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  • 2016/12/26 掲載

人口減少で疲弊するJR四国が上下分離方式を導入すべき理由

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JR北海道(北海道旅客鉄道)が営業距離の約半分に当たる大幅な路線見直しを明らかにして問題になる中、JR四国(四国旅客鉄道)も同じように多くの不採算路線を抱え、沿線人口の急激な減少に直面している。鉄道事業の赤字を経営安定基金の運用益で補おうとする経営構造も同じで、将来、大幅な路線見直しに踏み切る可能性もある。四国4県からは路線切り捨てに対する不安の声も聞こえるが、関西大経済学部の宇都宮 浄人教授(交通経済学)はJR四国に黒字経営を求める考え方に疑問を投げかける。人口減少時代にローカル線が赤字になるのは当たり前というわけで、線路など施設を国や自治体が所有し、JR四国が運行に専念する上下分離方式の採用を提案する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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朝夕の通学時間を除けば乗降客もまばらな徳島県徳島市の牟岐線阿波富田駅
(写真:筆者撮影)



乗降客がほとんどない過疎地のローカル線

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 1両編成のワンマン列車は徳島県阿南市のJR阿南駅を過ぎると、車内がガラガラに変わる。その後は駅で停車しても乗降客がほとんどない。牟岐町のJR牟岐駅で数人の乗客が降りたあとは、乗客が筆者1人の本当の“ワンマン列車”になってしまった。

 徳島市のJR徳島駅から11月、牟岐線の普通列車に乗って高知県境にある海陽町へ出かけた際の様子だ。牟岐線は徳島市から海岸沿いを南下し、海陽町にある終点の海部駅へ向かう。そこから先は徳島、高知両県などが出資した第三セクター鉄道の阿佐海岸鉄道が高知県東洋町まで列車を走らせている。

 徳島駅発の牟岐線下り列車は平日だと、牟岐駅まで特急も含めて1日15便運行している。しかし、同じ牟岐線でありながら、牟岐-海部間11.6キロは1日12便。うち、徳島から海部まで乗り入れるのは7便に過ぎない。阿佐海岸鉄道が海部駅から17便運行しているのに比べても、極端に少ない便数になっている。

 この区間はJR四国が運行する全9路線20区間の中で、1日1キロ当たりの平均乗客(輸送密度)が最も少ない。2016年度上半期(4~9月)の輸送密度はわずか261人。乗客の利便性を考慮しないダイヤからも、JR四国が力を入れてないことがうかがえる。

 沿線の海部郡は太平洋に面した農業と漁業の町。アカウミガメの産卵地や海水浴場、サーフィンの好スポットが連なる夏の観光地だが、秋から春には人出が極端に落ち込む。過疎も進み、郡内の人口は1970年の3万7,000人が半分近い2万1,000人ほどになっている。

 文字通り過疎地を走るローカル線の典型なのだが、JR四国管内で赤字に苦しむ区間はここだけにとどまらない。運行実績の数字を見ていくと、JR四国がいかに厳しい経営環境に置かれているかがよく分かる。

経営安定基金に依存した経営体質

 JR四国によると、2016年度中間連結決算の営業収入は246億円。うち、鉄道運輸収入は120億円で、前年同期を1.1%上回った。沿線の人口減少などから定期収入は1%減ったが、瀬戸内国際芸術祭の開催やインバウンド観光の好調で定期外収入は1.6%増えている。

 これに対し、営業費用は283億円。人件費を前年同期より3億円余り切り詰めるなどして0.8%削減したものの、半年間に生じた営業損失は37億円。依然として鉄道事業は厳しい状態だ。

 経営安定基金の運用益など営業外収益は58億円。経常利益は21億円で、5期連続の経常黒字だが、経営安定基金に依存した経営体質であることに変わりない。2016年度下期は設備修繕費の増加が見込まれ、通期の連結決算は営業収入500億円、経常損失19億円を見込んでいる。

 全区間を合計したJR四国全体の輸送密度は4,799人。予讃線高松-多度津間32.7キロの2万5,014人を筆頭に、本四備讃線宇多津-児島間18.1キロの2万4,077人など比較的利用の多い区間もあるが、4県都の周辺を除けばほとんどが旧国鉄時代に赤字路線として廃止対象となった4,000人を下回る。

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JR四国の路線が集中する香川県高松市の高松駅。
ほとんどの路線は赤字運行とみられる
(写真:筆者撮影)


 逆に輸送密度が低かったのは、牟岐線牟岐-海部間に続き、予土線北宇和島-若井間76.3キロの342人、予讃線(海線)向井原-伊予大洲間41.0キロの491人。これら3区間は、JR北海道が燃料費や乗務員経費もまかなえないとした500人未満の区間に該当する。

画像
2016年度上半期JR四国の区間別輸送密度
(出典:JR四国「平成29年3月期中間決算発表」)


 JR四国は路線別の収支を公表していないが、黒字は瀬戸大橋を渡り、本州と四国を結ぶ本四備讃線だけとみられている。残り8路線は涙ぐましいまでの経費節減も効果なく、赤字を積み重ねているようだ。

 JR四国の中期経営計画(2012-16年度)では、連結で20億円の経常利益計上を目標とする。2015年度は22億円と目標を達成したが、四国旅客鉄道 代表取締役社長の半井 真司氏は11月の記者会見で「ここ5年のうちにどうこうすることはないが、(やがて不採算路線を)維持するのが厳しい状況が来るのではないか」と述べ、将来的に一部路線を廃止する可能性があることを示唆した。

【次ページ】鉄道に道路予算を投入する必要も?

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