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  • 2017/05/08 掲載

なぜマイクロソフトは急速にデジタルトランスフォーメーションへと舵を切れたのか?

日本マイクロソフト CTO 榊原 彰氏に聞く

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マイクロソフトは、サティア・ナデラCEOのもと、ビジネスモデルをライセンス販売からクラウドへと変革しようとしている。社是も新しく変えて、マイクロソフトの社員が持つべき世界観や行動規範を変革してきた。そこには、もはや一社では市場の要請に対応できないという危機感があった。この変革を進める手段として、AIやIoTも活用し、まず自社でショーケースを実施し、得た知見を組み合わせて顧客に広げようとしている。マイクロソフトにとってデジタルトランスフォーメーションとは、経営変革の手段なのだ。日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者(CTO)の榊原 彰氏に、いまマイクロソフトが推進している改革の取り組みについて、事例を交えて話をうかがった。
(聞き手:アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰)

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日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者
榊原 彰氏

強いリーダーシップのもと、ライセンス販売からクラウドの提供へ

野間氏:これまでに、マイクロソフトはどのようなデジタルトランスフォーメーションを実践してきたのでしょうか?

榊原氏:ご存知のように、我々はライセンス販売をずっとビジネスの中核にしてきました。いまもマイクロソフトと言えば「WindowsとOfficeの会社」というイメージを持たれる方も多いでしょう。しかし今期(期末は6月末)は、売上の半分以上をクラウド関連で占めるように努力しているところです。これは弊社の代表取締役 社長、平野 拓也が昨年コミットした数字です。絶対に無理ではありませんが、決して楽な数字でもない。ちょうど良い目標設定です。

 そこで、まず我々はライセンス販売からクラウドへ変革できるように、デジタルトランスフォーメーションを進めています。かつてマイクロソフトはモバイルの波に乗り遅れたという強いご批判をいただきましたが、いまはソフト面でiOSやAndroidなどのマルチデバイスに対応するサービスを提供したり、かなり姿勢も変わってきていると思います。

野間氏:このような変革を、どなたが主導されてきたのですか?

榊原氏:2014年にCEOに就任したサティア・ナデラの意向で変わりました。彼は前提として「いろいろな技術や改革を1社だけで達成できる企業は世の中にない」と考えている人です。昔のように唯我独尊的な態度では、時代に生き残っていけないことを深く深く理解しています。すごくオープンマインドな人で、彼がCEOになってから社是も変わりました。

 ビル・ゲイツの時代は「すべての家庭にPCを!」というミッションでしたが、ナデラは新たに「地球上のすべての個人と組織が、より多くのことを達成できるようにする」と社是を定めました。社会的に責任のある企業として行動すべき、という大命題は、これまでビジネス一辺倒だったマイクロソフトの社員が長らく忘れていた感覚でしょう。

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新CEOのサティア・ナデラ氏は、新しいミッション「地球上のすべての個人と組織が、より多くのことを達成できるようにする」を発案

野間氏:そうはいっても、御社のような巨大企業が方向を転換するのは容易なことではないように思います。社内では、どういった動きがあったのでしょうか?

榊原氏:ナデラは「One Microsoft」という合言葉で改革に乗り出し、チームを再構築しています。これまでは社内で同じようなプロジェクトがいくつも動いていました。Windowsにしても95系やNT系、Embedded系などのラインがあったのですが、それらを1つにまとめました。その象徴はWindows 10の「UWP」(Universal Windows Platform)です。Raspberry Pi(ラズベリーパイ)のボードに入れるような小さなコアから、84インチの大画面を備えるSurface Hubのようなデバイスまで、同じコードで動かせます。従来の開発体制では考えられなかったことです。

「売りまくる」のではなく、オープンなエコシステムをつくる

野間氏:開発面で大きな改革があったわけですね。営業面についてはどうですか?

榊原氏:営業面もかなり変わりました。昔のように「売って売りまくれ」という体制ではなくなりました(笑)。以前は年に1回、中間レビューに当たる「ミッドイヤー・レビュー」が開かれていました。これは本当に大変だったと聞いていますが、今年から廃止されて、レビュー自体が簡素化されました。

 もはや、売って売りまくれという時代は終わり、クラウドやモバイルで「オープンなエコシステムをつくること」に、我々の存在価値があると考えているのです。ビジネスモデルという点で、コンピューティングの世界は、いま従量課金にどんどん移っています。我々はプラットフォーム企業として、ITパワーを通じて、ガスや石油と同様の提供方法に移行することで自身を変えようとしているわけです。

 たとえば企業向けのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」は、いまやインスタンスの3分の1近くがLinuxで動いています。そこでリリース当初の「Windows Azure」という名称から、Windowsを取り除いて現在の名前に変えたのです。レッドハットと提携したり、オープンソースのコミュニティにも貢献し、業態もかなり変化してきます。

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アクト・コンサルティング
取締役 経営コンサルタント
野間 彰氏

野間氏:社員のマインドまで含めて、大きく改革を進められたわけですね。

榊原氏:マインド面でナデラがよく語っているのは「Growth Mindset」(成長することを心がける)です。彼は「自分が良くなり、組織がより良い機能を発揮するためにどうすべきか、お客様の環境・システム・仕事を改善するにはどうすべきか」ということを唱え、行動規範として全社員に伝えています。

野間氏:具体的に社員の心持ちが変わったような、生々しい事例はありますか?

榊原氏:そうですね、たとえば社員評価システムが変わりました。昔は「上位何%が優秀」という形で評価していたのですが、現在は「他者と協力してビジネスにどのくらいインパクトを与えたか? どう他人に貢献したのか?」も評価の重要な軸になりました。他人というのは、顧客だけでなく、同じチームやパートナー、自分と関わる人々も含まれています。

野間氏:KPIでも売り上げでもなく、顧客貢献や周りをどのように変えたか、そういう方向に向かったのですか?

榊原氏:一部はそういう方向に行きました。製品やサービスの売上は重要指標なので必要ですが、たとえばクラウドなどは契約数がKPIではありません。お客様が契約しても、使わなければ意味がないからです。お客様がクラウドをどれくらい使っていただけているのか、それが指標になります。営業は契約を取ってきただけでは評価されず、インセンティブをもらえません。

デジタルトランスフォーメーションの推進に向けた4つの柱とは?

野間氏:営業は、評価システムにおいて、いかに顧客にクラウドを使ってもらえるかも含めて評価されるので、契約後も顧客貢献について努力しなければいけないということですね。

榊原氏:そうですね。我々はデジタルトランスフォーメーションの推進に向け、「よりパーソナルなコンピューティングの創造」「インテリジェントなクラウドプラットフォームの構築」「プロダクティビリティとビジネスプロセスの改革」という考えに基づき、「お客様とつながる」「社員にパワーを」「業務を最適化」「製品を変革」という4本柱のもとで、製品やサービスを提供しようとしています。そのために、まず自社でショーケースを実現し、これを顧客に広げているところです。

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デジタルトランスメーションに向けたマイクロソフトのアプローチ。3つの考え方と4つの方針にまとめられる

野間氏:この4つの柱で推進していることについて、具体的に教えてください。

榊原氏:たとえば「業務を最適化」する点では、「働き方改革」があります。昨年弊社は「テレワーク勤務制度」を導入し、自宅以外でも就業できるように規則を変更しました。利用日数に制限はありません。またフレックスタイム制度も見直され、通常の会社では何時から何時までは会社に出社しなさいという「コアタイム」があるかと思いますが、マイクロソフトにはありません。

 2011年に品川にオフィスを全統合した直後に、東日本大震災が起きました。そこで有事に備えて、テレワーク、モバイルワークを急速に進めました。もともと品川のオフィスは、モバイルワークを前提としたフリーアドレス制です。大地震の騒動で、モバイルワークにも拍車がかかりました。

 電話会議が必要であれば、小さな専用ブースで行えますし、カフェテリアにもコンセントやディスプレイを準備し、どこでも作業ができる環境にしました。またモバイルワーカーが使えるサテライトオフィスも用意しています。物理的な面だけでなく、ITの仕組みもクラウドベースに徐々に変えていきました。

【次ページ】 なぜ日本は世界から遅れている? トランスフォーメーションはCEOの「変革力」そのもの

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