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  • 2017/01/16 掲載

大成建設 田辺氏が語る、建設業のICT活用「デジタル化により企業内のプロトコルを変える」

建設業向けICTソリューション導入事例 大成建設

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今やあらゆる業界で活発化しているICT導入。しかし、担当者が社内教育や利用頻度を上げる仕組み作りに取り組み導入はしたものの、結局活用が進まず、高い初期費用を払って導入したサービスを解約することになったり、配布したスマートデバイスが机の引き出しの中で眠ったままになったりといったケースに陥ることも少なくない。2020年の東京オリンピックを目前に控え、超繁忙期に突入している建設業界にフォーカスしてICT導入・活用の実態をご紹介する。

約6,500社の協力施工会社が活用するICTプラットフォーム


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大成建設株式会社
建築本部建築部企画室
業務改革推進担当チームリーダ
田辺 要平氏
 大手ゼネコンの大成建設ではICTプラットフォームとして2003年からクラウド(当時はASPと呼ばれていた)サービス「建設サイト」を採用している。13年経った現在では約6,500社の協力施工会社も同サービスを活用し、図面データや各種書類の一元管理を実現している。

「ここまで活用が浸透したわけは『建設サイト』の機能が優れていた、というだけではありません」と語るのは同社 田辺要平氏。この推進を担当した人物である。田辺氏の活動は社内だけでなく、ソフトバンクが主催した建設業界向けセミナーでの講師や、企業内イノベーターを応援するInnovation Café の企画、最近ではテック系Podcastにも出演するなど、企業へのICT導入の旗振り役として注目される人物だ。

 そんな田辺氏に「建設サイト」とその活用デバイスであるiPadの導入経緯を伺い、ICT導入から定着・活用されるまでのストーリーを紐解いてみたい。

一番大事なモノはプラットフォーム


「プラットフォーム選定にあたって最も優先順位が高いのは機能ではありません」と語る田辺氏は、その理由をこう続ける。

「機能を最優先して選択すると当然後発サービスの方が優れているので、エンドユーザーが慣れた頃に後発サービスに切り替えることになります。そうなるとそのプラットフォームは発展していきません。プラットフォームと呼ぶものは、エンドユーザーに受け入れられ業務に根付かせることを前提に選定しますが、そのためには多くの人達の気持ちを変えなければなりません。そのプラットフォームを便利だと感じ、使ってみたいという気持ちへシフトさせる必要があるのです」

「ところが人の気持ちを変えるには時間がかかります。そのため長期的に安定して活用できるプラットフォームを選定することがポイントとなってくるのです。具体的にはプラットフォーム提供企業のサポート力、例えばヘルプデスク運用体制や利用者情報メンテナンスの対応スピードなども考慮しなければなりません。特に建設業界は複数の協力施工会社と一緒にビジネスをするわけですが、その協力施工会社同士の統廃合も多く、彼らと円滑に業務を進めるためには機能もさることながらサポート体制もしっかりしているプラットフォームが必要なのです」

「『建設サイト』は、いわゆるSaaSのようなものですが、私がここでいうプラットフォームは、何もクラウド上にあるものだけではありません。業務から見て発展していくためのポテンシャルを持ち合わせていて、ある一定の機能を持っているがそれ単体では中身が空っぽのものを指します。よいプラットフォームに対して、よいソリューション(新しい業務のおこない方)をセットアップしていくのです」(田辺氏)

ソリューションのセットアップ


 業界プラットフォームとしての「建設サイト」を推進している田辺氏。しかし「建設サイト」はただの箱でしかない。そこに業務やコンテンツを移行する必要がある。いわゆるデジタル化のプロセスだ。

「まずは、特定業務を『建設サイト』に移行し対象となるエンドユーザーに利用してもらう、というプロセス作りが大切です。そこで当社では、最初にCADで図面を描いている関係者を対象とし、種類も多く膨大な数の図面の管理業務を『建設サイト』へ移行しました。これだけで数年を要しています。CADというシステムを利用して従来から業務を行っているので比較的抵抗がないであろうというのが目を付けた理由です。彼らが日々作成し修正している図面を誠実にアップロード・更新してもらうのです。建築工事ではそれらが必要な関係者へ自動的にメールで通知される事を一番のメリットとして、従来型の管理手法からの移行をおこないました。これを実現させる為には、各種図面を体系立てて管理する手法を考案し、納得してもらうことも同時に必要でした」(田辺氏)

 大成建設では第一フェーズのスコープを図面とし、コンテンツの蓄積から始めた。そうすることで建設現場のエンドユーザーが「建設サイト」を活用するための動機付けができたという。

「『建設サイト』を導入した2003年当初、エンドユーザーのデバイスはパソコンのみでした。当然、パソコンの前にはほとんどいない建設現場のエンドユーザーには、この時点での活用は進みません。しかし、最新の図面が『建設サイト』上で管理されることで、事務所のパソコンからほぼ全ての最新図面を閲覧、ダウンロードできる『建設サイト』への信頼感が醸成されていき、さらに最新図面が現場で直接見られて、検査帳票として利用できたらというスマートデバイス活用へと続く要望が芽生えてきます」(田辺氏)

配布するだけでは利用されないスマートデバイス


 「建設サイト」に対する信頼感が建設現場のエンドユーザーに浸透した2011年、同社はiPadの配布を開始。

「『建設サイト』がクラウドサービスである以上、スマートデバイスは欠かせないツールです。しかし配布タイミングには慎重になる必要があります。スマートデバイスだけをいきなり配布すると、エンドユーザーは(これを使って何かやらされる…)と受け身になり利用に抵抗を示すようになります」(田辺氏)

 同社の場合、「建設サイト」に最新図面がある→その図面をスマートデバイスを使って現場で見ることができる→最新図面を取りに現場から事務所へ戻る必要がなくなる→各種検査結果も入力できる、と建設現場のエンドユーザーがメリットを感じ、業務の効率化につながる状況となっていたためiPadの活用は浸透し、さらに協力施工会社の作業員も個人のスマートフォンから「建設サイト」を活用するようになった。

「スマートデバイスの活用を垂直的に推進するためには、コンテンツが揃っていないといけません。ドラマ『24-TwentyFour』でも主人公『ジャック・バウワー』はスマートデバイスをよく使っていますが、一生懸命何かを入力するわけではありません。CTUから送られてくる最新情報を閲覧するために持っているのです。当社の場合、各種図面がコンテンツになるので、最新図面の建設サイトへの集約をiPad配布までに完了させました。iPadを配布した瞬間に現場で最新図面が見られるようにしたのです。広大な敷地や高層ビルの建設現場だと、図面を取りに現場から事務所に戻るだけでも30分以上かかる場合もあります。その時間がなくなるわけですから建設現場のエンドユーザーにとって大きなメリットです。その時、アプリの使い勝手は二の次になるのです。このようにアプリが日常業務で受け入れられるようになってから、次のステップである新しいソリューションへ発展させることが可能になります」(田辺氏)

企業内のプロトコルを変える


「デジタル化により大きなソリューションを実現させるためには、ストーリー作りが大切。エンドユーザーからすると業務スタイルが大きく変わり、変化を好まない人間の心理から当然抵抗感が生まれるものです。その気持ちを変えていくのが最も重要。新しいモノを受け入れてくれる人向けには、次のステップへ進めるようにし、そうでない人を少しずつマイノリティにしていくベクトルを機能させていくんです。そういうストーリーが描けるポテンシャルを持った要素を意識して選び、適切なタイミングで組織にインストールしていくのです」

画像
田辺氏が構想したICT導入ストーリー

「ある一定のしきい値を超えるとシステム運用にドライブがかかり、率先して推進しなくてもエンドユーザー同士で広めるようになります。とはいえ、活用度合いには3つの格差があります。支店による格差、建設現場による格差、そして個人の格差です。それらの格差を減らすために活用事例を社内展開することは重要ですね」

「私の場合、2011年当初から活用が進んでいた支店へ行き、幹部や現場事務所の方に活用方法をインタビューしました。その内容を動画にして、活用が進んでいない支店にノウハウとして展開したり、未導入の支店へ啓発的に展開したりしました。日本人は心理的に『みんなが同じ事を知っている』だけでは行動できないように思います。『みんなが同じ事を知っているという事実をみんなが知る』必要があるんです。そのためには何でもやりますよ(笑) 結果、社内の日常業務での会話がどんどん変わっていく...よいソリューションは企業内のプロトコルを変える力を持っていると思います。いま、全く同じ手法でインターナルな管理を目的にしたプラットフォームを構築して、組織に新しいソリューションをインストールしているところです」(田辺氏)

 そんな同社が採用しているクラウドサービス「建設サイト」からは、現在70万枚/月を超える図面がダウンロードされ、ユーザーIDも30,000ID以上にまで膨らんでいるという。それに伴いiPadの導入台数も当初数百台だったものが今ではおよそ2,300台にまで拡大している。

「2020年まで、建設業界はこれまで経験したことのない繁忙期となります。当社の場合は新たなシステムを導入するよりも、既存の『建設サイト』活用を徹底する方がリスクも少なく効果が高いですね。当然、新しいソリューションも導入する計画ですが、今から実施して定着まで間に合うものだけに注力します。私の頭の中には常に時間的な感覚があります。企画の立案〜構築〜定着には時間がかかりますから、今だけを見ていては駄目なんです。そのためには、自社が属する業界だけでなくテック業界の動向も思慮深く見守る必要があります」

「例えば当社のiOS アプリ『Field Pad』は、企画開発を開始したのはiPad が登場する前でした。正しい判断をするためには、知りたいタイミングでググっても駄目。日頃から様々な情報に対するキュレーション、分かり易く言うならばアンテナを張り巡らせて、その情報が自社にどのように活かせるかをイメージし続けることが大切だと思っています。それを20年くらい続けると見てくるものが確実にあります」(田辺氏)

 大成建設では2020年まで『建設サイト』とiPadを活用するというストーリーでICT活用を推進してくようだ。

田辺氏が大成建設のICT導入を成功に導いたのは、長期間利用できるプラットフォームを選定したことと、ストーリーを練って導入を推進し、大きなソリューションに仕立てていったことである。そして、実に20年近く同じプラットフォームを発展させながら利用するという貴重な経験により、見えている独特の景色がある。同氏は、常にエンドユーザーの業務を把握し、彼らがデジタル化により得られるメリットを丁寧に見出した上で、そのメリットを発揮できるタイミングで導入することを意識している。これは業界を問わず導入担当者が意識すべき考え方ではないだろうか。

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