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2017年02月21日

スマート医療機器、EHR/PHRの導入は進むか、医療ICT活用の現状と課題

クラウドサービスなどの普及に伴い、医療におけるICTの活用も進んできた。福井大学医学部附属病院の山下芳範 氏とソフトバンクの高橋宏祐 氏、MIT テクノロジーレビュー 編集長の中野克平 氏が、医療従事者と患者(ユーザー)、そしてメディアの立場から、「EHR(電子健康記録)」や「PHR(個人健康記録)」、スマート医療機器といった医療ICTの活用の現状と課題について語り合った。

執筆:フリーライター 井上 猛雄

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福井大学とソフトバンクが討論、医療ICT活用は進むのか

(© taa22 – Fotolia)


PHRとEHRの連携により、医療情報のあり方が変わる

 「第36回医療情報学連合大会」に登場した福井大学の山下芳範 氏は、まず医療系ICTの方向性について説明した。

 同大の医療情報システムは、仮想化・クラウド化を採用することで、運用管理の負担軽減や、スマートデバイスなどの新しい情報活用につなげているという。

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福井大学医学部附属病院
医療情報部 副部長
山下芳範 氏


「我々は特別なことをやっているわけではない。従来の電子カルテを仮想化し、クラウドで利用している。オンデマンド利用ではデバイスを選ばず、モバイルデバイスによって、いつでも、どこでも必要な情報をクラウドから取れるため、医療従事者のワークスタイルも変化してきた」(山下氏)

 たとえば同大の病院では、ひとりの患者に2人のパートナーで継続的にケアする「PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)制」を採用しているが、ひとりが患者のケアをしながら、もうひとりがベッドサイドでクラウドを通じてデータ記録を行う連携ができ、勤務時間も半減しているそうだ。

 さらに、ネットワークに接続されたスマート医療機器が登場し、バイタルデータを簡単に取って、そのデータを場所・時間とともに電子カルテに安全確実に記録できるようになっている。

「スマート医療機器で期待されているのは、患者の異常を検知したり、点滴がなくなる前に交換できるように知らせたりすることなどだ。病院のICT環境にかなり影響を与える可能性があると思う。IoTとクラウドの活用により、呼び出し、アラーム、波形などの情報が集約されるようになるだろう」(山下氏)

 このような仕組みは病院だけでなく、地域連携・在宅介護でも有効だ。

 たとえば、個人の健康情報を収集する「PHR(個人健康記録)」は、医療従事者だけでなく、患者側にもメリットをもたらす。スマートデバイスや次世代通信技術によって、緊急事象のみならず、行動解析から見守りを行えるため、痴ほうによる行方不明の防止にも役立てられる。

 PHRは電子健康手帳となり、電子カルテ側の「EHR(電子健康記録)」と連携することで、医療情報のあり方が変わってくる。

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(クリックで拡大)

PHRとEHRの連携は、患者と医療機関にメリットを与えるだけでなく、さまざまなサービスも創出する


 山下氏は「やがて、トレーサビリティやエビデンスとしてPHRが使える時代がやってくると思う。まだ現状では地域連携は足りないが、これらが地域で利用できれば、さまざまなサービスも生まれる。患者が積極的に参加し、主体になることで、新サービスも充実していくだろう」と期待を語った。

医療ICTサービスで医療費削減を目指すソフトバンク

 続いてソフトバンクの高橋宏祐 氏が、医療・ヘルスケア分野での取り組みについて紹介した。

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ソフトバンク
医療・健康事業推進室 室長
高橋宏祐 氏


 2014年の医療費の総計は47兆円だが、高齢化が進んだ2025年には74兆円まで膨れ上がると予想されている。そこで現政権は「日本再興戦略」のなかで、国民の健康を推進し、医療費を削減する施策を打ち出している。

 成人が人間ドックにかかると、正常のA判定はわずか7%に留まり、要精密検査や要治療は29%、残り65%が経過観察や、ほぼ正常というB〜C判定の人々だ。この約7割が病気にならないことが重要だ。彼らの未病対策が進めば、将来の医療費も削減できるからだ。

「そこで我々は、B〜C判定の人々に対して、ヘルスケアサービスを提供したいと考えている。個人のヘルスケアデータを取り、それを活用することで新産業を創出できる。そのための架け橋になっていきたい」(高橋氏)

 同社は通信事業者のイメージが強いが、医療・健康事業も行っている。すでに同社は2つの製品・サービスを投入中だ。

 2014年、通信機能付きの「スマート体組成計」を発売し、個人データを簡単に収集できるようにした。また2016年から開始した「パーソナルカラダサポート」と合わせ、日々の体に関わる21種類のデータを収集し、ユーザーの健康を守る食事と運動のアドバイスを実施している。

 一方、患者や医療従事者に利便性をもたらすサービスとして「スマート病院会計」も2016年から開始した。これは病院の診察料を、同社のケータイ料金と一緒にまとめて後払いできるものだ。

「診察後に待ち時間なしで帰れる便利なサービスだ。My SoftBankから利用登録を行い、病院の受付でスマート病院会計の旨を伝えるだけで、受付での会計が不要になる。子供や高齢者の診察料も自分の口座に合算できるため、お金を持たずに一人で病院に行ってもらうことも可能だ」(高橋氏)

テクノロジーと医療が結びつくことで生まれる課題

 続いて、モデレータを務めたKADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局の中野克平 氏は、米国の科学技術誌が医療をどう伝えているのかという観点から、KADOKAWAの「MITテクノロジーレビュー」について触れた。

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KADOKAWA アスキー・メディアワークス 事業局
MITテクノロジーレビュー 編集長
中野克平 氏


 MITテクノロジーレビューは、1899年に米国で創刊され、100年以上の歴史と権威をもつの技術誌の日本語版だが、最近ではテクノロジーの観点から、医学や治療法の動向なども掲載している。いまではIT企業も医療系の研究を盛んに行っているそうだ。

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MITテクノロジーレビューでは、テクノロジーの観点から、医学や治療法の動向なども掲載。グーグルなどのIT企業も医療系の研究を盛んに行っているという


「たとえばグーグルは、デング熱・ジカ熱の予防のために蚊の大量育成を自動化している。同社はジョンソン・エンド・ジョンソンと合弁会社をつくり、AIを利用した外科手術ロボットを開発したり、健康腕時計などのウェアラブル装置も開発したりしている」(中野氏)

 しかし、このようにITと医療が結びついてくると、従来までテクノロジー側で懸念されていた事案が、医療側でも心配されるようになってきた。

 たとえばプライバシーやセキュリティは大きな問題のひとつだ。AlphaGoを開発したグーグル子会社のDeepMindは、機械学習を使った眼疾患診断の研究を英国の病院と共同で行っていた。しかし、その病院が160万人ぶんの患者データを提供したため問題視されたという。

 中野氏は「米国でもPHRがたまるようになったが、実際に病院で正当な目的で使われるよりも、ハッキングで盗まれた回数のほうが多いそうだ。テクノロジーと医療が結びついた場合に、考えるべき問題は多い」と指摘した。

医療ICT活用の課題「データとシステムの管理」をどうすべきか

 このような問題を踏まえ、「医療ICTをどのように活用していくべきか」という観点から、次のディスカッションが行われた。

 ディスカッションにあたり、モデレータの中野氏は「PHR」と「EHR」の違いについて、個人か病院かというデータ所有権の問題を触れたうえで、医療従事者側の意見を求めた。

 山下氏は「EHRはシステム側で完結し、PHRは患者向けクラウドという位置づけだ。データ所有権という切り口で、EHRは誰のものか問われると、最終的に患者のものになる。そういう意味で切り分けは難しい」と説明した。

 さらに同氏は「医療の立場からみると、電子カルテもサービス提供がメインの話であり、病院の情報システムの面倒をみることだけが我々の仕事ではない。各種サービスを組み合わせて利便性を届けたいが、まだそれができていない」と、現状の課題を提起した。

 これを受けて中野氏は「企業がクラウドサービスを使うのも、同じように利便性が目的だ。企業側もシステムのお守りをしたいわけではない。本質的なサービスに集中できるようにすることが重要だ」と同意した。

 また中野氏は「病院の会計時に、クレカを使えないことがある。思った以上にカードが普及していない。手数料がかかり、利益に影響が出るからだろう」と現状を分析し、ソフトバンクにスマート病院会計のメリットを尋ねた。

 これを受けて高橋氏は「確かに病院ではクレカが普及していない。手数料の問題もあるが、自動精算機で素通りするなど、未払いが増える課題もある。そこでスマート病院会計では、キャリア側で身分を確認し、毎月料金を納めているユーザーしかサービスを提供しない。これによって、病院側の未収対策にもなるだろう」と回答した。

【次ページ】PHR導入で、病院・患者ともに幸せになるか

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