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2017年03月06日

新連載:シリコンバレーから見た米国ロボットトレンド

米国ロボット政策の今後を知るには「From Internet to Robotics」を読むべきだ

ドナルド・トランプがアメリカに製造業を取り戻せたとしても、製造業を含むあらゆる産業でのロボット活用は止まらない。「インターネットの次」として期待されるロボットに対し、アメリカでは研究開発ロードマップを連邦政府が掲げ、業界団体・アカデミア・企業との連携も進められている。本連載では、ミクロ・マクロ環境の視点を通じて、ロボットビジネスのポイントを整理したい。初回は政府や業界団体の動向など、マクロ環境について振り返る。米国でも海を渡ってやってくるロボットに危機意識を募らせ、イノベーション促進を図る活動があちこちで見られるようになってきた。

執筆:ロボットエンジニア/コンサルタント 河本和宏

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ロボットメーカーが100社以上生まれ、美的集団による独クーカの買収のように先端技術も取り込む中国こそ、アメリカが危機意識を持つ相手だ(写真はクーカのロボット)


「メイド・イン・アメリカ・バイ・チャイニーズ・ロボット」への危機感

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 ドナルド・トランプ氏の大統領就任前後から、自動車会社の工場建設や輸入関税に対する過激な発言が目立っていたのは日本の皆さんもご存知のことだろう。雇用回復のためにアメリカに工場を作り、人の雇用を生み出していくことは、新政権の成果として重要だからだ。

 実のところ、アメリカの工場における生産高は2016年に過去最高額を記録しており、製造業自体は既に復活の様相を見せている。しかしながら、内部では自動化が急速に進んでおり、たとえ今後多くの企業が工場をアメリカ国内に戻したところで、果たしてどれほどの(過去と同様の職種における)雇用が生み出されるかは不透明だ。

 自動化に対する投資が増加する環境下で雇用創出につながるのは、ロボット自体の生産に関わること、ロボットを使いこなして自動化のオペレーションを行うこと、ロボットを使った新たなアプリケーションを生み出していくことだ。それができない場合、過去に歴史が繰り返されてきたように、安くモノを作ることに長けた国との競争では敗北するしかないだろう。

 アメリカ国内では今、ロボットの需要が生まれても、今のままではその需要を取り込むのは中国のロボットメーカーになりかねないとの危機感が募っている。

 中国における、近年の政府主導のロボット産業振興施策や現場の活況を見てきた識者は、「メイド・イン・アメリカ・バイ・チャイニーズ・ロボット」という決して明るくない未来に対して警鐘を鳴らし、アメリカ政府に対してロボット産業向けの投資を促そうとしている。

 こうした声を受け、政府や業界団体ではロボットに対するコラボレーションや投資の増加を目指した取り組みが見られるようになっている。2016年12月にはアメリカ農務省(USDA)のNational Institute of Food and Agriculture (NIFA)が、農業システム向けのロボットの研究やアプリケーション開発、教育のための基金として300万米ドルを準備したとの発表があった。

 他にはNational Network for Manufacturing Innovation(Manufacturing USA)が、さまざまな業界団体やアカデミア、政府機関の間を取り持ち、コラボレーションを促進して製造業のイノベーションを生み出す活動も始めている。

 Manufacturing USAのネットワークに加盟する組織の例として、たとえばピッツバーグでカーネギーメロン大学(CMU)が中心となって設立したAdvanced Robotics Manufacturing(ARM)Instituteという非営利団体がある。ARMは今後5年で国防総省から80百万米ドル、その他支援団体から173百万米ドルを受け取り、研究開発・投資活動にあてるとのことだ。

 自動化システムの業界団体A3(Association for Advancing Automation)代表のジェフリー・バーンスタイン氏によれば、ロボット産業が成長していくドライバーとして、工場向けの投資の増加のほかに、従業員の賃金上昇や、アジャイルなビジネス展開が求められるなかでの雇用・トレーニング・リテインコストの削減があるという。

 それに伴って、工場内での従来型のロボットに加え、協働ロボット(コボット)の活用や工場の外でのロボット利用が拡大していくとのことだ。

 ロボットによる雇用機会減少の批判の声に対してバーンスタイン氏は、アメリカがロボットのイノベーションを進めていくことができれば、寧ろ雇用を増やすことができるとの立場を取り、啓蒙活動を進めている。今、手をこまねいていては、雇用は壁の向こう側の人ではなく、海を渡ってやってくるロボットに奪われてしまうからだ。

アメリカ政府によるロボット産業促進施策

 アメリカの連邦政府では、ドナルド・トランプ氏の就任前からロボット産業振興のための施策を打ってきた。日本でも有名なのは、国防高等研究計画局(DARPA)による自動運転車のレースや原発事故の災害救助をゴールに設定したDARPAチャレンジだろう。

 2004〜2007年に行われたDARPAグランドチャレンジからは、グーグルの自動運転車(現在はWaymoとしてスピンオフ)の基礎技術が生み出され、現在自動運転車の開発に関わる多くの人材が輩出された。2013〜2015年のDARPAロボティクスチャレンジでは日本のSCHAFT(シャフト)が脚光を浴びたことも記憶に新しい。

 もう一つ押さえておきたいのは、2011年のNational Robotics Initiative(NRI)設立だ。NRIはロボットの研究開発に対して資金面での支援を行っており、前述のNIFAによる基金もNRIを通じて利用可能になる。

 そして、NRIの設立の発端となったのが、2009年に初版が発表された「From Internet to Robotics」という統合的な技術ロードマップである。

 2009年のRobotics Science and Systems(RSS)会議で議論が開始され、Computing Community Consortium (CCC)と産学の120名の有識者によって策定された。

 ロボットのアプリケーションや基礎技術ごとに著名な大学の研究者が議論に参加し、産業界からも製造分野ではクーカやファナック、ABB、宇宙分野ではNASA、サービス分野ではKIVA SystemsやRethink Roboticsなどのスタートアップの経営者も名を連ねた。

 その後、党集会と政府機関でこのロードマップが提案に至り、最終的にはロードマップの提案を踏まえて2011年にNational Robotics Initiative(NRI)が設立された。その後もロードマップは2013年と2016年に更新されており、アメリカのロボット研究開発の今後の方向性を占ううえで重要な存在となっている。

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(クリックで拡大)

DARPAとNRIの変遷

(出典:From Internet to Robotics 2016 Editionをもとに著者作成)


【次ページ】アメリカがロボット技術のロードマップで見据えるもの

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