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  • 2016/12/27 掲載

プロマネの仕事は「黒子」に徹し、現場を知り、現場を巻き込み、リスクを管理すること

連載:イノベーションのすゝめ(6)

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イノベーションとは何だろうか? 普段何気なく使っているが、それがどういう定義なのか、なぜ必要なのか、どうすれば上手くいくのかは曖昧だ。本連載では、IT業界一年生の柏木亜依と共にイノベーションを一から学んでいこう。前回、新規事業のためのプロジェクト発足の舞台裏で、綿密な根回しでメンバーを巻き込み、キックオフミーティングは大成功。今回は、プロジェクトの発足とプロジェクト計画の展開に必要な、プロジェクトマネージメントの仕事を亜依が進めていく。果たして、現場のキーマンとの信頼関係を築くことができるのだろうか?

浅井 治

浅井 治

ソフトバンク勤務。愛知県生まれ。日立製作所系ソフトハウスにてオープン系ソフトウエア開発全般に携わり、その後、ジェイフォンに転職。以降、通信事業社でシステム企画に従事する傍ら、社内教育、大学講師を経て、現在、観光ビジネス、地方創生に関わるサービス企画に携わる。また、ITコーディネータ協会の各種のWGを通じて、イノベーション系の研修や人材育成に取り組んでいる。
Blog: http://asai.atso-net.jp
Facebook: https://www.facebook.com/innovation.susume/

photo
イノベーションのすゝめ(イラスト:のはらあこ)


前回までのお話
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プロジェクトマネジメントの仕事とは

先輩! ありがとうございました。おかげさまで……。



挨拶はいいから、すぐ始めなきゃ。



で、どこから始めるのですか?



これまで、皆さんに説明してきたのは、あくまでも全社を意識した話で、これを各部署に落とさなきゃいけないよね。つまり、この前作ったWBSを各担当部署に展開して詳細化するんだ。



いよいよですね。



その時、現場との間でいろいろな意見の相違や考え方が違う部分もあるだろう。それらを調整していかなきゃいけないんだ。それが、プロマネの仕事なんだ。



いや~、大変ですね。



でもね「現場を知る」という意味ではまたとないチャンスだし、現場に名前と顔を憶えてもらい、仲良くなるチャンスでもある。



そうですよね。その感覚わかるような気がします。



さっすが、プロマネ。



おだてても何もでないですよ。



特に、現場にしてみれば、いきなり仕事が振られたわけだし、反発するだろう。社長命令なので、表向きは、いい顔するかも知れないけど、本音は……。



そうですよね。



だから、現場のキーマンと本音で話ができる人間関係を築いておくんだ。「実はね」って相談されるようになれば、一人前だ。



「実はね」は私もそう思っていました……(^^);



遊ばない! 後ね、今回は、イノベーティブなプロジェクトだよね。だから、従来にプロジェクトのように、淡々と進まない。



どういうことですか?



不確実性が高いってこと。そもそも、プロジェクトとは、



・有期性
・独自性
・段階的詳細化

という特徴を持っている。
この段階的詳細化とは、まさに、全社を各部署に展開していくことだし、不確実性があることを認めこれに対処していくという考え方だ。だから、今後もいろいろな形で、「段階的詳細化」しなければいけない状態になる。そこで、いろいろな情報を集め判断し、方向を決めるのがプロマネの仕事。別の言い方をすると、現場の皆さんの悩み相談というか……。



友達の恋愛相談は得意ですけど……。



あと、この際、言っておくけど、プロマネに求められる資質は、愚直でクール、熱くなってはいけない努力家。コツコツと事実を積み上げて判断する。「黒子」に徹する。また、メンバーからの相談を受ける相談役だから、振れたり、ふらついちゃいけない。プロマネに相談すれば解決する。という安心感かな。



そんなの無理です~!



今は、無理かも知れないけど。こういう人、憧れない?



確かに、憧れますぅ。



だったら、挑戦しようよ、絶好の機会だよ。



ったく、先輩は、乗せるの上手いんですから。



そうやって乗ってくる亜依ちゃんだから……。



ありゃ~、完全に見透かされてますね。



「黒子」に徹して現場を巻き込む

じゃあ、話を本題に戻して、現場にしてみれば、これまでの仕事で手一杯だったはずだ。ここに、プロジェクトの仕事が割り込むと何が起こると思う?



そうですね~。プロジェクトメンバーとメンバーに入らなかった人に分かれるかもしれませんね。
選ばれなかった人は、「いいな~選ばれて」「今の仕事から逃れらえていいな~」「尻拭いは俺たちか」という気持ちになるかも知れませんね。



じゃあ、選ばれた人は?



「選ばれて光栄」「やったぁ!」「面白そうだ」「残った仕事片づけなきゃ」って感じですかね?



そうだね。選ばれた人、選ばれなかった人。同じ部署なので、上手くやりたいよね。



どうすればいいですかね?



プロジェクトは、会社として公式なアクティビティなんだ。だから、言ってみれば業務命令。選ばれた人も選ばれなかった人もそれぞれに責任が発生する。これをちゃんと説明して納得してもらうことが大切なんだ。これをやるのは、現場のマネージャの仕事。現場のマネージャにそう仕向けるのが、プロマネの仕事。



あれ? 現場に説明するのもプロマネの仕事じゃないんですか?



ちょっと待って、プロマネが出て行ったら、現場のマネージャはどう思う?「あいつがやるのか? だったら、俺はノータッチでいいかな?」と思われてしまう可能性がある。現場のマネージャも「巻き込む」必要があるんだよ。いいかい、プロマネは、「黒子」だよ。現場には、現場のマネージャの声の方が響くんだ。



なるほどぉ。「黒子」ってそういうことですかぁ。



まずは、先日のWBSを現場のマネージャに説明して、その現場分の作業を現場に展開(詳細化)してもらうんだ。まずは、項目を洗い出してもらい、担当を決め、スケジュール(既存の作業との段取り)。これがきまったら、担当者に根回しして、現場レベルでのキックオフミーティングを開く。



全社レベルを各部に落とした時と同じですね。



そうなんだよ。キックオフミーティングのミニ版を部署ごとに展開するんだ。大きなプロジェクトの場合は、さらに、部から課に展開するというように細かくしていくんだ。これらが、すべての作業項目、すべての部署に行き届いて初めて、プロジェクトの青写真が描けるんだ。



じゃあ、プロマネは安泰ですね!



いやいや、まだだよ。プロマネは、現場に展開した後、重要な仕事があるんだ。



えーっ、まだですかぁ?



プロマネの重要な仕事は、リスク管理だ。今回のプロジェクトは、不確実性が高いのでより重要になる。



重大任務ですね!



そう。リスク管理の第一歩は、リスクの洞察。どこまで、リスクを洞察できるかで、そのプロジェクトの成否が決まるといっても過言ではない。



そんなに言わないで、ビビッちゃいますから。



ビビっちゃいけない、冷静に考えるんだ。プロジェクト完遂。つまり製品化、事業化を進めるシナリオの中で、どこに落とし穴があるかを考える。



落とし穴、みんなで落ちれば怖くない。って言いますし。



あのね~……。落ちないようにするのが、プロマネの仕事!



冗談、冗談ですよ。
でも、どこから考えるんでしょうか?



プロジェクトの目標は「QCDのバランス」

いい質問だ。
では、プロジェクトの目標って何だった?



ちゃんとやること。製品化。売上。収支……。



それだけ?



……意地悪!



いいかい、プロジェクトというのは、QCDのバランスが目標なんだ。



QCD?



Q(品質)、C(コスト)、D(納期)だね。それにS(戦略)的な要素が加わり、売上などの事業目標がここに入る。これらのカテゴリー別に、数値目標などが達成できない要因や事件を考える。そして、QCDのバランスが崩れるところに、リスクが存在する。たとえば、開発担当者のレベルが低くて、品質が悪くなるリスク。これを回避するためには、メンバーの厳選とか、教育とかが考えられるね。このように、リストアップするんだ。その時に注意することは、そのリスクの発生確率と影響度を考える。発生確率×影響度が大きい項目が重要度が高いわけだ。



なるほど、数値化して、優先順位を付けるわけですね。



そう、察しがいいね。すべてのリスクに対処していては、時間とコストが無限にかかる。どこまでやるか? という線引きをするんだ。これは、範囲に含まれない物はやらないということでなく、「今は、やらない」という意味だ。つまり、「もしそうなったら、こうする」というところまでは考えておくんだ。あらかじめ、リスクを洗い出し、それぞれの対処を考えておく。そして、これらのリスクを「リスク管理簿」として整理しておくんだ。これがリスク管理の本質。ちゃんと対処を考えておけば、リスクもリスクでなくなるんだ。



さらに洗い出したリスクの対処で、自分自身ではどうにもならないこと。
たとえば、各担当部署にお願いしなければならないことや、社長さんに対処をお願いしたい物など、他の人にお願いするものは、あらかじめ、先方に伝えておく。「専門家の立場で考えれば、発生確率は低いよ」とか、「なるほど、そんなことも考えられるね」とか、コミュニケーションすることで、プロマネへの信頼関係も強くなる。リスクが検知されてからでは、実は……ではないよね。



「なんだ~、分かってたら、言ってよ」ってことですよね。



そうそう。プロマネは、現場を知ること。つまり、現場で何が起きているかを知る。そして、現場のキーマンを知る。このためには、積極的に現場とのコミュニケーションをとること。



じゃあ、明日から、毎朝、挨拶に行って、現場の皆さんと一緒にラジオ体操をします。



そうそう、「同じ釜飯」という感覚も必要だね。



「同じ釜飯」ってどういうことですか?



正確に言うと、「同じ釜の飯を食う仲」という意味で、包み隠さず、話合える仲という意味だ。



じゃあ、「ラジ仲」だね。つまり、毎朝、ラジオ体操をする仲。



本当にラジオ体操するの?



「プロマネ、嘘つかない!」



あっ、そう。



ところで、うちの会社の現場って、本当に、ラジオ体操やってるんですか?



知らない。でも、朝礼などは顔出しておいた方がいいかもよ。
もちろん、職長の了解をもらって。





(1週間後)

現場っていろんな人がいて面白いです。



いろいろ、勉強になるでしょう?



はい。毎日が勉強って感じです。



そりゃよかった。



現場って、ベテランから新人まで、いろんな人がいて一律じゃないって感じです。



そうなんだ。同じ命令や指示でも、相手によって使い分ける技術も必要なんだ。



職長さんって大変だな~。って思いました。



それが、わかっただけでも良かったね。現場に通った成果だね。
相手によってマネジメントを使い分けるのは、「SL理論(シチュエーショナルリーダーシップ)」という理論があり、相手の仕事に対する成熟度や能力意欲などを意識して、やり方を変えるんだ。新人には、手取り足取り教えて、ベテランにはある程度、任せて、結果の報告だけを要求する。と言った感じ。



なるほどですね~。
ところでさぁ、現場の職長さんと仲良くなって、現場主催のBBQに誘われちゃっいました。今度の週末ですって。先輩もどうですか?



え! ……。



ね~、プロジェクト上手くいかせるためでしょう? 行きましょうよ!



あっ、はっ、はい……。



よし、決まった、じゃあ、幹事さんに連絡しておきますね。



(参ったな……)



え?



いや、何でもない。



ブランドの特長と機能を整理する

それはそうと、弁理士さんから連絡があり、「てからーず」の商標登録ができたって。これが、「登録査定結果通知書」。



ほんと! うれしい! 「てからーず」格好いいっですね! これで、ブランド戦略がスタートできますね。



じゃあ、ここで、ブランドの話をしようか。



はい、お願いします、先輩。(メモの用意をして)



まず、「ブランド」って聞いて何を思い出す?



シャネルとか、グッチとか?



そうだね、じゃあ、そのシャネルとか、グッチとかをどう思う?



高級品、ハリウッドセレブ、おしゃれ、高価……。



持ってみたい?



もちろん!でも、私のお給料じゃ……。



でも、お金があれば、高くても買いたい?



そりゃあ。



では、「ブランド」の特徴を整理しよう。
ブランドは、知名度があり高級品というイメージで高根の花。でも欲しい。なぜなら、品質が確かで、持っている満足感があり、ステータスがある。



そうですね。



これは、すべて、ブランドの特徴で、ブランドの機能なんだ。ブランドの機能は、



1. 出所表示機能:知名度がある
2. 品質保証機能:確かな品質
3. 情報伝達機能:所有している満足感を味わう

ブランドというのは、このような「機能」を持っているんだ。



なるほど。



なので、その製品、サービスが、これらの機能を持っていないとブランドとしてそぐわないんだ。



普通の商品サービスでは、敷居が高いってわけですね。



だから価値があるんだ。



「てからーず」……。



たとえば、知名度を上げるために、試供品を配ろう。利用者の声を反映させながら品質を確保し、商品イメージを固める。「製品」でなく「商品」ね。
初老の男性が使って、奥様とか、お孫さんから、「格好いい」といわれるってな感じかな?



単に、製品化しただけじゃダメなんですね。戦略的ブランドによる商品化なんですね。それにしても男性って、格好いいといわれるとすぐその気になって、ホント、単純なんだから。



ドキ! でも、その通りかも知れない。じゃあ、その特徴を活用しよう。



どうやってですか?



CMとか、PV(Promotion Video)だよ。格好いいというイメージを伝えるんだ。渡辺謙さん? イチロー? だっけ?



あ! イチローのサイン欲しい~!



そういう話じゃない! 落ち着いて、落ち着いて、プロマネは焦っちゃいけない。



はい。



CMは、広告会社と一緒に考えることにして、ブランドを作り込むために何をするか? リスクはあるか? などを現場に伝え、落とし込む必要があるね。たとえば、「品質」なんてすぐにできる物じゃない。「品質」って、現場の皆さんの「こだわり」の結晶なんだ。また、プロマネとしては、適時、レビューなどのタイミングで、成果物の「できばえ」をチェックしなければいけない。何をチェックするか? についても、現場と合意形成しておこうね。



合意形成って?



ちょっと、表現が硬かったね、平たく言うと「摺り合わせ」とか「握り」というような感じだね。




【次ページ】 ようやく試作品が完成! R&Dの評価は…?

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