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  • 2017/08/14 掲載

イギリス発の「Micro:bit」は日本のモノづくり教育をどう変えるのか?

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2020年、日本でも小学校からプログラミング教育が必修化する。すでにイギリスでは日本の小学校5、6年生にあたる100万人の児童に対し、教育用マイコンボード「BBC Micro:bit」を無償で配布しており、世界中から注目を集めた。「Maker Faire Tokyo 2017」(以下、MFT)に登壇したMicro:bit財団でCEOを務めるザック・シェルビー氏が、日本が目指すべきコンピュータサイエンス教育の未来について語った。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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Micro:bit財団でCEOを務めるザック・シェルビー氏


可能性は無限大、Micro:bitで何を作る?

 Micro:bitは、小学生でも簡単に利用できる小型の教育用マイコンボードだ。デジタル技術を子供たちが学び、そのスキルを将来的なキャリアに役立てるために開発された。

 2016年に非営利団体としてMicro:bit財団を設立したシェルビー氏は、「イギリスでは2016年に100万人の児童に対し、Micro:bitを無償配布した。これは世界で初めての試みだ。現在では、アメリカ、カナダ、シンガポールなど、全世界40ヵ国で利用され、ユーザーコミュニティも広がっている。すべての子供たちは、将来のインベーターだと考えている。Micro:bitで彼らをサポートしていきたい」と語る。

 Micro:bitの特徴は、誰でもプログラミングを学習できるよう、使いやすくデザインされていることだ。シェルビー氏は「価格も2200円程度と手ごろなので、教育機関に導入しやすい。Micro:bit財団は、世界中の恵まれない子供たちに利用してもらえるように努力している」と説明する。

 Micro:bitの基本仕様と特徴はこうだ。基板表面の中央には、文字や単純な図を出力できる5×5マトリクスLED表示機器が備わっている。両端にはプログラムを起動できる2つのボタンがあり、デジタルとアナログのI/Oも搭載。裏面にはARM社のプロセッサである「Cortex-M10」が配置されている。さらに、磁気/加速度センサも備わっているため、手で振ってイベントを発生させたり、Bluetoothを介してほかのデバイスと接続したりすることも可能だ。

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Micro:bitの表面。5×5マトリクスLED表示機器で文字や図形を表示したり、ゲームに利用したりできる2つのスイッチを搭載

 もちろん電源供給用コネクタや、PCへ接続するためのMicro USBなども備える。さらに基板の端にあるエッジコネクタを使うことで、ほかのハードウェア・モジュールへの拡張も可能だ。すでに数千のプロジェクトが始動している。

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Micro:bitの裏面。ARMのプロセッサ「Cortex M10」や磁気/加速度センサ、Bluetoothも備える

 「プログラミングも簡単だ」と、シェルビー氏は説明する。「マイクロソフトの開発環境を利用し、Webベースでブロックを組み合わせながら容易にプログラミングできる『ScratchX』や、テキストベースのJavaScriptに切り替えられるエディタも用意している。子供たちの学習スピードに合わせて、より高度なプログラミングが可能だ。さらに標準的なプログラミング言語であるC++や、AIのプログラミングで多用されるPythonを利用することもできる」(同氏)

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Micro:bitの開発環境。Webベースでブロックを組み合わせながらプログラミングが可能。JavaScriptやPython、C++などの言語にも対応している

日本の教育で欠落しているモノづくりの視点とは

 基調講演では、Micro:bitの5×5マトリクスLED表示機器に、「I Love Japan」という文字をスクロールさせるデモが披露された。日本語に対応した開発環境のエディタの横には、Micro:bitのシミュレータもあり、本体にコードをダウンロードする前に動作検証できるようになっている。

 各種アプリケーションも豊富だ。会場ではMicro:bitを販売するパートナーのブースなどで、興味深い“作品”が紹介された。

 たとえば、スピーカモジュールや緑・黄色・赤の光を出すLEDモジュール、さらに60個のテープLED用の発光モジュールや回転サーボモジュールをMicro:bitと組み合わせることで、ロボットや楽器へ応用されていた。

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Micro:bitで使える各種モジュール。サーボモジュール、あるいは回転サーボモジュールを追加すれば、簡単な二足歩行ロボットも作れるとのことだ

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Micro:bitとサーボモジュールを組み合わせて制作したロボットやプログラムカー。いずれもMicro:bitの無線通信機能を利用したビットリモコンで動作する

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ユニークな水素燃料ロケット発射装置。水を電気分解し、酸素と水素を発生させる。十分に水素がたまった段階で点火してロケットを発射する

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スイッチ操作やボディへの振動で音色やビートが変わるエレキギター(手前)。拡張スピーカーを利用し、両手でバナナに触ると音が流れる工作も(奥)

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Micro:bitと拡張モジュールのテープLEDを組み合わせて人工的な光を植物に当てることで、効率的な水耕栽培を行えるキット

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Micro:bitをスロットに差して使う拡張ボックス「PRO-CUBE」(参考出展)。M2Mモジュール内蔵で、部屋に明かりがつくとインターネット経由でLINEに通知。帰宅センサーになる仕組みだ。地震検知や天気データの取得も可能

 シェルビー氏は、「日本での最終的な目標は、30万人の親子や先生に利用してもらうことだ。日本政府は2020年までにコンピュータ教育を本格展開しようとしている。そのころまでに、Micro:bitが多くの学校に採用されることを期待している。すでにイギリスでは9割の生徒がプログラミングできるようになったと回答している。日本では科学・技術・工学・数学の教育分野を網羅したSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育が伸びていない。Micro:bitで成果を上げて、新しいMaker(創造性)を実現してほしい」と力説した。

【次ページ】試行錯誤しながら論定的な思考能力を養う

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