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  • 2017/03/14 掲載

「データ・人材・認知」で雇用創出、会津若松市は地方創生の新しいモデルになれるか

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東日本大震災から6年が過ぎた2017年3月13日、アクセンチュアが展開している「福島イノベーションセンター」を大幅に拡充すると発表した。震災復興支援の一環として会津若松市に設けられた同センターだが、復興支援からさらに進んだ地方創生の足がかりとすべく、会津若松市や会津大学との協力体制をより強化する。会津若松市が2019年までに建設予定の「ICTオフィス」などを活用し、パートナー企業を含め200名を超える体制で最先端技術の開発、実証実験に取り組んでいくねらいだ。

フリーライター 重森 大

フリーライター 重森 大

メインの活動フィールドはエンタープライズ向けITだが、ケータイからADCまでネットワークにつながるものならなんでも好きなITライター。現場を見ることにこだわり、毎年100件近い導入事例取材を行ってきた。地方創生の機運とともにITを使って地方を元気にするための活動を実践、これまでの人脈をたどって各地への取材を敢行中。モットーは、自分のアシで現場に行き、相手のフィールドで話を聞くこと。相棒はアメリカンなキャンピングカー。

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(写真左から)会津若松市長 室井照平 氏、アクセンチュア 代表取締役社長 江川昌史 氏

震災復興支援から始まったアクセンチュアと会津若松市の協力体制

 2011年3月11日に起こった東日本大震災からの復興を支援するため、アクセンチュアは同年8月から会津若松市に福島イノベーションセンターを設立した。

 その目的は、高付加価値人材や業務の一部を首都圏から移管すること、グローバル先端デジタル技術に関する知見を蓄積すること、産学官連携による実証実験を強化することの3つだった。

 アクセンチュア 代表取締役社長 江川昌史 氏は、福島イノベーションセンターの意義について次のように語る。

「かつて地方を活性化させる事業といえば、コールセンターや工場などが主軸でした。しかしこれらの事業はより人件費の安い場所に移り、最終的に空洞化してしまいます。(福島イノベーションセンターは)先端デジタル技術の研究は次世代を担う産業の育成につながり、優秀な若者の流出も防げます」

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アクセンチュア
代表取締役社長
江川昌史 氏

 2011年に会津若松市との提携を発表してから、アクセンチュアは半年かけて復興から地方創生までを視野に入れた「会津創生8策」を策定した。そこに挙げられた項目は多くの地方都市に共通する課題であり、会津や福島だけの課題ではない。

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2011年に策定された会津創生8策

 アクセンチュア 福島イノベーションセンター長 中村彰二朗 氏は、会津創生8策の策定に関わった人物だ。同氏は策定にあたって週3回、会津若松市に通っていたが、その地で生活しなければ見えないものがあると気づき、作業の途中で移住を決断した。

 週末の観光客の減少など、福島県が置かれている状況を住民として感じながら復興計画を練ったというのは、形だけの復興支援ではないことをうかがわせるエピソードだ。

「地方大学の若者が都会に就職するという流れは各地方で起きています。今はネットワークを使って仕事ができるようになり、実際に私も5年間福島で仕事をしてきましたが、特に不便はありません。むしろ、地方都市の方が新しいテクノロジーの研究、実証実験には適していると感じています」(中村氏)

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アクセンチュア
福島イノベーションセンター長
中村彰二朗 氏

復興から本格的な創生へ向けて歩んできた5年間

 原発事故を経験したこともあり、復興がはじまった当初は再生可能エネルギーへの移行や省エネを実現する技術の開発、実証が多かった。

 単に高効率な太陽光発電パネルを開発するだけなら首都圏でも可能だが、現在の消費電力をリアルタイムで可視化して一般市民に公開したらどのような効果が生まれるのか。

 実際に100世帯を対象に消費電力をリアルタイムで公開したところ、他の世帯よりも省エネ傾向が強まることがわかったという。そういった実証実験は地方都市の協力なくしては成り立たない。

 こうした取り組みと並行して、スマートシティ分野で先行するオランダ・アムステルダムと会津若松市は、2013年に連携協定を結んでいる。技術や取り組みがガラパゴス化しないよう、グローバルな視点で取り組むための協定だ。

 2014年頃から、支援の取り組みは本格的な創生へと軸足を移していった。技術イノベーションによる社会貢献が進むエストニアのタリン工科大学と会津大学が、ソーシャルサイエンス分野で提携した。

 内閣官房の「地域分散活性化モデルケース事業者」に33事業が採択されるなど、地域活性化へと歩みを進める。この頃には復興事業は被害が大きかった地域に集約されていった。

「成功例として参照したのは、デンマークのメディコンバレーです。データを使った産業クラスターとして有名で、同国のGDPの20%を占めるとも言われています。データと、それを活用する人材を集約することで、高い生産性を実現しています」(中村氏)

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会津若松市がモデルとして選んだのはデンマークのメディコンバレーの取り組み

「データ・人材・認知」を揃えて雇用創出を目指す

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 メディコンバレーにならい、福島イノベーションセンターでも会津若松市や会津大学などの協力を得て可能な限りデータを集めている。

 さらに、会津大学との連携ではアナリティクス分野で活躍する人材づくりにも力を入れる。すでに16のプロジェクトを実践した実績があり、「データと人材があり、業界最先端の取り組みが行なわれていることが認知されれば、先端企業が集まるはず」と中村氏は語る。そうすれば雇用創出にもつながり、地域活性化の効果を住民にも還元していける。

 「政府は地方創生に30年間取り組んできましたが、公共工事と工場誘致くらいしか実効性のある手段を持っていませんでした」と語るのが、総務大臣補佐官 太田直樹 氏だ。

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総務大臣補佐官
太田直樹 氏

「会津若松市はそれらとは違い、テクノロジーで雇用を生み出そうとしています。公共工事や工場誘致では考えられなかった高付加価値人材が地域で活躍できるようになる施策であり、総務省としても引き続き支援していきたいと考えています」(太田氏)

【次ページ】ソフトとハードの両面からアプローチ

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