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  • 2017/04/24 掲載

食品業界も注目、川崎重工業の産業ロボット「duAro(デュアロ)」はなぜ売れるのか

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川崎重工業といえば、日本の産業ロボット業界をリードしてきた存在だ。大小問わず多種多様なロボットを取りそろえる同社だが、これまでのロボットは導入までに何か月もの時間がかかり、ライフサイクルが短い製品の生産には使えなかった。このような問題を解決すべく開発されたのが、双腕スカラロボットの「duAro(デュアロ)」だ。1本の軸に2本の腕を持ち、人と共存できる、移設が簡単といった特長を持つ。2015年に販売が開始されて以降、食品業界を中心に話題を集め、累計2000台以上を売り上げるデュアロだが、実は意外なほどに短期間で開発された産業ロボットだった。

フリーランスライター 大澤裕司

フリーランスライター 大澤裕司

フリーランスライター。1969年生まれ。月刊誌の編集などを経て、2005年に独立してフリーに。工場にまつわること全般、商品開発、技術開発、IT(主に基幹系システム、製造業向けITツール)、中小企業、などをテーマに、雑誌やウェブサイトなどで執筆活動を行なっている。著書に『高すぎ? 安すぎ!? モノのねだん事典』(ポプラ社)『これがドクソー企業だ』(発明推進協会)、共著に『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ)がある。

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川崎重工業のロボット「duAro」(写真右)ヒットの秘密
(提供:川崎重工業)


川崎重工業の双腕スカラロボット「duAro(デュアロ)」

 日本ではじめて産業用ロボットを送り出し、以来約50年にわたり業界をリードしてきた川崎重工業。現在、最大可搬質量が3kg~1.5tまで取り揃えているが、中でも異彩を放っているのがduAro(デュアロ)である。

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双腕スカラロボットduAro
(提供:川崎重工業)

 デュアロは2015年6月に発売された双腕スカラロボットで、最大の特長は、人間と同じ空間でともに作業することを可能にしたこと。ヒト一人分のスペースに設置できるほど本体をコンパクトにしたことに加え、衝突検知機能を搭載するなどして安全性に最大限配慮し、安全柵なしでも人間と一緒に作業することができる。また、ラインを変更することなく設置できるほか、アームを持ってのダイレクト教示にも対応していることから、現場の作業者でも簡単に取り扱える。メーカー希望小売価格は280万円(オプション含まず)だ。

 これまで同社が手がけてきた産業ロボットとはかなり趣を異にするデュアロ。いったい、どういう経緯で誕生したのだろうか。

中国の工場を見てわかった、ロボットが使えない理由

 話は2014年春にさかのぼる。ロボット事業を担当する橋本康彦常務執行役員が、とある講演で自社のロボットについて話をした。この話を聞いていたとある会社の社長に言われたひと言が、デュアロ開発のきっかけになった。

「その会社の社長は、弊社のロボットに『興味があります』と言った一方で、『ただし、今のままでの当社の製造工程では使えません』とも言いました。こう言われ橋本は、『何か足りないところがありますか?』と尋ねたところ、その社長に『それは、一度私どもの工場を見に来ていただければわかります。今のラインアップでは対応できないことが、すぐ理解できますので、ぜひ一度、工場を見に来てください』と言われました」

 こう話すのは、精密機械カンパニー ロボットビジネスセンター FA・クリーン総括部 総括部長の長谷川 省吾 氏。これがきっかけで、2014年8月、橋本氏と長谷川氏を合わせた4名で、中国にあるその会社の工場3か所を訪れる。

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川崎重工業 精密機械カンパニー
ロボットビジネスセンター FA・クリーン総括部 総括部長
長谷川省吾 氏

 その会社は、スマートフォンの部品を製造していた。スマートフォンは半年から1年でモデルチェンジするため、部品の生産ピークは生産開始から3か月後まで。販売予測を元に発売から3か月間でつくり溜めをし、この後は売れ行きを見ながらの生産になる。売れないと思ったら生産中止になり、新たな部品の生産に移る。

 ロボットを導入できない理由は、生産期間の短さにあった。長谷川氏は次のように語る。

「ロボットはお客さまとの打ち合わせから仕様を決め、それから生産ラインに合わせて設計に入ります。納入後の教示や動作確認などを経て、ラインで稼働するまでに早くて3か月かかります。

 生産設備は長くても半年ほどしか使わないのに、3か月もの時間をかけて自動化設備を導入することなどできません」(長谷川氏)

 そこで川崎重工業では、その会社でも使える、生産期間が短くても導入できる新型ロボットを1か月後に提案することを約束した。

 さっそく、工場からホテルに戻る道中の約90分間で、新型ロボットのアイデアをまとめることに。4人全員が集中し、人と協調できること、安全柵がいらないこと、可搬式であること、移設が簡単かつ自由にできること、双腕であること、教示が簡単なことを基本コンセプトに、簡単に作業者と入れ替われるロボットの素案をまとめ、デッサンも描いてしまった。日本に帰ってからこの素案を肉付けして、デュアロの企画が完成。1か月後、その会社に提案したところ、気に入ってもらえたという。

弁当づくりのデモがきっかけで、食品業界が注目

 デュアロは2014年12月には試作機が完成。2015年6月には「JPCA Show(国際電子回路産業展)」にプロトタイプを出品して、同年10月に量産機の販売を開始した。短期間で開発できたのは、ベースとなるロボットに用いた信頼性のある部品を使えたことが大きかった。

 現時点での販売台数は累計2000台以上。これまで発売してきたロボットに比べて比べ物にならない勢いで売れている。引き合いも多く、今までロボットを使ったことがなかったところが、自動化するためにデュアロに関心を持っているとのことだ。

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プリント基板への電子部品の実装。部品が変わっても、ハンドを変えれば対応できる
(筆者撮影)


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 デュアロのターゲットは電機・電子機器業界だが、2015年12月の「国際ロボット展」に出品したことをきっかけに、食品業界から大きな注目を集めるようになった。

 理由は、両腕を使って弁当の中に醤油やソースを入れた容器を詰めるというデモにあった。「両手操作の利点をアピールすることを目的に、弁当づくりのデモを行ったのですが、これが食品業界の人たちの目に留まりました」と長谷川氏は語る。

 これがきっかけで、食品業界からロボットを使った自動化に対する引き合いが増加。関心の高さを受けて、簡易食品対応のデュアロをラインアップしたほどである。

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弁当に醤油やソースを入れた容器を入れるところ。片方のアームで容器を持ち、もう片方のアームは容器を入れやすいよう揚げものを持ち上げている
(筆者撮影)


【次ページ】ペッパーとのコンビで、工場以外での活躍も目指す

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