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2017年05月23日

連載:シリコンバレーから見た米国ロボットトレンド

ロボットのサービス化「RaaS」も台頭、なぜ米国ではロボットビジネスがうまくいくのか

第1回ではマクロ動向としてのアメリカ政府のロボットに関する政策や研究開発の方針、第2回ではミクロ動向としての製造、サービス、医療・ヘルスケア領域の企業の事例を紹介してきた。今回は、これらの動向から学び取れることを確認していきたい。浮かび上がってきたポイントは「ユーザー起点でのデザインやビジネスモデルの再構築」、「知覚・判断機能の付加によるロボットの価値の拡張」、「組織を越えた基盤作りやサポート体制の整備」といったことだ。

執筆:ロボットエンジニア/コンサルタント 河本和宏

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標準ロボットのPR2や標準ソフトウェアのROSを開発した「Willow Garage」は米国のロボットビジネスの加速に大きな役割を果たした

(出典:Willow Garage)


ユーザー起点でのデザインやビジネスモデルの再構築

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 相対的に高賃金のアメリカへの製造業回帰や、Eコマース、オンデマンドエコノミーの普及などにより、従来ロボットが使われていなかったところでのロボット活用に対するニーズが高まっている。

 これまではセンサー性能や計算能力とコストの両立が叶わず不可能だったロボットも、スマートフォンや自動運転車での利用が増えたことによるコストパフォーマンス向上の恩恵を受け、実現可能となってきている。

 また、これまでは製造業の量産工場における単一工程で、人から隔離された場所での利用が中心であったところから、今後はサービス業で一般の消費者との接触が想定されるシーンや、製造業でも作業者との同一空間での協同作業における利用へと広がっていく。

 こうしたロボットを取り巻く変化の結果、人々はロボットを買うのではなく、ロボットを通じて得られる「経験」に対してお金を支払うようになる。アプリやウェブのビジネスで議論されてきたようなユーザー価値を起点としたデザインやビジネスモデルの再構築が必要となるだろう。

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ロボットを取り巻く変化

(出典:筆者作成)


 まずはデザインから掘り下げていく。2016年はロボットの活用事例が増えた年であったとともに、6月のダラス銃撃事件でのロボットによる犯人の爆殺や7月のスタンフォードショッピングセンターでのKnightscopeの警備ロボットの衝突事故など、日常社会でロボットとの接点が増える中でロボット脅威論が叫ばれるようになった年でもあった。

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Knightscopeの警備ロボット

(出典:Knightscope)


 こうした脅威論を乗り越え、ロボットが社会的に受け入れられ、さらには日常生活で人に寄り添う存在となるために、ロボットの振る舞い(ヒューマンロボットインタラクション)のデザインの重要性が高まっている。

 前回も触れたSaviokeやSimbe Roboticsの例では、ロボットの外形、挙動、表示について「ひと目で何をしているか分かる」デザインを追求しており、また、エレベーターの昇降動作などで一部、人を模した動きを取り入れることで、社会性を伴った印象を与える工夫がなされていた。

 コンピュータと人のインタラクションに関する研究をロボットに適用し、また、ディズニー出身のアニメータをチームに引き入れてプロトタイピングを重ねることによって、ロボットに対するデザイン原理を導き出している。ロボット玩具を手がけるAnkiが昨年発売したCozmoの開発においても、アニメーションを作るのと同じ工程でインタラクションを設計していた。



 次に、ビジネスモデルについてもシリコンバレーのスタートアップを中心に変化が見られる。ロボットを売り切るのではなく、利用時間や台数に応じて課金する「Robot as a Service (RaaS)」というビジネスモデルを採用する企業が増えており、収益安定性の観点から投資家からも注目されている。前述のSaviokeやSimbe Roboticsもこのモデルを採用している。

 新たなサービスロボットの領域では仕様で決められたものを作るわけではないため、ユーザーからのフィードバックを得て短期間に数多くの改善を積み重ねていく必要があり、RaaSの採用は理に適っている。

 また、日々のロボットの使用データを得られるという利点もある。ヘルスケアロボットを手がけるCatalia Healthの例ではロボットをユーザーに無料で提供する代わりに、得られたデータを製薬会社や医療機関に共有して売上を得る仕組みであった。

 ロボットが日常業務の一端を担うにあたり、ビジネス・プロセスへと深く入り込んだソリューションへの期待も高まっている。Saviokeの例ではホテル内のエレベーターや電話システムとの連携により必要な機能を実現しているし、Fetch Roboticsの例では顧客がこれまで使ってきた倉庫管理システムへのインテグレーションまで踏み込んだ提案を行っている。

 Rethink RoboticsのIntra 5の取り組みについても、専門知識を持たないユーザーの対応について検討してきた変化といえるだろう。

 今一度、想定するユーザーにとっての価値や理想的なプロセスの在り方について検討したうえで、ロボットやロボットを含むシステムの提案をしてみてはいかがだろうか。

知覚・判断機能の付加によるロボットの価値の拡張

 従来のプロセスやタスクを越えてロボットが使われるようになるには、センサーを付加することで知覚機能を追加したり、深層学習や強化学習を組み込むことで一定程度の判断を自ら下せるようになったりする必要があるだろう。深層学習を農機に適用し、人が考えながら行っていたレタスの間引き作業を自動化したBlue River Technologyの取り組みはその好例といえる。



 また、サウスウエスト研究所(SwRI)の取り組みが興味深いのは、ロボットアームに深度センサーを組み合わせることで、航空機や農機の塗装工程など、従来ロボットのチューニングコストが高かったプロセスの自動化に取り組んでいることだ。

 単品少量や中量産の製造でダイナミックに対象が変化しうるプロセスの自動化が実現すれば、コスト低減や熟練技能者不足の解決など、産業への影響は計り知れない。物流の分野においても、倉庫ロボットのAmazon Robotics(旧Kiva Systems)やその競合企業の取り組みによって、自律移動ロボットの活用範囲は広がり、無人物流センターの実現も近づいていくだろう。

 ZymergenやNotable Labsの例からは、人工知能とロボットの組み合わせによる新たな可能性の一面を見ることができる。ソフトウェア単独ではコンピュータシミュレーション上の仮想世界で記述可能な範囲に人工知能の活用が限られてしまうが、高速・高精度で大量パターンの試行錯誤が可能なロボットと組み合わせて使うことで、物理世界での研究開発を加速させることができる。

 近い将来、言われたことをこなすだけのロボットはロボットと呼べない日が来るはずだ。人工知能の研究や応用アプリケーションの開発、ロボット向けのセンサーの開発はアメリカの研究機関や企業が先行している。

 ロボットに求められる価値の変化や研究開発の現状を冷静に受け止め、ソフトウェア軽視に対する早急な対応と、場合によってはアメリカの企業との連携を通じたキャッチアップが必要だろう。

【次ページ】なぜ米国ではロボットビジネスがうまくいくのか

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