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  • 2017/03/22 掲載

「技術革新だけが市場創造ではない」 ファブリーズやデンシアが起こした属性順位転換

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マーケティング議論の中で重要なポイントの1つに、「新しい市場をどのように創っていくか」というものがある。最もわかりやすい市場創造は、これまでにないまったく新しいテクノロジーの出現によるものだ。この意味で、テクノロジーは新しい市場を生み出すのに必要な要素かもしれない。しかし、テクノロジーがなければ新しい市場というのは生まれないのだろうか? アリエールやデンシアなどが実践する市場創造のアプローチ、「属性順位転換」と「戦略PR」について考えてみよう。

執筆:フリーランスライター 中尾真二

執筆:フリーランスライター 中尾真二

フリーランスライター、エディター。アスキーの書籍編集から、オライリー・ジャパンを経て、翻訳や執筆、取材などを紙、Webを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは言わなかったが)はUUCPのころから使っている。

新しい市場は価値属性の順位転換によって生まれる

 新しいテクノロジーが新しい市場を創出することもある。では、テクノロジーがなければ市場は生まれないのかというと、そうではない。また、すばらしいテクノロジーやイノベーションによって生み出されたものが、必ず売れる商品やサービスになるとは限らないだろう。UBMジャパン主催のマーケティング・テクノロジーフェア 2017に登壇した、元P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)ジャパン、今は資生堂ジャパンの執行役員を務める音部 大輔氏は「新しい市場は、属性順位転換によっても生まれる」と語る。

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資生堂ジャパン
執行役員
音部 大輔氏

 新しい市場を創るということは、新しい商品カテゴリーが生まれるということでもある。たとえば、セグウェイのような移動ツール、ハイブッリッドカー、スマートフォン、Amazonのようなオンラインショップなどは、それ以前には存在しなかった商品(またはサービス)カテゴリーだ。一般消費財でも、P&Gの消臭スプレー「ファブリーズ」は新たな市場を創出した。

 「部屋がにおうのは空気そのものがにおうからだ」と考えれば従来の空間用の消臭剤が解決策であるが、「部屋がにおうのは洗いにくい布製品がにおうからだ」と考えれば布用消臭剤が解決策になる。「部屋がにおうという問題」あるいは「部屋のにおいがなくなって快適というベネフィット(便益)」について、「原因は空気そのものである」という属性から「原因は洗いにくい布製品である」という属性へ転換をはかることができたのが、5年以上も前に10億ドルを超えるまでに成長したファブリーズの市場創造の事例だ。

 同様に、セグウェイは「近距離の移動」、ハイブリッドカーは「いい車」、スマートフォンは「コミュニケーション」、Amazonは「買い物」を再定義した。

属性=ニーズそのものではなく、ニーズの本質はほぼ不変

 ここでいう再定義、属性順位転換は、実はニーズそのものが大きく変わったわけではない。ニーズそのものの本質部分は簡単には変わらない。変わるのは具体的な要求、ニーズの各論部分だと音部氏はいう。

 「時代とともに売れ筋車種が変わるのは、消費者ニーズが変わったからだ」と説明されることが多い。実際には、「家族でドライブに行きたい」という大きなニーズは時代を越えてひとつで、その具体化の方法が時代によって変化してきたのだ。ドライブに行くなら、「ハイパワーでスタイリッシュなクーペを(80年代)」、「快適でラグジュアリーなプレミアムセダンを(90年代)」、「子供も楽しめるミニバン/ワンボックスを(00年代)」、「家計や環境にやさしいエコカーを(10年代)」という具合だ。

 洗剤ならば「白く洗いあがる洗剤」がよしとされていた時代から、近年は「除菌効果」が求められ、さらにすすぎが早いなど「節水・時短」へと求められる商品機能が変わってきているだろう。

 属性は、商品機能、スペックなど物性的な特徴ととらえることもできるが、環境によいなど、数値化しにくい気分的な要素のこともある。

戦略PRで「空気」をつくり属性順位転換を引き起こす

 属性順位転換はどのようにして起きるのか。それには「戦略PRによる空気づくりが有効なこともある」と語るのは、ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長 本田 哲也氏だ。本田氏は音部氏のマーケティング分野でのキャリアを通じて、さまざまな商品の戦略PRを展開しているパートナーでもある。

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ブルーカレント・ジャパン
代表取締役社長
本田 哲也氏

 本田氏は「アリエール」(P&G)が成功させた属性順位転換を紹介した。その手法は、メーカーが消費者に「洗濯には除菌も大事ですよ」と説明するのではなく、「なぜ除菌が必要なのか」の理由に焦点を当てた「空気」を世の中につくることだった。

 消費者に直接除菌を訴えかけても「まあ、ないより除菌できたほうがいい」程度の反応しか得られない。ヘタをすれば「それは売りたいがための方便ではないか?」といった疑念さえ生み出しかねない。そこでアリエールは、洗濯や普段の生活の中、とくに日本の場合フロの残り湯を洗濯に使うことから、洗濯における菌の移行サイクルを示し、「キレイに洗いあがったように見える衣類にもバイ菌が残存している」ということを訴求した。

【次ページ】 ヨーグルトを「おなかの健康」から「骨のケア」へと転換したダノン

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