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  • 2016/12/22 掲載

トランプ大統領の誕生で「もやし農家」が歓喜するワケ

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反グローバリズムを掲げ、第45代大統領に就任するドナルド・トランプ氏。株式は大きく値を上げ、反トランプを標榜していた政治家が次月と賛辞を述べている。一方で日本国内に目を向けると、賛成多数で可決されたはずのTPP法案がアメリカの離脱で骨抜きとなる可能性も出てきた。TPPによって日本の農林水産業は大打撃を受けるといわれるが、かつてグローバリズムによって生産方法や価格が大きく変わってしまった野菜がある。物価の優等生と評される「もやし」だ。ヒット商品「深谷もやし」の生みの親であるもやし農家の飯塚雅俊 氏は、グローバリズムによって格安のもやしが大量に生産されている状況に警鐘を鳴らす。

中森 勇人

中森 勇人


中森勇人(なかもりゆうと)
経済ジャーナリスト・作家/ 三重県知事関東地区サポーター。1964年神戸生まれ。大手金属メーカーに勤務の傍らジャーナリストとして出版執筆を行う。独立後は関西商法の研究を重ね、新聞雑誌、TVなどで独自の意見を発信する。
著書に『SEとして生き抜くワザ』(日本能率協会)、『関西商魂』(SBクリエイティブ)、『選客商売』(TWJ)、心が折れそうなビジネスマンが読む本 (ソフトバンク新書)などがある。
TKC「戦略経営者」、日刊ゲンダイ(ビジネス面)、東京スポーツ(サラリーマン特集)などレギュラー連載多数。儲かるビジネスをテーマに全国で講演活動を展開中。近著は「アイデアは∞関西商法に学ぶ商売繁盛のヒント(TKC出版)。

公式サイト  http://www002.upp.so-net.ne.jp/u_nakamori/

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トランプ氏と同様、もやし農家も「グローバリズム」と闘っている
(写真:Gage Skidmore/flickr,CC BY-SA 2.0)


もやし農家からみた「米大統領選」と日本の食糧事情

 米大統領選の結果を受けて「幸いだったのは、TPPに反対しているトランプ氏の大統領当選です」と語るのは、もやし農家として埼玉で農業を営む飯塚雅俊 氏だ。

 同氏は、TPPにより遺伝子組み換え大豆をはじめとした農産物の輸入が容易になり、日本の食糧事情がコントロールされてしまうことに懸念を示している。そう語る根拠は、飯塚氏がもやし農家として長年苦汁をなめてきた経験にある。

 もやしは、今や大型スーパーなどでは18円前後で売られており、物価の優等生とも評される「安い野菜」の代表格だ。しかし、以前は現在の物価に換算すると、100円を超える値がついていた時代もあるという。もやしは栽培するにあたって気候や気温の影響を受けにくいことから、もやし農家は「儲かるビジネスの代表格」と羨望の的になっていたのだ。

 その状況は、1988年に「緑豆太もやし」が登場したことによって市場は一変する。このもやしは、中国産の緑豆を育成し、茎の部分をさらに太く、根を短くして見栄えを良くしたもやしだ。栽培や洗浄の機械化やもやしを太くさせるエチレンガスの効果的な使用により、量産が可能になったことで価格破壊が発生し、小さなもやし農家は次々と廃業に追い込まれた。

 実はこの緑豆太もやし、当初は高額もやしとして登場したが、大量生産の工業製品に近い側面があるため新規参入などで価格が下落。結果的に適正価格をはるかに下回る値崩れの元凶となった背景がある。

 当時のことを飯塚氏は「大口の取引先からあっさりと打ち切りを言い渡され、月300万円以上あった売り上げが、たちどころに100万円以下になってしまった」と話す。その後も大手スーパーからの取引縮小や値引き交渉にあい、車や財産の処分、貯金の取り崩しを余儀なくされ、一時は妻と子供のために偽装離婚まで考えるようになったのだという。

グローバリズムとの闘いで生まれた「もやし愛」

 それでも飯塚氏が農家を辞めなかったのは、欧米が仕掛けてきたグローバリズムで日本古来の農業が潰えてしまうことに疑問を持っていたからだという。

 価格競争はいずれ自分たちの首を絞めることになり、消費者に本物を届けることができなくなると考えた同氏は、創業当時からのブラックマッペ(ミャンマー産)を原材料とした大気と水と自らの発熱で育つ自然に近い栽培方法にこだわり続けた。

 これは創業者である先代から受け継がれた農法で、グローバリズムの産物である「緑豆太もやし」のことを生前、「水っぽく薄い味でおいしいもやしとは思えない」と漏らしていたことに由来する。

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写真左が緑豆太もやしで、写真右が深谷もやし。深谷もやしは緑豆太もやしよりも細く根が長く、味は濃厚だ。一方の緑豆太もやしは軸が太く豆が落ち、根が除去されている味はさらりとしてほのかに甘みがある
 緑豆太もやしについて、「エチレンをかなり使っていると思われるのと、次亜塩素酸水による滅菌処理が施されていることや豆などが落ちているなどの点から、自然ではない栽培方法であることは確かですね。機械によって根を除去する過程でかなりに遺棄が発生していると予想される点も気にかかります」と語る飯塚氏はアクションを起こす。

 グローバリズムの産物である緑豆太もやしと飯塚氏の「深谷もやし」との違いを見せるために、もやし栽培キットを作り、仕事の合間を縫って実演販売に東奔西走。埼玉産の在来大豆を使ったモヤシの生育から地元企業とコラボした漬物や干物の開発など、やれることは何でもやった。

 敵地ともいえる大手スーパーのイベントに参加したときも、決してひるむことなく、18円のもやしと「深谷もやし」との比較を実施。さまざまな施策が実を結び、地元紙をはじめとしたマスコミが注目し始める。やがてキー局の全国ネットに出演することになり、ようやく「深谷もやし」が認知されることになったのだという。地道な活動をはじめてから8年後のことである。

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