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2017年05月02日

イーロン・マスクのAI新会社「ニューラリンク」がテスラ、スペースXより無謀なワケ

イーロン・マスクは人類の未来をより良いものにしようと、テスラでの自動運転開発やスペースXのロケット開発といった野心的な起業を続けている。2017年3月、同氏が新たにCEOを務める新会社「Neuralink(ニューラリンク)」が発表された。ニューラリンクの目的は脳とコンピュータを接続すること。人類よりも高い知性を持った人工知能(AI)と脳がリアルタイムに通信し、人工知能の高い処理能力を活用すると共に、人工知能が暴走する「シンギュラリティ」の危機を回避しようというビジョンを持つ。SF作品のような製品は果たして実現可能なのだろうか。

執筆:佐藤 隆之

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イーロン・マスクの新会社「ニューラリンク」の挑戦

(写真:Steve Jurvetson/flickr,CC BY-SA 2.0)


シンギュラリティ時代は人類と人工知能の共生が必要

 人工知能技術の進歩は目覚ましい。クイズや囲碁といった特定の状況下では人間よりも高い成績を記録するようになった。最近では、医療・法務・資産運用といった専門的な分野でも人工知能技術が実用化されている。オックスフォード大学の調査では、現在ある仕事の4割は人工知能によって取って代わられるとされた。

 人工知能はハードウェアと組み合わされて、より大きな社会的影響を持つ。自動運転車の開発がその最たる例だ。

 周囲の状況を適切に判断して走行できる車が開発できれば、人間が運転する必要はない。自動車に加え、人工知能を搭載したロボットの活用は広がっている。ロボットを使って完全自動化を目指すアディダスの「スピードファクトリー」や、ソフトバンク「ペッパー」のようなサービス業に利用されるロボットなど、応用例は尽きない。

 人工知能の発展が続けば、近い将来には人間の知性を超えてしまうかもしれない。このような仮説は「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼ばれ、多くの議論を呼んでいる。人間を上回るほどの高い知性を有した人工知能は、自分自身を加速度的に成長させるようになり、人間の理解を超えるような反応を起こす可能性がある。その現象は人間には予測不能なため、SF作品に見られるような人工知能の「暴走」が懸念されているのだ。

 シンギュラリティを人類の危機ではなく、発展の契機にしなければならない。つまり、人工知能と人間の知性の共生関係を築く取り組みが必要とされている。膨大なデータを処理・分析するのを得意とする人工知能が「暴走」を起こさないよう、倫理的な判断を行える人間の脳と連絡を取り合えばよいのではないか。そのようなビジョンを持って新会社を立ち上げたのが、現代最高の起業家とも呼ばれるイーロン・マスクだ。

ニューラリンクは埋め込み機器によって脳と人工知能を接続する

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 テスラやスペースXの創業者として知られるイーロン・マスクは、2017年3月、新会社「ニューラリンク(Neuralink)」の立ち上げを発表した。ニューラリンクは脳と人工知能を接続する「ブレイン・マシン・インターフェース」の開発を目的とする。人間の思考を直接コンピュータへ送信し、人間よりも高い処理能力を有する人工知能の英知を最大限に利用するのがねらいだ。

 人工知能の性能が向上し続けていくとすると、人間とコンピュータの間で情報をやり取りする経路がボトルネックになる。現在、人間がコンピュータへ指示を与えるには、キーボードを叩くのが主流だ。スマートフォンで文字をタイプしている際の情報量が毎秒10ビット(情報量の最小単位)であるのに対し、コンピュータ同士は一兆ビットで情報交換できる。

 多くの情報量を通信する技術が、人間と人工知能の共生関係を築く助けになるとイーロン・マスクは指摘した。人工知能を暴走させないようリアルタイムに制御するので、その有用性が保てるのだ。

 イーロン・マスクには、シンギュラリティの懸念を解決するビジョンがある。夢物語のような新会社に聞こえるかもしれないが、具体的な製品開発ロードマップも報じられている。

 まず、脳卒中や脳腫瘍などで損傷を負った患者の行動を支援するため、4年以内に脳内埋め込み型の器具を開発する。そこで得た知見・収益を基に、人間とコンピュータが高速通信できる仕組みの研究を進めるという。そして、人工知能技術がより進歩し、人体へのリスクが軽減されるにつれ、人間と人工知能の融合が実現される。

 イーロン・マスクは健康な人間が脳内に埋め込み型器具を装着してコンピュータと対話するようになるのは、10年以内の話だと語っている。テスラなどの経営でも製品リリースの展望については楽観的な見方を続ける同氏であるが、ニューラリンクの製品がどれだけ患者に効果があり、かつ、健康な人への器具装着を認める法規制が進むかという点を、10年以内に製品開発が実現する条件として挙げた。

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(クリックで拡大)

ニューラリンクの事業構想


MRIよりも正確なブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を活用

 ニューラリンクが開発するブレイン・マシン・インターフェースは1970年代から研究が始まっている。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊椎損傷による麻痺を負った人でも意思表示が行えるよう、計測した脳波からマウスやキーボードといったコンピュータの操作を行えるようにするものだ。

 MRIのような、手術を伴わずに脳の活動を計測する「非侵襲式」の機器が開発された1990年代からブレイン・マシン・インターフェース(Brain Machine Interface:BMI)の実用化が現実的になってきた。しかし、ニューラリンクは、脳の活動を正確に捉えるため、脳内に機器を埋め込む「侵襲式」の手法を選んでいる。

 侵襲式の技術は、パーキンソン病やてんかんの患者の治療に利用されてきた。脳の一部が機能不全を起こしている場合に、脳内へ埋め込んだ機器を通して電気刺激を与え、症状の改善を目指すのが狙いとなっている。

 ブレイン・マシン・インターフェースには「読み取り」と「書き込み」の二種類がある。現在の研究の中心は「読み取り」で、たとえば体が動かない患者でも「お腹がすいた」といった意思を脳波から理解できるようにする取り組みだ。一方の「書き込み」の実験は、限定的な結果しか得られていない。視覚を司る脳の部位を刺激して、あたかも画像を見たかのような体験を得るというのは、現在の技術では難しい。

【次ページ】テスラよりもスペースXよりも困難なプロジェクト

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