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2017年01月12日

ローランド・ベルガー名誉会長に聞く、製造業のデジタル化のゆくえ IoTはブームか本物か

2016年はIoT(Internet of Things)やインダストリー4.0という言葉に象徴されるように、製造業の多くがデジタル化に取り組んだ1年だった。ではこの流れは今後も続いていくのだろうか。シェアリングエコノミーや人工知能(AI)がもたらすインパクト、社会の変容などについて、欧州最大の経営戦略コンサルティング会社の生みの親、ローランド・ベルガー名誉会長に、ベッコフオートメーションの川野俊充社長が聞いた。

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ローランド・ベルガー名誉会長


シェアリングエコノミー時代にものづくりはどう変わるか

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川野氏:近年インダストリー4.0(以下、I4.0)が日本でも注目されるようになり、ドイツ企業に対する関心も高まっています。私が日本法人の社長をつとめるベッコフオートメーション(以下、ベッコフ)にとって身近なところでは、当社が開発したオープンな産業用通信規格「EtherCAT」をトヨタが採用することが2016年4月のハノーバメッセにて発表され、大きな話題となりました。

 これは「ミッテルシュタント」と呼ばれる当社のようなドイツの中堅企業にとって大変光栄で勇気付けられる成果である以上に、自動車メーカーをはじめとする日本の大企業が、独自技術で差別化を図る伝統的な考え方から、標準規格を活用してオープンイノベーションを志向する先進的な考え方に転換しつつあるという象徴的な出来事として捉えています。

 I4.0やIoTなどでオープンなデジタル化社会を目指すさまざまな動向についてベルガーさんはどのようにお考えでしょうか?

ベルガー氏:いま、世間の誰もがデジタル化の重要性を語っています。たとえば自動車産業ではシェアリングエコノミーによる新しいエコシステムの重要性や、OEMがハードウェアを提供する事業からサービスを提供する事業に転換すべきであるという指摘がされています。いきなり脱線してしまうかもしれませんが、私はあえて少しシニカルな回答から入らせてください。

 世間では自動車業界のデジタル化議論を、パワートレインの変化、たとえばハイブリッド、電気自動車(EV)、燃料電池などの技術の変化に結び付ける人が多数派です。

 しかし、こうした技術にはまだまだ発展途上の側面があり、こうした変化が自分たちだけでなく、背後にある大きなサプライヤー産業にとってどのような意味合いを持つのかをしっかりと考えている人は多くありません。少なくともドイツやヨーロッパについてはそうだと私は感じています。

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(左から)ベッコフオートメーション 代表取締役社長 川野俊充氏、ローランド・ベルガー名誉会長、ローランド・ベルガー 代表取締役社長 長島 聡 氏


 自動車産業は莫大な数のサプライヤーを抱えており、この産業は車の内装、パワートレイン、そして外装などの変化に極めて顕著な影響を受けることになります。

 もし自動運転技術が実現すると、もはや車は今のような動作原理や外見である必要がなく、それこそ今私たちが居るようなこの部屋そのものが車になってしまう可能性すらあります。 こうした本質的な革新についての議論はまだまだこれからなのです。

 たとえば、本当にシェアリングエコノミーの世の中になると、トヨタやフォルクスワーゲンのような大企業も車の販売台数が減るという事実に向き合う必要が出てきます。販売だけでなく、生産設備や組織や人員も調整対象となるでしょう。

 もちろん、自動車産業そのものは今後も成長を続けます。これからの30年間で世界の人口が25億人増えると言われていますので、アフリカなど車がそれほど普及していない発展途上の市場はまだまだ成長しますが、その成長はこれまでの市場とは大きく異なるものとなります。

 車のあり方が変われば変わるほど、市場のバリューチェーン全体が進化するからです。

 I4.0やIoTによるデジタル化によって、これからの10年間で6割増か、それ以上の生産性向上が実現できるというのが私を含めて多くの人が指摘していることです。これに伴い、バリューチェーンの再構成が行われ、中間搾取層が減ることで多くの無駄の削減につながります。バリューチェーン自体が短くなることで全体のプロセスが速くなるのです。

 これは我々のビジネスに対して大きなインパクトがあり、製造業や、鉄などの原材料を供給するそのサプライヤー産業、そして最終的な顧客向けのサービス産業における大きな変化となります。

 最終的にはサービスが大きく成長するでしょう。また、バリューチェーンの残りの部分においても多くの機能が削ぎ落とされることになりますが、これはまた、多くのプレイヤーが大企業の傘下に入ることを意味するかもしれません。

 一方で、ビジネスのデジタル化が進み、ビッグデータや人工知能との融合が進めば、新たなビジネスモデルが必要となることは言うまでもありません。バリューチェーン内の力関係が逆転することもあるでしょう。

デジタル化時代の大企業はスピードと考え抜くことが大事

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「デジタル化社会の大企業に必要なのはスピードとビジネスモデルを細部まで考え抜くことです」

長島氏:Uberの例を考えると容易に想像できるかもしれません。顧客である乗客やドライバーの情報を仮にすべてUberが支配することになれば、車を選び、購買力を発揮するのが誰になるかは自明です。

 これは保険のビジネスに対しても言えますね。もし私がドライバーの運転履歴や病歴などの顧客情報を保有していたら、保険のプランだけを保険会社から購入し、BtoCの新しい代理店ビジネスを始めることで、私がバリューチェーンを支配できてしまうかもしれません。このようにデジタル化の流れは市場での支配力のバランスに変化をもたらします。

ベルガー氏:そのため、デジタル化社会の大企業にとって一番大事なのはスピードだと私は考えています。市場シェア、ブランド力、そしてもちろん品質などの強みを保ちつつデジタル化への変革を成し遂げるにはスピードが不可欠なのです。

 ただ、早く行動するのと同時に、ビジネスモデルを細部に至るまで考え抜くことが大切です。たとえば燃焼機関が本当に一部不要となるのか、どのような変化がどの産業にどんな影響を与えるのかなど、詳細まで議論が尽くされているかと言うと、残念ながら私は不十分な状況だと思います。

川野氏:なぜそのように感じられるのでしょうか?

ベルガー氏:たとえば、シーメンスは1910年には電気自動車を開発しています。シーメンスが電動機(モーター)を製品化し、これをトラムや電車、車などに既に搭載していたのです。こうした車などはミュンヘンのドイツ博物館に行くとその展示を見ることができます。

 しかし、こうした電気自動車は成功しませんでした。電力を供給するための系統や蓄積するためのバッテリーなどのインフラが整わなかったからです。技術的には、シーメンスやその他無数にある、たとえば家電メーカーなどが開発しているモーターがエンジンに匹敵する性能を出すことは可能です。

 にもかかわらず、そうした他産業の企業がトヨタやフォルクスワーゲンなどの自動車メーカーのビジネスを脅かすに至っていません。トヨタのようにハイブリッドだけでなく電気自動車の技術開発で他に比べて一歩先をいく企業の場合は尚更です。

バリューチェーンの変化の「細部」は見通せていない

長島氏:つまり世の中のデジタル化が進んでも要素技術の進歩のみでは革新は起きないということですね?

ベルガー氏:その通りです。とにかくビジネスモデルとバリューチェーン全体について、細部まで議論して緻密に設計する必要があるのです。既存の大手自動車メーカーはまだどこもこれに対する解答を見出せていない難しい論点だと私は考えています。

 ドイツの自動車産業ではBMWもメルセデスもデジタル化に対応するためのビジネスモデルをそれぞれ発表しています。ちなみに両社はカーシェアリングサービスで合弁会社を設立するといった噂もありますが、これは両社が他社に依存せざるを得ない状況を示しています。

長島氏:一社だけでは社会のデジタル革命を実現できないということですね。これは他産業からの参入プレイヤーが支配的な立場を取る可能性を牽制した動きと見ることもできますか?

ベルガー氏:そう見ることもできるかもしれません。もしその二社でカーシェアリングサービスの合弁会社が設立されれば両社で経営権を分け合うことになるため、その新事業分野においてOEMの支配力を損なうことにはなりません。

 もちろん、BMWとメルセデスそれぞれの車両を何台ずつ使うかは議論となるはずですが、最終的には顧客の付加価値を最大化できるようにその合弁企業の意思決定者が決断を下すことになります。

 特にOEMなど、多くの事業者がI4.0やIoTというトレンドをビジネスにするための決定的なビジネスモデルを見出すに至っていません。

 まず顧客を知り、何を求めているのか、事業者が何を提供できるのか、事業者が対価として何を得ることができるのか等を知ることが重要であるという全体像としての要件は誰もが把握をしています。しかし、まだその細部を見通すことができていないのです。

【次ページ】AIは最終製品とどのように「融合」するのか

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