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  • 2016/10/31 掲載

ソニーフィナンシャルHD 井原勝美 会長が語る、FinTech戦略を支える3つの創造性

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ソニーが1979年に金融事業に進出した際、周囲からは将来性を疑問視する声が多く聞かれた。だが、その金融事業は今、業界の先頭を走り、ソニーグループ全体を支える屋台骨に成長している。なぜ、ソニーは金融事業に挑戦し、新しい顧客価値を創造することができたのか。今後どのようなイノベーションを目指し、どのような形でFinTechに取り組んでいくのか。ソニーの金融事業のトップに立つ井原勝美氏が語った。

フリージャーナリスト 小山 健治

フリージャーナリスト 小山 健治

1961年生まれ。システムエンジニア、編集プロダクションでのディレクターを経て、1994年よりフリーランスのジャーナリスト、コピーライター。企業情報システム、BI、ビッグデータ、IT関連マーケティング、ストレージなどの分野を中心に活動中。著書に、「図解 情報・コンピュータ業界」(東洋経済新報社)、「One to One:インターネット時代の超マーケティング」(IDL)、「CRMからCREへ」(日本能率協会マジメントセンター)などがある。

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ソニーフィナンシャルホールディングス 取締役会長
ソニー生命保険 取締役会長
井原 勝美 氏

ソニーグループ最大の営業利益を上げる金融事業

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 ソニーの金融事業への参入は1979年、米プルデンシャル生命との合弁によるソニー・プルデンシャル生命の設立に端を発する。これが現在のソニー生命(1991年に社名変更)だ。その後も1999年に損害保険事業のソニー損保、2001年にインターネット専業銀行のソニー銀行が営業を開始。2004年には持ち株会社となるソニーフィナンシャルホールディングスが設立され、2007年に東証一部上場を果たした。

 このソニーの金融事業の状況はどうかというと、創業から現在まで右肩上がりの順調な成長を続けており、2015年度の経常収支は1兆3,620億円。米国会計基準(US-GAAP)ベースの営業利益も1,565億円となった。ちなみにこの数字は、ソニーグループが手がけているモバイル・コミュニケーション、ゲーム&ネットワークサービス、イメージング・プロダクツ&ソリューション、ホームエンタテインメント&サウンド、デバイス、映画、音楽を含めたあらゆるセグメントの中で「ダントツ」である。

 まさに現在のソニーグループの屋台骨を、金融事業が支えているといっても過言ではない。その意味で、金融事業への参入を牽引してきた当時の盛田昭雄会長の先見の明が称賛されるところだが、そもそもそこにはどんな狙いがあったのだろうか。

矢継ぎ早な多角化にこそ成功の方程式があった

 周知のとおりソニーは、金融事業のみならず1960年代後半から1970年代にかけて積極的な事業の多角化を進めてきた。オシロスコープの米テクトロニクス社との合弁によるソニー・テクトロニクスの設立(1965年)、米CBS社との合弁によるCBS・ソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)の設立(1968年)、世界最大の電池生産量を誇っていた米ユニオンカーバイト社との合弁によるソニー・エバレディの設立(1975年)、米ペプシコ社との合弁企業としてスポーツ用品の輸入・販売を手がけるソニー・ウィルソンの設立(1979年)などが代表的だ。

 「Gartner Symposium/ITxpo 2016」のゲスト基調講演に登壇したソニーフィナンシャルホールディングス 取締役会長の井原勝美氏は、「この矢継ぎ早な多角化にこそ、盛田元会長ならではの“成功の方程式”があった」と語る。

 当時はまだ日本を大きくリードしていた米国の一流企業が持つ「商品・サービス・コンテンツ」と、ソニーが得意とする新しいコンセプトの商品を売り出していく「マーケティング能力」、業界の常識にとらわれない「マネジメント」を融合し、独創的なビジネスモデルを展開することで成功を勝ち取るというものだ。

 この方程式が、あらゆる新規事業にも一貫しているのである。「端的に言えば、ソニーは金融に関してもまったくの素人同然で、だからこそマーケットとお客さまから一つひとつ学びながら、ゼロベースでビジネスモデルを作り上げていった。それが結果として既存の金融業界にはない独創性につながっていった」と井原氏は強調する。

 例えば「他業界からの人材獲得」「フルコミッション制」「ライフプランニングを中心とする質の高いコンサルテーション」「紹介連鎖によるマーケット拡大」「ITの高度利活用」をコンセプトとしたソニー生命のライフプランナー制度など、ソニーが金融業界に革新を起こしたビジネスモデルは枚挙に暇がない。

FinTechに向けた4つのアプローチ

 今後に向けて井原氏は、ソニーの金融事業をいかなる方向に導いていこうとしているのだろうか。

 井原氏がソニーフィナンシャルホールディングスの代表取締役副社長として金融事業に移ってきたのは2009年のこと。そのとき最初に気づいたのが、「金融ビジネスは、巨大な情報ソリューション産業であること」だったという。「新しい金融商品やサービスはもちろん業務プロセスにいたるまで、あらゆるものがITシステムと直結している。すなわちITの競争力、対応スピードこそが金融機関の競争力となる」と井原氏は語る。

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ソニーのIT化の軌跡

 この考え方のもとで注視しているのが、「決済」「保険」「預金&融資」「資金調達」「資産管理」「市場予測」のすべての金融サービスにまたがるFinTechの動向である。

 そして井原氏は、ブロックチェーン技術が銀行間の新しい決済インフラとして実用段階を迎えつつあること、消費者の間にもモバイルデバイスを活用したキャッシュレス決済が普及していること、ロボアドバイザーやソーシャルトレードにより投資家の能力が強化していることなどを例として挙げつつ、ソニー金融グループとして推進していくFinTechへの4つのアプローチを示した。

 第1のアプローチは、「B2Cにフォーカスしたサービス」だ。もともとソニーの金融事業ではB2Cのサービスしか手がけておらず、「FinTechについてもB2CあるいはP2Pに関連したテクノロジーを取り入れていくことになる」と井原氏は語る。

 第2のアプローチは、「バックオフィスの業務効率化」である。例えばコールセンターや住宅ローン審査といったバックオフィスの業務においても、AIや機械学習などのテクノロジーを積極的に活用していこうとしている。

 この取り組みを支えるのが、第3のアプローチに位置付ける「ソニー本体との協業推進」で、ソニーが先行して研究開発を行っているビッグデータ解析やディープラーニングなどの成果を応用していく。

 そして第4のアプローチが、「FinTechベンチャーへの投資」である。「FinTechは新しいアイデアこそが生きる世界であり、ソニーとしてもベンチャーと連携する機会を重視している」と井原氏は語る。


【次ページ】FinTechのあるべき姿を示唆する3つのクリエイティビティ

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