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  • 2017/08/22 掲載

ものまねではない「原始的なイノベーション」は子どもに学べばいい

ジョブズ、ダーウィン、ニュートンにも共通

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昨今、イノベーション創出のマインドセットや思考法として、「固定概念を持たないこと」や異なる情報を組み合わせる「新結合」の概念、デザインシンキングなどが提唱されています。しかし、「固定概念を持たないこと」や「自由に情報を組み合わせること」、「失敗を恐れず、アイデアをどんどん発散していくこと」は、私たち大人が子どもの頃から身につけていたことではないでしょうか? 今回は、子どもがその成長・発達の段階でみせるイノベーティブな観察力・情報編集力に注目し、大人がそこから学び、気づきを得るためのヒントをお届けします。

フレイ・スリー プロデューサー/プロジェクトマネージャー 前田 考歩

フレイ・スリー プロデューサー/プロジェクトマネージャー 前田 考歩

プロジェクトマネージャー/プロジェクトエディター。自動車メーカーの販促・CSR事業、映画情報&オンラインチケッティング事業、育児情報アプリ事業、離乳食の定期通販事業など、数々の新規事業・プロジェクトの起業およびプロマネを経験。現在は(株)フレイ・スリーにて、動画制作アプリ「1Roll(ワンロール)」のプロマネを担当。この他、動画活用、展示会、ワークショップ、育児、幼児教育をテーマに、宣伝会議、全国の自治体、中小機構等でワークショップの企画、設計、ファシリテートを行う。

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子どものイノベーティブなアイデアを具現化した「えほんしんぶん」

ジョブズ、ダーウィン、ニュートンのイノベーションの共通点

 現在、イノベーションを起こす目的で、新規事業室を立ち上げたり、社内ベンチャー制度を導入する企業が増えているのに加えて、社内だけでは「既存事業の枠を超えるテーマが出てこない」として、ビジネスコンテストを開催したり、オープンイノベーションを実施する機会も増えています。

 一方で、「イノベーションを起こすには固定概念や過去の成功体験から脱却しなければならない」、「技術主導から人や社会が求める価値を探求しなければならない」として、“デザイン・シンキング”や“ラテラル・シンキング”などの思考法や方法論を体験できる講座のほか、アイデア発想術トレーニングなどを社員に受講させる企業もあるでしょう。

 こうした講座やイノベーション関連のビジネス書、メディアを見てみると、イノベーションを起こすために必要な力や思考法などとして次のようなものが紹介されています。

  1. 『パターンを外す』という思考法が、0から1のイノベーションを生み出していく。
  2. イノベーションを起こすには、独創的なアイデアを生み出す力と、その価値を提供するための実行力が必要。
  3. 多様な専門性、バックグラウンド、国籍、文化を持っている人がメンバーになるチームが必要。
  4. 一人の力ではイノベーションを起こせない。
  5. デザイン思考(ユーザー中心、対話を重要視したプロセスの実現、プロトタイプ→テスト→改善を繰り返すこと、など)。
  6. イノベーションは戦略ではなく、探求である。
  7. 誰も想像できないインサイトを導き出す。
  8. イノベーションを創造するためには、何よりテーマ設定が重要である。
  9. 面白いことをとことん追求してみる
  10. 自分の専門外の業界やテーマについて学ぶ。それらの人々と交流する。よく遊ぶ。
  11. リスクを恐れない。
  12. 「ものの見方」を変えて新発想を生む。
  13. 自身の枠組みや経験則にとらわれない。
  14. バイアスを壊す。

 こうしたキーワード群を「イノベーションが起こる時系列順」に並べ替えると、以下のようになります。

  1. 好奇心を持ち、一人のユーザーとして事象に相対する。
  2. 事象に相対、遭遇した時、固定概念でもって見ない。
  3. 変わった見方をすること、発言することを恐れない。
  4. 一つの事象に対して、とことん探求する。
  5. 新しい「問い(仮説)」や「テーマ」を設定する。
  6. 問いやテーマを設定したら、プロトタイプをいち早く出し、改善を繰り返す。

 このように並べ替えると、イノベーションを起こす上では、モノゴトをテストするにせよ、最終製品にするにせよ、「つくること」よりも、「モノゴトの見方」「情報の受け止め方」「心構え」「マインドセット」などのほうが難しいようです。

 歴史上、イノベーションを起こしてきた人物はこんな名言を残しています。

「大事なのはものの見方を知ることだ」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)

「私がこれまでに価値のある発見をしたのだとしたら、それは特別な才能があったからというより、辛抱強く注意を払って観察したからだ」(アイザック・ニュートン)

「今までの道のりを顧みてみると問題を解くことより、問題を見つけることの方が困難であった」(チャールズ・ダーウィン)

「クリエイティブな人たちは、どうやって成功したのかと質問されるとうしろめたい気分になる。別にたいしたことをしたわけじゃない。日常のささいなことに目を留めただけなのだ」(スティーブ・ジョブズ)

 すなわち、共通するのは「モノゴトの見方」がイノベーションにとって決定的に重要である、ということです。

5歳の子どもが見せる「イノベーション力」の本質

 急に話が変わりますが、筆者には現在5歳になる娘がいます。

 なぜこんな話をするかというと、娘が3歳頃から見せ始めたモノゴトの観察の仕方や表現の仕方が、上述したイノベーションに必要なマインドセットと多くの点で共通しているように思えるからです。

 いくつか例をご紹介しましょう。

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木のママゴトセット

 当時3歳の娘とママゴトをしていた時のこと。木のママゴトセットなどを使って、レストランごっこをしていた際、娘に「水をくんできて」とお願いをした私は、てっきり木のママゴトセットについている蛇口から水をくむものだと思っていました。

 ところが娘は、偶然そばにあった机に倒れていたペットボトルに、床にころがっていた正方形の積み木をちょこんと置いて、

「キュッキュッ。ジャー。みずだよー」

と言ったのです。

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ペットボトルに積み木を置いて蛇口に見立てる

 私はそれを見て、倒れているペットボトルに、積み木をおくことで蛇口に見立てるという行為は、異なるものを組み合わせる、イノベーションに必要と言われる「新結合」そのものではないかと感じました。

 それは言い換えれば、「一見異なるものを、発想の対象としているものに結びつける」アナロジー思考の原始的な姿です。

 もう一つの例をご紹介します。

 ある日、私が新聞を広げて読んでいた所へ、娘が絵本を持ってきて私の隣に座って絵本を読みだしたので、「なにしてるの?」と聞くと、

「えほんしんぶん、よんでんだよ」

と答えたのです。

 「えほんしんぶん」という言葉が妙に心に残った私は、知人の編集者やデザイナーとともに、えほんしんぶんが「えほんのようなしんぶん」なのか「しんぶんのようなえほん」なのかを考え、プロトタイプをつくってみました。

 これも一見くっつかなさそうな絵本と新聞を平気で組み合わせることのできる固定概念の無さが生んだ新概念だと思います。

 加えて重要なのは、えほんしんぶんの姿かたちを考えていた時、

「3歳児にとってのニュースとは何か?」

 という、これまでにない新しい問いが生まれたことです。

 コンテンツネットワークを通じてそこかしこで見かけるニュース。PV獲得のためにセンセーショナルなタイトルをつけるニュース。そしてフェイクニュースの数々。なんだか袋小路にはまりつつあるニュース業界、ニュースコンテンツに一石を投じる問いには見えてこないでしょうか?

 「ただの親バカと言わば言え」の気持ちになって、もう一例を。先日、娘が家中の雨傘と日傘、折り畳み傘をかき集め、自宅のウッドデッキで傘を並べたり、広げたりして遊んでいました。

 そのうち、私が芝生にホースで水をやりにいった際、雨みたいに水をかけてと言ったのは想定内のことでしたが、水やりが終わってしばらくしたあと、「パパいらっしゃいませー」と呼ばれてデッキに出ると、家中の傘を組み合わせて「かさのいえ」をつくったので、中に入れと言いました。

 「かさのいえ」自体に、ペットボトルと積み木でつくったような驚きはありませんでしたが、ここで注目したいのは、娘は最初から傘の家をつくろうという目的をもっていたのではなく、傘を並べ、広げ、たたみ、それで水を受け、振り回し、先っちょで突っつくなどして色々と遊んでいるうちに、かさのいえをつくったのということです。

 似たような例は他にもありますが、ここで紹介した3つの事例からは、

  1. 固定概念を持たない
  2. 新結合
  3. アナロジー
  4. とことん遊ぶ
  5. 新しい問いを(私が娘の発想を借りて)つくる

といった、イノベーションに必要とされるキーワードを拾い上げることができます。

 娘が見せたこれらの事例は、あくまでPrimitive(原始的、未熟)な好奇心、観察力、アナロジー力、編集力、表現力です。子どもたちのこうした力そっくりそのままでイノベーションを起こせるとまでは考えていませんが、大事なのは、私たち大人にも幼少期はこうした力があったのに、社会に出て、経験を重ねるにつれ、このPrimitiveな力が弱まってしまっているという事実です。

ものまねではない、原始的な発想力を力に変える

 私たちは何か新規事業を始めようとする際、「同業他社がやっていること」や「業界紙に載っていたこと」にヒントを求めがちです。

 IT業界では、アメリカで行われていることのタイムマシン導入(米国に少し遅れて日本に導入すること)が当たり前になってしまいました。しかし、ビジネスの世界ではイノベーションは、たいてい通常のものの考え方では説明のつかない事象から生まれています。

 そして、イノベーションを起こすという、本人(またはその会社)にとって事例のない、未知なるプロジェクトにおいて、有効な打ち手を見出すことができるのは、類推する力・アナロジーの力です。

 筆者は上述した経験などを元に、プロジェクトマネジメントのための新たな方法論、「プロジェクト・エディティング」を提唱しました。

 そこでは、子どもがイノベーションにつながる力があると仮定し、今回新たに子どもの「原観察力」、「原編集力」、「原表現力」(これらを総称して以下「原○○力」)を疑似体験するためのワークショッププログラムを準備し、その体験版を2017年7月に新規事業担当者やオープンイノベーションなどの担当者など、大人を対象に実施しました。

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ワークショッププログラムの様子

 本プログラムは、子どもの個性を尊重し、それを最大限に生かす教育を行うことで近年世界的に注目されている、イタリアのレッジョ・エミリアとオランダの保育施設での経験を経て、デザイナー/アトリエリスタ(教育に携わる芸術家)として、エシカル(倫理的・道徳的)でイノベーティブな視点から幼児教育に関わる伊藤史子さん、アートマネージャーの熊谷薫さんと企画したものです。

 大人が子どものような観察眼を持とう、と言うと、「童心に帰って」や「子どもらしいファンタジーな見方」をすればいいと考える方が多いかもしれませんが、そんな考えでは到底子どものように観察し、表現することはできません。

 今回のプログラムでは、子どものようなモノの見方、多様なモノの見方を、「もの・こと・ひと」との関係性を構築する「リサーチ(探求)」の手法を通じて、体感できるようにしました。

【次ページ】イノベーションを起こす思考法はどうしたら生まれるのか

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