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  • 2017/01/10 掲載

IR推進法成立で「誘致合戦」が過熱、日本のどこにカジノができるのか

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カジノを含めた統合型リゾート施設(IR)整備推進法が成立したばかりというのに、地方自治体の誘致合戦が早くも本格化している。有力候補に挙げられる大都市圏の大阪府大阪市や和歌山県和歌山市、神奈川県横浜市などに対し、北海道苫小牧市や釧路市、長崎県佐世保市などは地方創生を掲げ、PRに懸命だ。だが、カジノの経済波及効果については、有識者の間でも意見が分かれる。大阪商業大総合経営学部の美原融教授(公共政策)は「適切な規模、内容のIR施設が建設されれば、地域への効果は大きい」と評価するが、静岡大人文社会科学部の鳥畑与一教授(国際金融論)は「恩恵を受けるのは関連企業だけ」とみている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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アジア最大規模のカジノがあるマカオのベイエリア
(© R.Babakin – Fotolia)



関西からは大阪と和歌山が名乗り

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 IR誘致にいち早く動きだしたのが、本命の1つとされる大阪市だ。松井一郎府知事、吉村洋文市長はIR推進法の成立にそろって歓迎の声を上げたが、府と市は近く、誘致の司令塔となる推進会議を設置し、誘致を本格化させようとしている。

 府市が候補地とするのは、大阪市此花区にある人工島夢洲(ゆめしま)の北側70ヘクタール。関西経済同友会はIR誘致が年間7,600億円の経済効果を持つと試算しており、中央部100ヘクタールは2025年万博招致の候補地になっている。

 夢洲は現在も埋め立て工事が進んでいるが、もとは招致に失敗した大阪五輪の選手村用地として計画された。しかし、五輪招致の失敗後、利用計画が定まらずに市の重荷となってきた。

 府市とも関西空港2期工事や臨海部開発で多額の借金を抱える厳しい財政状況。関西経済の地盤沈下も深刻とあって、IRと万博を臨海部開発の起爆剤にする思惑が透けて見える。

 大阪府企画・観光課は「都心に広大な用地があり、事業者が自由なプランで開発できる。万博との両輪で関西を盛り上げていきたい」と力を込めた。

 同じ関西では、和歌山県和歌山市の計画も注目を集めている。市は関西空港から約1時間の距離にあるが、京都、大阪、神戸と大都市が並ぶ関西の主要ルートから離れ、深刻な人口減少に陥っている。

 市が候補地とするのは、市北部のコスモパーク加太と市南部の人工島和歌山マリーナシティ。コスモパーク加太は関西空港建設の土砂採取場跡で、大半が未利用地のままだ。和歌山マリーナシティはテーマパークの「ポルトヨーロッパ」、マグロの解体ショーを楽しめる「黒潮市場」などがあり、1994年の世界リゾート博で会場になった。

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和歌山市のIR誘致候補地となっている和歌山マリーナシティ。テーマパークの「ポルトヨーロッパ」や「黒潮市場」がある
(写真:筆者撮影)


 市は2カ所の利便性を考慮して最終的な候補地を選定する方針。IRへの年間来場者が1,000万人だった場合、市内への経済効果が2,000億円を超え、2万人の雇用が生まれるとそろばんを弾いている。和歌山市政策調整課は「関空から近く、IRがインバウンド観光の推進や地域活性化に向けた有効な手段になる」とみている。

首都圏では横浜が有力候補に浮上

 もう1つの本命といわれるのが横浜市で、IR導入を視野に入れ、2014年度から調査を進めている。2016年3月にまとめたIR検討調査報告書では、都心臨海部が候補地となった。有力視されているのは、大型再開発が計画されている山下ふ頭地区約47ヘクタールだ。

 2015年に策定した山下ふ頭開発基本計画にIRに関する直接の記述はないものの、市中期4カ年計画、都市臨海部再生マスタープランとの整合性を踏まえることが明記された。中期計画やマスタープランには、IRの導入検討が掲げられている。

 市の調査報告書によると、経済波及効果は4,100億円、地元雇用の増加4万1,000人。年間来場者は700万人を見込んでいる。地元経済界も誘致に前向きで、横浜商工会議所は5月にIR研究会を発足させた。

 横浜商工会議所は市や神奈川県内の経済団体を交えた協議会を設立したい意向で、林文子市長もこれに同調している。横浜市政策課は「都心臨海部の活性化を図ると同時に、横浜観光を盛り上げたい」と意欲を見せる。

 同じ首都圏では千葉県千葉市が2014年に幕張新都心への導入可能性調査報告書をまとめた。既存施設利用と新規開発の2例を挙げ、1,330億円から3,157億円の年間経済効果を期待している。ただ、誘致については慎重に検討する構えだ。

 東京都は石原慎太郎知事時代にお台場のカジノ構想が浮上していたが、小池百合子知事は12月の記者会見で「どうすれば1番良い形でできるのか、引き続き検討したい」と述べるにとどまっている。

九州や北海道でも誘致希望の自治体が続々と

 これに対し、大都市圏以外の地方都市も活発に動き始めた。長崎県佐世保市へのIR誘致は、市と民間事業者が2007年に研究会を発足させたほか、県と市が2014年にIR推進協議会を設置するなど、全国に先駆けて動いてきた。

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主な統合型リゾートの誘致検討自治体
(出典:各自治体公表資料、民間資料から筆者作成)


 候補地はテーマパークの「ハウステンボス」。500万人の年間来場者、2,500億円の経済波及効果を見込んでいる。県内は造船業の不振などから人口減少が著しく、観光産業に地方創生の期待をかけている。長崎県政策企画課は「IR誘致で地方へ向かう人の流れを加速させ、地方創生を実現したい」と期待する。

【次ページ】経済波及効果で真っ二つに分かれる識者の見解

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