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  • 2017/06/23 掲載

メガバンクのフィンテック、その狙いは残念ながら「コスト削減」でしかない

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銀行の経営環境が厳しさを増している。マイナス金利の導入以降、融資による収益は低下する一方だが、手数料収入を大幅に増やせる見込みもない。海外事業の伸展で利益を稼ぐ構図だが、これにも限界があり、残る手段はコスト削減しかなくなりつつある。実際、三井住友フィナンシャルグループは人員再配置で4000人分のスリム化が行われると報じられている。メガバンク各行は独自の仮想通貨を開発するなど、フィンテックに対する取り組みを活発化させているが、日本の場合、フィンテックの導入はコスト削減というニュアンスが強いのが実態だ。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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銀行は今、「勝者なき戦い」を強いられている

銀行の利ざやは限りなく縮小

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 メガバンク3行における2017年3月期の決算は、ほぼ市場の予想通りだったが、銀行が置かれている現状を浮き彫りにする内容だった。三菱UFJフィナンシャル・グループの経常利益は1兆3,600億円で2年連続の減益だった。三井住友フィナンシャルグループはわずかに増益だが、前期が大幅な減益だったことを考えると手放しで喜べる状況ではない。みずほフィナンシャルグループも三菱と同様、2期連続の減益となっている。

 各行に共通しているのは「利ざや」の縮小である。マイナス金利が定着し、預金者に支払う金利と貸出金利の差(預貸金利回差)は限りなく縮小している。各行の利ざやは三菱と三井住友が1%程度、みずほが0.9%程度となっており、この数字は年々小さくなっている。1%を切ってしまうと、もはや融資のビジネスとしては成立しにくくなる。

 金利に代わる収益源として期待されるのは手数料収入だが、これは経済全体の取引量に大きく依存してくる。消費が冷え込み、設備投資も活発にならない現状では、手数料収入を飛躍的に伸ばすことも難しい。そのような中、各行の利益の源泉となっているのは海外部門である。

 三菱の中核銀行である三菱東京UFJ銀行の業務利益、約1兆8,000億円のうち、海外部門によるものは約8,000億円に達しており、同行の稼ぎ頭となっている。三井住友銀行では業務利益の約30%が、みずほ銀行では約35%が海外部門によるものだ。

 ただ邦銀の場合、欧米の銀行と同じような海外展開を実施することは現実的ではなく、これ以上、海外部門の収益に依存することはあまり望ましいことではないだろう。

 そうなってくると、各行は八方塞がりの状況になってしまうが、唯一の打開策となり得るのが大幅なコスト削減である。邦銀の高コスト体質は以前からよく知られており、これをスリム化することによってかなりの利益を捻出できる。あまり前向きとはいえないが、日本経済の現状を考えると現実的な選択肢ということになるだろう。

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メガバンク各行収益比較

コスト削減が利益増加の早道

 先日、三菱UFJフィナンシャル・グループが、情報システムをアマゾンのクラウドサービス(AWS)に移管する方針を示し、大きな話題となった。同社がクラウドへの移管を検討していることは、すでに昨年から明らかになっているのだが、このタイミングであえて目立つようにアナウンスしたことにはそれなりの意味がある。おそらくは、銀行のシステム構築を請け負うITベンダーに対する強いメッセージだ。

 各社の資料などから筆者が推定したところでは、メガバンクは1行あたり平均すると約1,500億円程度の費用を情報システムに投じている。たとえば三菱東京UFJ銀行の経費総額は年間1兆700億円だが、このうち人件費は4,000億円、残りの6,700億円は人件費以外の経費となっている。システム経費が1,500億円と仮定すると、人件費以外の経費のうちシステムが占める割合は22%ということになる。これは完全に固定費であり、収益とは関係なく発生することを考えると、銀行にとっては重い負担といえる。

 銀行の情報システムは、長年、信頼性第一という観点から勘定系を中心に大型汎用機(メインフレーム)が用いられてきた。最近ではオープン系サーバの性能が向上したことから、PCアーキテクチャをベースにシステムを構築するケースも出てきているが、それでも銀行のシステムは別格とされ、信頼性維持のために多額のコストが費やされている。

 だが、こうした設備負担は今の銀行にとっては重すぎる。三菱では当面、勘定系をクラウドに移管する予定はないとしているが、一方で、勘定系の移管についても検討の対象外とはしないとも明言している。とりあえず情報系のシステムがクラウドに移管されただけでも、コスト削減効果は相当なものとなるだろう。

 三菱は、アマゾンへの移管をあえて強調することで、既存のITベンダーに対して、コスト・パフォーマンスの高いシステム提案を要望しているとも解釈できる。クラウドの信頼性が向上した今、銀行にとってみればクラウドなのか、そうでないのかということはそれほど重要な問題ではない。焦点になっているのはあくまでコストである。

【次ページ】銀行が手がける仮想通貨の目的とは?

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