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  • 2016/12/28 掲載

ムーアの法則が成立しなくなる時代を、どうやって生き抜くか?

【後編】

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10月24日に都内で開催されたイベント「QCon Tokyo 2016」で、国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授 佐藤一郎氏による基調講演「ポスト・ムーア法則時代のコンピューティング」は、IT業界だけでなく社会的にも影響をもたらすと考えられるムーアの法則の限界とその先について、多くの示唆を与えるものとなりました。

Publickey 新野淳一

Publickey 新野淳一

ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。大学でUNIXを学び、株式会社アスキーに入社。データベースのテクニカルサポート、月刊アスキーNT編集部 副編集長などを経て1998年退社、フリーランスライターに。2000年、株式会社アットマーク・アイティ設立に参画、オンラインメディア部門の役員として2007年にIPOを実現、2008年に退社。再びフリーランスとして独立し、2009年にブログメディアPublickeyを開始。現在に至る。

本記事の前編はこちら

ブロックチェーンもムーアの法則の限界に影響を受ける

 さて、この講演は実は主催者から「コンピュータサイエンスが生み出す新しい社会」ということで、フィンテックやビッグデータの並列分散処理などの話をしてほしいという依頼をいただいていまして、私としてはムーアの法則の限界の影響が深刻になってきているので、これをIT業界で共有するほうが重要だと思っているのですが、やはり主催者からはフィンテックや分散処理の話をしてくださいとのことだったので、まずはフィンテックの話をします(笑)

 いま話題になっているフィンテックの多くは、実は他業種では既に使われている技術が大半で、私が知る限り本質的な新しい技術はブロックチェーン以外に思いつかないんですね。

 フィンテックには技術的な話題とそうではない話題があって。基本的に金融機関は世の中でいちばんビジネスプロセスが重い業界で、新しい技術に積極的でないのは、新しい技術を採用するにはビジネスプロセスを変えなければいけないわけですが、それが難しかったわけです。

 なので、おそらくフィンテックでいちばん重要なのは、フィンテックがブームになることでビジネスプロセスを変えることに金融機関の経営者が前向きになったというところだと思います。

 そう考えると、技術的にフィンテックの話をするとなるとブロックチェーンくらいしかない。

 ブロックチェーンはProof of Workという仕組みを採用していて、このProof of Workをどんどん続けていくと、一回あたりのProof of Workの計算コストが増えていくようになっています。

 これはムーアの法則によってコンピュータの計算性能が上がっていくことを前提にしているのですが、しかしムーアの法則に限界が来ているとすると、Proof of Workが今後も回っていくかどうか、疑問になります。

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 解決策としては、Proof of Work専用のマシンを作って一般のマシンよりエネルギー効率をよくするか、たくさんのマシンでProof of Workを処理する代わりに費用の安い電力、例えば水力発電の電力などを使うか、などがあります。そうでないと、いわゆるマイニング業者はやっていけないと思います。

 ただし、こうしたことを実際にやれるマイニング業者は多くはないので、今度はマイニング業者の寡占化が進むと、ブロックチェーンというか、ビットコインのフェアネスが維持できるのかが疑問です。

 やはりブロックチェーンではあまり前向きな話にはなりませんね。

ポスト・ムーア法則の時代のクラウドビジネスとSIビジネス

 話をムーアの法則に戻すと、ムーアの法則が成立しなくなる時代、いわゆるポスト・ムーア法則の時代には、半導体技術を前提とした計算能力の向上が期待できなくなります。

 すると、いま遅いソフトウェアはずっと遅いままです。なんとかするのにいちばん重要なのは、ソフトウェアの改良だと思います。

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 ポスト・ムーア法則の時代のクラウドビジネスは、どうなるか。

 半導体を微細化しても消費電力が下がらないというのは、クラウドのコストの大半を占める電気代が安くならないということで、さらに微細化が進んでもサーバの性能があがらないとなると、最新サーバに置き換えても計算量があがらないことになります。

 すると、計算量あたりのクラウドの利用料金は下げ止まる可能性が高い。

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 会場にいらっしゃる方はベンダやSIerの人が多いと思いますが、ポスト・ムーアの法則の時代にはサーバの性能向上や価格低下が進まないとなると、お客様は新しいコンピュータを買っても性能があがらないことに気がついてきます。

 いままではシステム更新をすれば前のシステムよりも性能が向上する、というのは暗黙の前提でしたが、それが約束できなくなります。するとお客さんは新しいシステムを買わない、現在のシステムをなるべく長期で使うというところに関心が移ってくるはずです。

 そうするとシステム開発やシステム更新で食べている事業者はけっこう厳しい時代になると思います。

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ポスト・ムーア法則の時代にコンピュータの性能を上げるには

 ポスト・ムーア法則の時代が来るとしても、われわれはがんばってコンピュータの性能をあげていかなくてはいけません。

 ハードウェアの性能向上についてはいろんな方法が提案されていて、具体的には7つぐらいのトレンドがありますが、正直なところまだ正解が見つかっていません。

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 状況としては、生物の進化で言うカンブリア紀に近い。進化の爆発状態がここ5~6年は続くと思います。

 いろんなトレンドのなかでどれも重要なのですが、ここでは主催者側の要望もあって分散並列処理などを中心にいくつかを紹介します。

 まず、メニーコア化。プロセッサのコア数を増やしていくアプローチです。

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 ただ、コア数が増えると消費電力が増えるという問題があって、そのためクロックは下げなくてはいけない。なのでこの方向がエンタープライズ系の処理に向いているかどうかは分かりません。おそらく、科学計算や機械学習に向いているでしょう。

 過去のスパコンの経験則では、コアを32個以上に増やしてもあまりいいことはない、といわれています。もしかしたらそのあたりに限界があって、スパコンと同じことを繰り返す可能性があります。

 また、ソフトウェアでメニーコアを使いこなすには、マルチスレッドプログラミングが必要ですが、これが難しいのですね。

 マルチスレッドプログラミングではテストでバグを見つけるのは難しく、網羅的にテストをしてバグを見つけるのは難しいので、ソフトウェアを科学的にとらえて理詰めでバグをつぶしていくしかありません。そのためにはコンピュータサイエンスの素養が重要になります。

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 次の方向性は、メモリを活かそうというものです。

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