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2017年06月05日

「機械との競争」のブリニョルフソン教授、人工知能は「勝者総取り」を加速させる

人工知能(AI)の登場で、労働者の賃金格差は拡大した。技術革新によって得られる膨大な利益は「勝者総取り」となり、中間層以下の労働者の賃金は停滞している。技術進化のスピードに人間が取り残された時、社会はどうなるのか。『機械との競争』や『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の著者として知られるエリック・ブリニョルフソン氏は、「機械と人間が共存する社会」をどのように見ているのだろうか。

執筆:鈴木 恭子

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米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクール教授の
エリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)氏



「ファースト・マシン・エイジ」は“筋肉作業”を担った

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 世界を変革するために必要なのは「パワーシステム」と、それを制御する「コントールシステム」だ。産業革命以前、人間は自らの肉体で“モノ”を動かし、頭脳を駆使してパワーを制御してきた。しかし、現在は機械がパワーも制御も担っている。人間にとって機械はライバルとなるのだろうか――。

 こう問題提起するのは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクール教授のエリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)氏だ。『機械との競争』『ザ・セカンド・マシン・エイジ』(ともにアンドリュー・マカフィー共著/日経BP社刊)の著者でもある同氏は、現在の技術革新がどのような変化を社会にもたらすかについて研究している。

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 ボストンで開催された米PTCの自社カンファレンス「LiveWorx 2017」の特別講演に登壇したブリニョルフソン氏は18世紀後半の産業革命を、「ファースト・マシン・エイジ」と位置づけている。蒸気機関の発明によって、これまで人間や家畜の“筋肉”が担ってきた力仕事は、機械が取って代わった。そのパワーは人間の力が足下にも及ばない強力なもので、大量生産と大量輸送を可能にし、生産性を一気に引き上げたのである。

 一方、「セカンド・マシン・エイジ」は、コンピュータを中心としたデジタル技術の発達で、人間の頭脳が行っていた制御を機械が実行するようになった時代を指す。「ファースト・マシン・エイジにおいて機械は、人間の作業を補完する役割だった。これに対し、セカンド・マシン・エイジでは、人間の領域だった頭脳労働も機械(コンピュータ)が担った」とブリニョルフソン氏は説明する。

 さらに、同氏は「セカンド・マシン・エイジには、『第一の波』『第二の波』とがある」と指摘する。

 第一の波とは、人間が知っていることをプログラミングして明示的に指示し、機械に実行させ、生産性を向上させるフェーズだ。人間が仕組みを作り、機械に複製させる。単純作業や反復作業などのルーチン作業がこれにあたる。その場合、機械は人間の手足であり、仕組み作りといった付加価値の高い作業は、人間の領域だったのである。

 「第一の波では、これまでアナログで行っていた作業をデジタル化することが目的だった。たとえば、給料の支払いや税金の単純計算、ERP(企業資源計)やCRM(顧客関係管理)、SCM(サプライチェーンマネジメント)などのデータ管理は機械が実行するようになった。特徴的なのは、こうした作業のデジタル化は固定費が高く、限界費用が低いことだ」(ブリニョルフソン氏)

産業革命以来の歴史的転換点に立っている

 しかし、第二の波で状況は一変する。

 その要因は人工知能の進化だ。これまでは人間の領域だった頭脳労働が、人工知能によって機械やロボットに置き換わっていく。その結果、産業構造だけでなく、労働者の賃金体系や雇用のあり方など、社会全体に大きな影響を及ぼした。ブリニョルフソン氏は「コンピュータが人間の知的能力を超越し始めた。今、我々は産業革命以来の歴史的転換点に立っている」と指摘する。

 同氏は「機械学習とディープラーニング、人工知能が同一に語られているが、それぞれの役割は異なる」と説明する。機械学習はビッグデータを利用し、明示的にプログラミングをしなくてもパターンを学ぶものだ。その延長上にあるのがディープラーニングであり、神経回路網モデルを利用しパターンを学ぶ。対して人工知能は人間の“知性”を模倣するための技術全般を指すというのが同氏の見解だ。

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囲碁世界王者を破った人工知能「DeepMind」を活用し、グーグルはデータセンターの消費電力を15%も削減したという


 機械学習やディープラーニングで代表的なのは、自動運転自動車やロボットアーム、画像認識による仕分け作業などである。プログラミングするのではなく機械がパターンを認識し判断する。

 また、人工知能の活用例としてブリニョルフソン氏は、データセンターの運用効率化を挙げる。すでに米グーグルはデータセンター施設内から収集したデータを相関分析し、電力効率の最適化を図っている。こうした知見は他のデータセンターにも水平展開が可能だ。いわば人工知能が新たなサービスを生み出した一例とも言える。

人工知能が難症例患者の病名を見抜くことの意味

 さらにブリニョルフソン氏は、「特定領域において、すでに人工知能は人間の知能を凌駕している」と指摘する。

 たとえばIBMのコグニティブコンピューティングであるWatsonは、人間のゲノム(全遺伝情報)と癌に関する膨大な論文を解析し、人間が見つけられなかった難症例患者の病名を突き止めた。

 また、コールセンターや銀行などでも顧客の質問に最適な回答を過去のデータから瞬時に拾い上げ、素早いレスポンスを実現している。

 「過去のデータから適切なものを発見し、現在の状況を認識して最適解を提案する」といった領域においても、人工知能は急速に進化している。実際、家庭用音声認識AIである「Google Home」の現在の認識エラー率(言葉を聞き間違える比率)は4.9%。この数字は人間のそれとほぼ同等だ。ちなみに、10カ月前のAIのエラー率は8.5%だったという。

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アップルの「Siri」やアマゾンドットコムの「Echo」など、人工知能はあらゆる人の生活を変えつつある


【次ページ】デジタル化が生み出した富は、勝ち組が総取りしている

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