立ち上がる可能性を感じます。

画像
ロボットを通じて人間の知能、認知プロセスを調べる知能ロボット研究の専門家、早稲田大学の尾形哲也教授と、産業用PCをはじめとするオープンな自動制御システムを提供するベッコフオートメーション川野俊充社長が語り合った。

オープン化の流れは適正な競争が促進される方向に向かっていく

──サードパーティでデータを売るデータブローカーの存在も注目されますが、インダストリー4.0のエコシステムのハブを担うのは、今後どういうプレイヤーになると思いますか?

尾形氏:ユーザー企業が一番近いのではと考えます。が、データは保有しているものの、どう活用すべきかわからない企業も多いです。視聴覚、触覚のように、違う分野の情報、一つの現象で起こっていることを可視化するために複数の情報を処理する「マルチモーダル」の情報処理では、ディープラーニングがトピックの一つとなっています。

 例えば、画像の認識などのように一つの情報処理だけでなく、画像の認識から説明文を生成するというように、複数の情報を応用する必要性が高まると、今後は複数のAIを統合することがカギを握ってきます。それぞれのAIがよりよいウェイト(ノード間の伝達)を出しあい、それを転移学習で別の仕事に応用するシーンも増えていくでしょう。ウェイトに価値が生まれ、コンシューマー分野では、グーグルなどがウェイトを公開する動きも出てきました。

 産業界にはまだそうした動きはありませんが、AIのウェイトの価値が高まると、どのOS、どのプラットフォームに乗るかという点も今後注視していかなければならないと考えます。

──データソースとプラットフォームは、効率化すればするほどコストが下がり、価格が下がってきます。いわば縮小するパイを奪い合う形になりますが、異なる事業者が連携するオープンイノベーションに未来はあるのでしょうか。

川野氏:総体的に付加価値の源泉が偏在し、ある程度市場の淘汰が進むのは避けられないですが、それほど将来を悲観していません。競争力のあるプレイヤーが総合的な付加価値を増加させてくれた方が社会的な意義は大きいと思うからです。

 ドイツのインダストリー4.0のやり方は、「強いところをさらに強くする」ために、国も会社も長期間にわたって集中投資をする点が特徴です。日本では特定企業に集中投資するようなやり方は難しいですが、民主主義的な投資の原則は「選択と集中」。リスクを取って投資先を選択し、投資を集中させれば大きなリターンが得られるのも事実です。オープン化の流れは適正な競争を促進する方向に向かうでしょう。

【次ページ】AIの統合で、まったく新しいアプリケーションが登場する可能性

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