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2016年11月16日

連載:医療・介護のIT化最前線

医療の包括払い制度、アウトカム評価とは何か?従来と何が違ってどういうメリットがあるのか

日本はもとより、先進国を中心に高齢化が進み、医療費の公的負担の増大が大きな問題になっている。こうした中で、世界の医療先進国で注目され、導入が進み始めているのが「包括払い制度」と「アウトカム評価」という2つの制度だ。実はその導入には、医療介護の「IT化」も密接に関連している。今回は、日本でも避けがたいものとなりつつある「包括払い制度」と「アウトカム評価」の基礎を解説するとともに、なぜ両制度が「IT化」と密接に関連するのかについても紐解いてみたい。

執筆:インキュベクス 代表取締役 上村 隆幸

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現在の日本の医療介護制度では、患者の状態やその改善は評価されない?

日本の医療介護もこうなる?包括払い制度とアウトカム評価とは?

 今後、日本でも導入されるのではないかと考えられている医療介護の制度がある。それが「包括払い制度」と「アウトカム評価」である。既に医療先進国と言われる諸外国では、これらの制度が医療介護の質の向上と、無駄の削減を目的に導入が始まっており(詳細は後述)、そこにはIT化との関連も見られる。今回はそうした「包括払い制度」と「アウトカム評価」について、IT化との関連も含めて見ていこう。

 まず「包括払い制度」とは何だろうか。これは医療や介護を提供する機関が報酬を受け取る際の支払い制度の一つであり、病名や状態ごとにサービスの値段が決まっていて、点滴などの提供をどれだけ行っても報酬が変わらないものである。

 現在の日本では、医療介護の報酬の多くは「出来高払い制度」となっている。「出来高払い制度」とは、点滴いくら、レントゲン撮影いくらというように、行った内容や回数によって報酬額が積み増されていく支払い制度である。また、「包括払い制度」と「出来高払い制度」の他に日本では導入されていないが、この他、病名や状態にも、診察内容にも関係なく、患者1人あたり1ヶ月いくらというような、患者数だけで報酬が決まる「人頭払い制度」というものもある。

 提供したらしただけ報酬の増える「出来高払い制度」と違い、「包括払い制度」や「人頭払い制度」では報酬が変わらないため、無駄な医療を抑える効果があると言われるが、反面、手抜きが発生する懸念がある。そこで必要となるのが「アウトカム評価」を始めとした質の評価である。

 医療や介護の質を評価する方法には「アウトカム評価」と「プロセス評価」がある。「アウトカム評価」は結果を評価し、「プロセス評価」は過程や体制を評価する。例えば、従業員向けの認知症の研修を行っているというのは「プロセス評価」で、歩けなかった患者が歩けるようになったというのは「アウトカム評価」である。提供したサービスの良し悪しを測るには「アウトカム評価」が向いている。

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(クリックで拡大)

「平成28年度診療報酬改定」では、回復期リハビリテーション病棟においてアウトカム評価に取り組む指針を明らかにしているが、現在は試行導入にとどまっている

(出典:『平成28年度診療報酬改定』厚生労働省)


一歩先をゆく外国のアウトカム評価と日本の課題

 では世界の医療先進国では「包括払い制度」と「アウトカム評価」にどう取り組んでいるのだろうか。

 まず、オランダでは「カルテ」の電子化が非常に進んでおり、プライマリ・ケア国際分類(International Classification of Primary Care、ICPC)という国際的に統一された形式でデータを入力しているので、関係者間の情報共有が非常にスムーズにできる。

 そしてオランダでは「アウトカム評価」に応じた報酬制度も導入されている。糖尿病や高血圧などの慢性疾患については、そのコントロールの達成度が評価され、インセンティブとして反映される仕組みとなっている。

 こうした「アウトカム評価」を報酬に結び付ける制度はP4P(Pay for Performance)と呼ばれている。P4Pは、米国などで古くから関心が持たれ、一部の民間保険で導入されている他、公的保険であるCMS(Centers for Medicare & Medicaid Services)のデモンストレーションプログラムとしても導入されている。英国では国民保健サービス(NHS)がQOF(Quality and Outcomes Framework)と呼ばれるP4Pを、が総合診療医(GP)の報酬制度に盛り込んでおり、病院医療においても用いられはじめた。

 もしかすると、IT系の人にとってはP4Pという言葉はキーワード連動型のWeb広告というイメージが強いかもしれないが、医療のP4Pの語源もまさにキーワード連動広告にあり、つまりは成果報酬であることを表している。

 一方、日本ではまだ「アウトカム評価」がほとんど報酬とは結びついていない。

 例えば、入院患者への回復期のリハビリが類似の制度となっている。日常の生活動作の自立度の改善を評価するもので、この評価が基準に満たない事業所は、算定できる加算の点数が少なくなってしまうというペナルティを受ける。

 医療機関やグループによっては、独自の「アウトカム評価」を行って、自らサービスの質の向上に努めている団体も増えているが、各自の個別の取り組みの枠を出ず、別団体との共通性はない。訪問看護を含む介護の領域でも、サービスの質評価に関する取り組みは、情報公開制度や第三者評価として存在しているが、単に介護サービス事業者の運営状況やサービスの提供状況を評価し、公表するといったものにとどまっている。

包括払い制度とアウトカム評価によって医療費抑制?IT化推進?

 では「包括払い制度」と「アウトカム評価」が導入されるメリットを考えてみよう。

 さまざまな国が「包括払い制度」と「アウトカム評価」の導入を進めるその狙いは、ズバリ医療費の抑制にある。この2つの制度は無駄な医療を減らすことができると考えられているのだ。

 日本の例で考えてみよう。日本において医療費を節約しようという意識が広がらないのは、公的な保険制度と、その「出来高払い制度」が原因とも言われる。前述のとおり「出来高払い制度」は診察や検査などを行えば行うだけ、料金・報酬が上がっていく。それが全額患者の自腹であれば、経済力を超えた医療介護は当然受けられない。

 ところが公的な保険制度が報酬の大部分を補ってくれることで、患者も医師など提供側も、金額をあまり気にする必要がなくなってしまい、保険をどんどん使ってしまう。

 とは言え、公的な保険制度を無くせば、経済格差によって受けられる医療介護の差が大きくなってしまう。そこで支払いの量を一定にすることで医療費の節約を目指そうというのが「包括払い制度」である。それだけでは手抜きが起こる恐れがあるため、「アウトカム評価」もセットにする必要があることは前述のとおりだ。

 もう一つ、「包括払い制度」と「アウトカム評価」の導入にはメリットが考えられる。日本ではあまり進んでいない医療介護のIT化が進む可能性がある。

 「アウトカム評価」を行う場合、医療介護のサービスの提供前と提供後を比較する必要が出てくる。すると、患者の状態を記録した膨大なデータを正確かつ迅速に処理する必要が生まれ、そのためにIT化が活発になると予測されるのだ。

 また、「包括払い制度」「アウトカム評価」どちらにおいても、今まで以上に効果や効率を重視したサービス提供が重要となる。そこでリアルな医療介護サービスの提供データを分析する必要が芽生え、ここでもIT活用の需要が増す。日本の医療介護のIT化ではデータが各分野や法人・グループごとに分断されていることも問題の1つであったが、支払い制度や評価制度では多くの関係機関がデータを共有する必要があるため、共有や規格の統一も進むだろう。

 つまり、「包括払い制度」や「アウトカム評価」が導入されることでIT化の促進にもつながり、逆に「包括払い制度」や「アウトカム評価」の導入にはIT活用を進める必要があるという関係性が浮かび上がってくる。

 これまで日本の医療介護のIT化が進まなかった理由には、「出来高払い制度」の中でその必要性が薄かったこともあるかもしれない。

【次ページ】訪問看護におけるアセスメントとアウトカム評価

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