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  • 2017/06/20 掲載

「AIがAKB48のCD売上を外した」楽天技術研究所 森正弥氏が説く人間へのヒント

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楽天の研究開発組織「楽天技術研究所」は今、AI分野に注力している。なぜ彼らはAIに投資するのか。それは、AIなしには今後のビジネスが難しくなっていくという危機感からだ。豊富な知識を持ったプロや専門家が次々とAIに負け、ビジネスにおいてもAIは必要不可欠なものになっているが、人間ならではの価値を見出せる領域はどこにあるのか。楽天執行役員 楽天技術研究所 代表 森 正弥 氏は、AIが「AKB48のCD売上予測」を外したという事例を紹介し、AIと人間が共存するためのヒントを説いた。

執筆:フリーランスライター 吉田育代

執筆:フリーランスライター 吉田育代

企業情報システムや学生プログラミングコンテストなど、主にIT分野で活動を行っているライター。著書に「日本オラクル伝」(ソフトバンクパブリッシング)、「バックヤードの戦士たち―ソニーe調達プロジェクト激動の一一〇〇日 」(ソフトバンクパブリッシング)、「まるごと図解 最新ASPがわかる」(技術評論社)、「データベース 新たな選択肢―リレーショナルがすべてじゃない」(共著、英治出版)がある。全国高等専門学校プログラミングコンテスト審査員。趣味は語学。英語と韓国語に加えて、今はカンボジア語を学習中。

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楽天執行役員 楽天技術研究所 代表
森 正弥 氏

AIを筆頭に先端テーマに取り組む楽天技術研究所

 「Japan IT Week 春 第22回 ビックデータ活用展」に登壇した森氏は、楽天技術研究所を率いる人物だ。

 この研究所は東京のほか、ニューヨーク、ボストン、パリ、シンガポール、ボストンと世界5拠点で展開。100名以上が在籍しており、事業とは独立した戦略的R&D組織として先端技術を追いかける。

 大きな特徴は、未来予測の難しい今日において、あえてロードマップを持たず、研究者の問題意識や関心に基づいてテーマを決定しているという点だ。

 同研究所では、これまでに自律制御システム研究所とともに世界で初めて商用のドローンデリバリーを成功させたほか、同社が手がけるフリマアプリ「ラクマ」でディープラーニング機能を活用し、写真をアップしただけ画像認識により品名が自動登録される「もしコレ」機能をリリースした。

 また、古今東西の映画やアジアのドラマなどが視聴できるグローバルTVサイト「Viki」では、テレビドラマの字幕データをビックデータ化。今では韓国語、中国語、英語の字幕精度は世界No.1であるという。

AIに「専門家が負けていく」という現実

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 同研究所全拠点の重点戦略テーマがAIだ。なぜ彼らはAIに肩入れするのか。森氏は「このまま手をこまねいていると、今後ビジネスが難しくなっていくからだ」と吐露する。

 同氏が慄然としているのは「専門家が負けていく」という事実だ。チェスや囲碁、将棋の世界の例はもはや周知の通りだが、同社が主催した地方競馬応援プロジェクトでも同様のことが起こった。大学生を集めて、地方競馬を盛り上げるアプリを作るハッカソンを開催したのだが、そのうちの一つのチームが競馬予想アプリを作った。

 彼らは競馬のことは全く知らず、アプリを開発する中で「どうやらランダムフォレストという機械学習アルゴリズムがよさそうだ」と結論づけて組み込んだ。それでレースに臨んだところ、第1レースと第3レースは見事的中、第2レースも僅差で2位という結果となった。その瞬間、イベントに参加していた競馬専門家たちがアプリを開発したチームの席へ押し寄せたという。

 ネット通販においても、ロングテールはもはや常識となっている。現在のロングテールをグラフ化すると、横軸は何キロにも及ぶほどだ。

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売上の9割がロングテールから上がってくる

「イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した80:20の法則(パレートの法則、全商品のうち20%が売り上げの80%を作るという法則)は、もう当てはまりません。今やロングテールが売上の9割を占めます。売上の8割は2割の商品から上がってくるというのなら、2割の商品に力を入れることができますが、少しだけ売れるものが9割という環境で、何に力を入れたらいいのでしょうか。もう人間ではわからなくなってきています」

「何が売れるかわからない状況」で頼れるのはAIだけ

 同氏は続けて、楽天市場に出品される商品で傍証を続けた。たとえば甲冑。これはオブジェではなく実際に人間が着用できるタイプのもの。価格は一着200万円もするのだが、これが大人気で、向こう6か月予約で満杯だ。

 また、和歌山県の特産柑橘類である「ジャバラ」も人気商品だ。強烈な酸味と苦味があり、楽天市場の営業担当者は「売れないのでは」と危惧したが、このジャバラで作ったジュースを出品したところ、これもたちまち売れていった。

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甲冑やジャバラが大人気商品になる時代

 森氏は、参加者にも問いかけた。

「皆さんも新人が持ってきた商品企画に反論したことがあるのではないでしょうか。『こんなものが売れると思うか? オレが客だったら買わないよ』と。甲冑、ジャバラ、買います? 買わないでしょう。でも、売れるんです。今までの買い物には、行ける店、開いている時間、在庫といった制限があった。それが、インターネットの登場によって、いつでもどこからでもほぼ何でも買えるようになった。一切の制約から解放されました。束縛から解放されるとロングテールになるのです」

 もう一つ、森氏はインターネット時代が到来して崩れた「ある定説」に触れた。それは、売り手のみが専門知識と情報を有し、買い手はそれを知らないという「情報の非対称性」に関するものだ。

 中古車市場はその典型的な例だ。目の前の車がなぜその価格か、消費者は詳細に知ることはできなかった。

 しかし今は、カメラショップの店員よりカメラに詳しいカメラマニアは数多く存在し、不幸にも珍しい難病にかかってしまった患者は、街の開業医よりはるかに高い医療知識を持つようになる。森氏は「インターネットを元にいくらでも情報が手に入るからだ。もはや情報の非対称性は逆転した」と強調し、次のように続けた。

「企業は一つひとつの商品に投資できず、ジェネラルな対応しかできません。常に顧客の方が詳しくて、企業は顧客のことがわからなくなっています。

 このようなロングテールで情報の非対称性が逆転した非効率な世界、これをどう克服するかといえば、その方法はもうAIしかありません」

【次ページ】楽天のAIは「AKB48のCD売上」を外した

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