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  • 2017/02/22 掲載

「移民が支える」アップルと「移民を愛する」トランプが対立する理由

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ドナルド・トランプ大統領の発言は常に注目を集めると同時に物議をかもしている。中でも、1月下旬に署名した大統領令ほど多くの批判を浴びたものはない。イスラム教徒が多数を占める中東・アフリカ7か国からの入国を一時禁止するもので、司法は2月上旬に差し止めを決定。この大統領令への反対者の中には米国を代表するグローバルIT企業も多く含まれており、特にアップルのCEO、ティム・クックは明確に不支持を宣言した。米国をけん引する新大統領と、アップル、グーグル、アマゾンといったグローバルIT企業の緊密な関係に注目が集まっている。

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。

大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ (ビジネス+IT BOOKS)
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日

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移民を愛しているトランプと、移民に支えられるアップルの対立
(写真:Gage Skidmore/flickr,CC BY 2.0)



アップルはエリス島のような会社である

 「アップルはエリス島のような会社だ」とは、アップルの創業者スティーブ・ジョブズの言葉である。

 エリス島はニューヨーク湾内にあり、かつて移民検査所があった場所でもある。つまり、アップルは移民(注1)で成り立っている会社である、という意味だ。

(注1)ここで言う「移民」は、本来の移民以外に、他社で優秀だがあぶれた人たちのことも含まれている

 たしかに、米国のIT企業はいろいろな国から集まってきた人材によって支えられている。さらに、グローバルのIT企業はCEO自身が移民というケースも多い。

 グーグルの持ち株会社アルファベットの創業者サーゲイ・ブリンはロシア系ユダヤ人を両親に持ち、6歳の時にヘブライ移民支援協会の支援を受け、両親とともに、ほとんど着のみ着のままで米国に移住している。

 テスラモーターズやスペースXの創業者イーロン・マスクも、南アフリカに生まれ、18歳で単身カナダに移住。21歳で米国のペンシルベニア大学ウォートン校に入学している。インテルの元CEОアンドルー・グローブもハンガリーからの移民である。

 ほかにもマイクロソフトのCEОサティア・ナディラやグーグルのCEОサンダー・ビチャイはインド出身であり、大統領選の期間中から激しくトランプ大統領と言い争っていたアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスの養父はキューバからの移民である。

 こう見ると、グローバルで存在感を高めるIT企業の多くは、世界中から集まった優れた才能によって成り立っていると言えるだろう。

不発に終わった「オバマとジョブズの接触」

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 移民に支えられている、移民のCEOが率いているグローバルIT企業の活躍は目覚ましい。だが、それは米国内での雇用を生み出すこととイコールではなかった。

 米国内の深刻な雇用問題を解決しようと、バラク・オバマ前米国大統領は2011年2月、スティーブ・ジョブズをはじめとした12人のIT企業トップと会談、米国に雇用を取り戻す策などについて話し合っている。

 その際、ジョブズは米国の教育などの問題を指摘し、「エンジニアを増やせば、工場も増やすことができる(結果として雇用を創出できる)」と提案している。さらに、エンジニア育成のために米国で工学の学位を得た留学生にはビザを与え、米国内に留まれるようにすべきだと提案している。

 しかし、こうした提案に対してオバマは「実現のためには『ドリーム法(学歴など一定の条件を満たした不法移民の子どもたちに在留資格を与えるというもの)』の成立が必要だが、共和党の反対でうまくいかない」と答えた。この回答はジョブズを「できない理由を説明してばかりだ」と失望させた。

トランプと巨大グローバルIT企業のズレ

 オバマの後を引き継いだドナルド・トランプも、大統領就任前にIT業界のトップたちと会って雇用の創出などを要請している。

 2016年12月、トランプ・タワーに集まったのはアップルCEОのティム・クックやジェフ・ベゾス、アルファベットCEОラリー・ペイジやフェイスブックCООのシェリル・サンドバーグといった大物ばかりだ。

 そこでは海外での生産を国内に戻すことや新たな雇用の創出、海外利益を米国内に戻すための方策などについて話し合われたという。

 その後、IBМやアマゾン、インテルなどが相次いで雇用の拡大や新工場の建設などを発表しており、一定の効果はあったようにも思える。IT企業は、トランプ政権が目指そうとする雇用の創出に無関心ではないし、協力の意思を示しているのだ。

 しかし、彼らのようなIT企業が欲している人材はあくまでも、世界のすぐれた人材である。決してトランプ大統領を熱烈に支持したラストベルト(さびついた工業地帯と称される、米国中西部地域と大西洋岸中部地域の一部地域)の人たちではない。ここに、ズレがあるように思える。

 またNewsweekによると、IBМのCEОバージニア・ロメッティは「テクノロジー部門は人材不足で、50万人分のポストが空いている」と発言したというが、そのポストを埋めるのは米国人とは限らない。優秀な移民である可能性も大いにある。

 だからこそ、グローバルIT企業にとってはトランプの推し進めようとしている移民問題や入国禁止は死活問題ともなりかねないわけだ。

 アップルのCEO、ティム・クックは明確に不支持を宣言したが、グローバルIT企業のトップの中には公然と反対する者も多い。

 その一方で、イーロン・マスクのように大統領の経済諮問委員会「戦略政策フォーラム」の一員として積極的に関わっていく者、あるいは配車サービス・ウーバーのCEОトラビス・カラニックのように、いったんメンバーに入りながら移民政策への懸念から参加を辞退した者もいる。

【次ページ】「来てほしくない移民と来てほしい移民」

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