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  • 2017/08/02 掲載

トヨタは世界最大市場で敗北か、中国の民族系自動車メーカーが躍進の理由

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トヨタ自動車は2019年にも中国で電気自動車(EV)の量産を開始する方針を固めた。中国政府がEVシフトを加速させていることが背景だが、中国市場では「民族系」メーカーの台頭が著しい。市場の大きさを考えると、中国におけるシェアが今後の自動車メーカーの経営を左右することになるが、「外資系」であるトヨタが販売台数を伸ばすことは、そう簡単ではない。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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中国で躍進する民族系EVメーカーのBYD。
写真はBYDデザインディレクターのヴォルフガング・エガー氏。
(出典:BYD)



もともとEVには積極的でなかったトヨタ

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 トヨタはもともとEVについて積極的ではなく、日本の国策ということもあって燃料電池車(FCV)を次世代の主力技術と位置づけてきた。しかし全世界的にEVシフトが進んでおり、FCVに注力することはリスク要因にもなりかねない状況となってきた。

 今年4月に上海で開催された「上海国際モーターショー」では、各社がEV製品を積極的に打ち出しており、EVシフトが鮮明になったことを印象づけた。7月に入ると、発足したばかりの仏マクロン政権が2040年までにガソリン車の販売を禁止するというかなり野心的な目標を掲げ、続いて英国政府も同様の方針を固めた。

 ほぼ同じタイミングでスウェーデンのボルボ・カーが、2019年以降に発売するすべてのモデルについてEVもしくはハイブリッド(HV)にするという計画を明らかにしたほか、独BMWもすべてのモデルにEVなどの電動化製品を用意する方針を掲げている

 中国政府は、以前から環境負荷の軽い自動車の生産を一定数、義務付ける方針を打ち出しており、今後、中国ではEV市場が急拡大すると予想されている。トヨタにはEVのラインナップがなく、このままでは中国市場での苦戦が予想されることから、従来の方針を大きく転換。EVの量産化について本格的に検討を開始した。

 同社は、自社内にEV専門部署を設置すると同時に、デンソーやアイシン精機などグループ内の部品メーカーも参加する社内EVベンチャーを設立。2020年までの量産化を目指して開発を進めてきた。

 だが中国でのEVシフトが予想以上に進展していることからスケジュールを前倒しし、2019年にも量産化を行う方針となった。今のところFCVが次世代の主力技術との立場は崩していないが、トヨタは事実上、戦略の方向転換を迫られたとみてよい。

 ではトヨタが本格的にEVにシフトすれば、中国市場のシェアを一気に伸ばせるのかというと、必ずしもそうとは限らない。これまで中国市場は外資系企業に有利な状況が続いてきたが、ここに来て市場環境が大きく変わってきたからである。

中国で台頭する「民族系」自動車メーカーとは?

 このところ中国では、民族系と呼ばれる純粋な国内メーカーの台頭が著しく、外資系メーカーは苦戦を余儀なくされている。EVになると技術的な難易度はさらに下がるので、国内メーカーにとってはさらに有利な展開となる可能性が高い。

 中国の自動車市場はすでに突出した規模に成長している。2016年の中国における自動車販売台数は約2400万台となっており、米国(約1800万台)、日本(500万台)を大幅に上回っている。

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各国の自動車販売台数の推移

 中国における自動車産業は国策であり、これまでは中央政府が所有する国営自動車メーカーが、外国メーカーと合弁を組むという形で発達してきた。外国メーカーが中国で自動車を生産するためには、中国国内のメーカーと合弁企業を設立することが義務づけられており、外国からの出資比率は50%以下にしなければならない。

 米ゼネラルモーターズや独フォルクスワーゲンは、上海汽車集団や第一汽車集団と合弁会社を作っているほか、トヨタは第一汽車と、日産は東風汽車と合弁企業を設立して中国市場に進出した。外資系企業との合弁を通じて生産を行うことで、中国側が各社のノウハウを習得し、国産自動車の技術力を高めることが目的である。

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中国の主な自動車メーカー

 当初は、技術移転に苦労したが、外資系自動車メーカーの生産技術は徐々に中国国内に移転し、国営企業も優秀な国産車を生産できるようになってきた。さらに最近では、政府からの支援をまったく受けることができなかった完全民営の民族系メーカーも高度なノウハウを蓄積するようになり、急激にシェアを伸ばしている。

 長城汽車、吉利汽車、BYDといった完全民営の民族系メーカーは、安い価格と利用者のニーズを捉えた製品ラインナップで急激に躍進する企業の代表格だ。

 2016年に販売された2800万台のうち、民族系メーカー(政府系含む)は1000万台を突破しており、すでに40%以上のシェアがある。トヨタなどの外資系は相対的に不利となっており、以前より販売台数を伸ばすのが難しくなっているのだ。

【次ページ】EV時代になるとトヨタはさらにピンチ?

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