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  • 2017/04/20 掲載

東大 暦本教授やさとなお氏ら提言、AIや8Kは「体験の価値」をどう拡張できるか

東京国立博物館がアイデアソン開催

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3月11、12日の2日間、東京・上野の東京国立博物館(通称「トーハク」)は「訪日外国人の記憶に残る日本文化体験」をテーマに、ICTを活用した鑑賞の可能性を探るべく、アイデアソンイベントを実施した。2日目の表彰式の後には、かつて電通でコピーライターやCMプランナーとして活躍し、現在はコミュニケーション・ディレクターとして活動する佐藤尚之氏をファシリテータに、アイデアソンの審査員を務めたラジオDJ サッシャ氏、ライター 橋本麻里氏、東京大学大学院情報学環 教授 暦本純一氏、東京国立博物館副館長 松本伸之氏の4人の審査員によるトークショーが行われた。年々、増える訪日外国人に「記憶に残る日本文化体験」を提供するために、ICTをどう活用すればよいのか。

フリーライター 中村 仁美

フリーライター 中村 仁美

大阪府出身。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在は主にIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。ネコと歴史(古代~藤原時代、戦国時代)好き。

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ICTで訪日観光客の日本文化理解は進むのか。東京国立博物館でトークショーが行われた。


出身国別の博物館の楽しみ方

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コミュニケーション・ディレクター
佐藤尚之氏
佐藤氏:まずは日本人と外国人で、展示物の楽しみ方に違いはあるのかという点についてお話を聞かせてください。

松本氏:大まかに言うと中国の方は、中国のモノが並んでいる東洋館に先に行く人が多い。東南アジアでもタイの方は今日本ブームなので、食べ物など日本文化を深く体系的に楽しんでいます。一方、欧米の方は私たちが思う以上に、あまり日本を知らないように思います。侍や禅、刀、着物ということは知っていても、それらを時代感覚で捉えることはない。まだまだ遠い国という印象です。

サッシャ氏:ヨーロッパの方たちとアメリカ人では興味の矛先が変わると思います。たとえばアメリカは歴史が短いので古いモノに関心を示す。一方、ヨーロッパは歴史があるので古いというだけでは関心を持たないが、木や紙という非常に傷みやすいモノが長く保持されていることに対して敬意を持つ。

 今や多くの人がメディアを通して日本という国を知ります。そこで取り上げられるのは古いものだと浮世絵や刀、甲冑、近代や現代ものだと漫画やアニメなどです。トーハクは日本の中で総合的な位置を担う博物館です。だからこそ、トーハクに行けば甲冑や刀が壁一面に並んでいるのではと期待するんですよ。しかし実際に訪れると、そんなに並んではいない。そういうギャップはあると思います。

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ライター
エディター
永青文庫副館長
橋本麻里氏
橋本氏:数の問題もあるかもしれませんが、たとえばルーブルといえばモナリザ、大英博物館といえばロゼッタ・ストーンというような、アイコニックな展示物がないことも課題だと思います。

松本氏:仕方ないんですよ。日本美術は色が抜けやすかったり、材質そのものが傷みやすかったりするので、出しっぱなしにすると傷みが進み、おそらく数年で価値がなくなってしまう。一見、堅牢な材質でできていると思われるお茶碗でも2~3カ月で入れ替えなければならないのですから。

サッシャ氏:物理的に常時展示できないモノをITで解決するというのはいかがでしょう。

3Dプリンター、AI、8Kカメラなどで博物館体験に価値を生む

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東京大学大学院情報学環 教授
暦本純一氏
暦本氏:ICTでリアルにあるもののイミテーションをつくることにはあまり価値を感じません。リアルな迫力に勝るものはないからです。今のVRで再現できるのは視覚と聴覚、一部触覚です。たとえば料理をVRで再現できたとしても、食べるという体験はできませんよね。博物館の体験もそれと同じだと思うんです。

佐藤氏:では博物館や美術館で価値が高まるICT活用例としてはどんなものがありますか。

橋本氏:1つ、ICTの可能性として考えられるのは実際のモノに触れられる、体験できるという部分です。たとえば京都近代博物館では「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」という展覧会で、3Dプリンターを活用し「長次郎の万代屋黒(もずやぐろ)」という茶碗のレプリカを展示していました。レプリカといっても、実際の重さを再現しているので、近似的な体験ができる展示となっていました。

暦本氏:1つは、音声ガイドもその人が聞きたいことだけを話してくれるようなものができれば価値が高まると思います。現状の音声ガイドに見かけは似ていても、AIを活用してその人が何に関心があるのか、どこをずっと見ているかなどを即座に分析して解説すれば、まるで詳しい人がそばについて説明してくれるような、よりリッチな体験ができるようになると思います。

 もう1つは8K映像や画像の活用です。たとえば長野県小布施町の岩松院には葛飾北斎の天井絵があるのですが、現場に行っても暗くてよく見えません。それを8Kカメラで撮影し、その映像を見ることではじめて北斎の絵をつぶさに見ることができました。肉眼をも超えたスーパーリアルなシチュエーションを再現することに、デジタルを活用する価値があると考えます。

佐藤氏:AIによるキュレーションと8Kカメラの活用ですね。

暦本氏:今の博物館は展示されているものを見ても、世界とのつながりがわからないんですよ。モナリザが描かれた16世紀は、日本では室町から戦国時代と転換していった時代です。そういうことがぱっとつながるようなことができると、訪日外国人にもわかりやすいかもしれません。

橋本氏:歴史年表みたいなものを参照できる仕組みを提供するということですね。

佐藤氏:展示物にスマートフォンをかざすと、自分たちの国の時代が見えるということは簡単にできますよね。

【次ページ】博物館でITはどう活用されればよいのか?

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