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  • 2016/10/26 掲載

一般企業のリーダーは「お気持ちを表明」するだけでは無能である

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何か実現したいことがあったとき、「実現に向けたアクションを取ること」によって「本当にそれが実現する」かどうかというと、そうとは限らない。売上をあげようと指示を出したら、自動的にモチベーションがあがって成果が出るのであれば、これほど楽な話はない。先般の「天皇陛下のお気持ちの表明」に関する報道は、日本の企業にとって重要な問題を投げかけている。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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「お気持ちを表明」するしかない状況で、リーダーは何をすべきか

「お気持ちを表明」するしかない状況の歯がゆさ

 天皇陛下による「生前退位の意向がにじむお気持ち」についてのニュースがつい先日報じられ、世間の関心を集めている。

 この報道を受けて、多くの国民に去来したのは「『意向がにじむお気持ち』の表明とは一体何なのか?」という素朴な疑問ではなかっただろうか。なぜ、これが「意向の表明」ではなく、「意向がにじむお気持ちの表明」という回りくどい言い回しが必要とされたのか。

 少し詳しい報道に目を通せば、これは、退位についての規定なるものが憲法にも皇室典範にも明示されていない、という事情によるものだということはすぐわかる。

 周知の通り、天皇は、憲法のもと、国政に関する機能を持っていない。持っていなければ、規定そのものに対して直接の影響を与える政治的発言は、許されていない。だがしかし、強い思いでこれを実現したい。だからこそ「お気持ちの表明」という形式が選択されたのであった。

 単純素朴に考えれば、生前退位そのものについては、そうすべき必然性があって、筋も通っている話に思える。ならば当事者の意向通りにすればいいのに、という話であって、「政治って、回りくどくて歯がゆいものだな」と感じた人も多いのではないだろうか。

 しかし、そうは問屋がおろさない。なぜならば制度というものは、ひとつの事例を認めるということが、重大な意味を持つことがあるからだ、というのがその論である。Aという事例を認めたということが、いつしかBという事例を認める根拠となる可能性がある。これがいつの日か、意図して逆用され、本来の趣旨とまったく反する制度運用が実現されてしまうかもしれない。

 そこまで考えると、なるほど、だからこその「意向がにじむお気持ちの表明」だったのか、と不思議な感動を覚えるものである。

企業のリーダーは「お気持ちを表明」しただけで成果は出せない

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 天皇陛下の生前退位は、憲法という絶対的なルールを変えるという大きなハードルがあり、しかもそれを実現するために自ら行動できない歯がゆさがにじみ出ている。

 この「実現したいことが実現できない状況」というのは、一般企業においても存在する問題である。しかし明らかに違う点は、その実現のために、ほとんどの場合が自らのリーダーシップを活かして行動できるという点だ。裏を返せば、企業のリーダーは「お気持ちを表明」しただけで成果を出せるわけではないのだ。

 例えば、企業活動における問題の最も本質的な形式とは、売上をいかに最大化し、コストをいかに最小化するか、というものである。企業のトップの仕事とは、これを実現するための諸活動であるといっても差し支えない。

 企業は資本の回転によって存続する。まず投資があって、生産がされ、販売によって利益が生まれ、それが再投資される。この循環によって経済が成立する。こう単純に言ってしまえば、極めてシンプルな話のように見えるが、企業活動というものは、実に様々な矛盾やトレードオフを抱えて運用されている。

 もし、誰かが「売上を増やしたまえ」と指示を出せば、勝手に営業チームの技術なりモチベーションが向上し、売上増加する。このような話であれば簡単なことだが、もちろんそんなことは夢物語の世界だ。売上を増やしたまえ要求があった場合に、「いかにして実現するか」という手段を考えるのが企業のトップあるいはリーダーの仕事なのである。

 手段を考えるのは、具体的な作業であるが、具体的なだけに、選択肢が非常に幅広い。有能なマネージャーを外部から招へいするのか、広告宣伝費を増やすのか、メンバーに対するトレーニングをテコ入れするのか。現在の課題を整理するために調査は必要ないのか。調査をするとしたら、社内プロジェクトで実現するか、または外部からコンサルティングを受けるか。必要な措置は、それら選択肢の一部で十分なのか、全部が必要なのか。

 もしうまくやってプランを確定させたとしても、そこからそれを実行するのもまた至難の業である。

 有能なマネージャーは、採用しようにもなかなか見つからない。広告宣伝費を増やしてみたものの、特に効果は目に見えない。トレーニングの結果、何かが変化したようには思えない。ああじゃないこうじゃないと試行錯誤をしているうちに、時間だけが無情に過ぎていく。

【次ページ】「実現したいことを本当に実現する」ためのリーダー論

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