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  • 2017/08/30 掲載

スマートリテールとは何か? 韓・豪・米事例に見る「小売対EC」の戦況

フロスト&サリバン連載~産業別に見るICTのインパクト~

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これまでICTと連携していなかった産業が続々とICTを活用し、産業構造が変革されている。これは小売にも言えることだ。小売はITを武器とする店舗をもたないECに対し、あらゆる方法で抗戦を試みた。その結果、両者は「オムニチャネル」で戦うにいたる。しかし、ここでも決着はついていない。そして戦いは第二ラウンドに突入し、小売は「スマートリテール」に目を付けた。スマートリテールとは何か? フロスト&サリバン ジャパン 成長戦略コンサルティングマネージャの伊藤 祐氏が韓国のホームプラス、オーストラリアのウールワース、さらに米国のAmazon Goの事例を交えて「スマートリテール」を解説する。

フロスト&サリバン ジャパン 伊藤 祐

フロスト&サリバン ジャパン 伊藤 祐

フロスト&サリバンジャパン 成長戦略シニアマネージャー。日本、シンガポール、フィリピン、タイ、イギリス等において、ビジネスプロセスリエンジニアリングやERPシステム導入、海外展開戦略策定やM&A実行支援、スマートシティのグローバルトレンド調査等のプロジェクトに携わる。慶應義塾大学にて経済学士取得。

執筆アシスタント:フロスト&サリバン ジャパン 佐藤 優紀

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小売もECもスマートリテールの方向に動き出している
(© WavebreakmediaMicro – Fotolia)



「小売対EC」のこれまで

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 ECは、実際の店舗を持たず、WEB上で購買の全工程を完了させることができるサービスを提供する。代表的な例としては、Amazonや楽天が挙げられる。こうした企業は店舗を持つ必要も、現場で働く店員を雇う必要もないため、実店舗を持つ企業に対してコスト面で優位に立つことができる。また、消費者はECを通して自分の時間が空いたときに、どんな場所にいても商品が購入できる。こうした利便性もECの強みだ。

 こうした優位性を武器にECは小売に攻勢をかけていた。このようなECの台頭に対し、小売は縮小を余儀なくされている。相次ぐ百貨店や書店の閉鎖が良い例であろう。

 しかしながら、小売もECの躍進を指をくわえてただ見ていたわけではない。小売は、独自の強みを生かしつつ、ECを活用するという戦略をとったのである。

 小売が持つ実店舗の強みは、「実際の商品を見たり、触って体験できる」ことだ。さらにECを導入することで、「実店舗に行って肌触りや色合いなどを確認し、その後オンラインで商品選択および購買する」という消費者の行動を誘発するに至ったのである。結果的にこの方式は広がり、スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストア等々、業種を問わずあらゆる小売企業がECに乗り出す形となった。

 現在では「EC」「小売」の境目はどんどんあいまいになってきている。ECも実店舗運営に乗り出しているし、逆に実店舗もECサイトを構築している。お互いのメリットを理解したECと店小売はさらに融合と進化を重ね、SNS・テレビショッピング・カタログ通販・ダイレクトメールなどを用い、消費者との接点を持つためにあらゆるチャネルを生かそうとするようになった。また、これらのチャネルは単独で存在するわけではなく、お互いに連携してさらに効果を増している。これこそが「オムニチャネル」である。

韓国・オーストラリアの事例で学ぶ「スマートリテール」とは?

 オムニチャネル戦略を活用することが特に珍しくなくなってきた現在、単純にチャネルのユニークさで競合企業と差別化を図る事は難しい。そこで、小売産業はチャネルそのものを飛び越え、さらに消費者体験とコスト削減効果を向上させるための手段としての「スマートリテール」に目をつけるに至った。

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フロスト&サリバンはICTが変える6産業の中にリテールが入ってくると見ている
(出典:フロスト&サリバン)


 「スマートリテール」は、ショッピング体験そのものに付加価値をつけるとともに、テクノロジーを用いて単純な人件費削減を超えた新たな分野での効率化によるコスト削減を現実化させる。ここで、韓国、オーストラリア、米国から3つの具体例を見てみよう。

 スマートリテールの最初の事例は隣国韓国である。ホームプラスは韓国第2位のディスカウントストアであり、英国のテスコ社と韓国のサムスングループが共同で運営を行っている。ホームプラスは、駅構内にデジタルディスプレイを設置し、そこにバーチャルストアを作り出した。メインターゲットは、仕事で忙しくスーパーに行く暇のない会社員である。仕組みは以下の通りである。

1. 消費者がデジタルディスプレイ上にある商品を見て、購入商品を決める
2. 消費者がスマホと専用アプリを用い商品のQRコードをスキャン
3. 消費者が読み取った商品の注文と支払いを完了させる
4. 消費者が自宅にて配送された商品を受け取る


 労働時間が長く、なかなか実店舗に行く時間が取れない韓国のビジネスパーソンにとっては、「駅構内で商品を見て、それを注文できる」というホームプラスのスマートリテールは画期的に映ったようである(2016年12月現在実施中)。

 次のスマートリテールの例は、オーストラリア最大のスーパーマーケットであるウールワースである。ウールワースの特徴は、消費者が広い店内を歩き回る必要性を排除したことである。システムは以下のとおりだ。

1. 消費者は、オンライン上で商品の選択・支払いを完了させる
2. 消費者が、ウールワースの実店舗に注文品を取りに行く
3. 消費者が店舗に近づくと、Bluetooth Beacon が店員にそれを知らせる
4. 店員は、消費者が予めオンラインで選択した商品をまとめる
5.消費者は、店員がまとめてくれた商品を受け取り、店舗を出る


 オーストラリア特有の巨大な実店舗という設備資本を、あえて単なる商品の受け渡し場所とした逆転の発想の事例だ。時間節約の実現が消費者満足度を上げることに繋がり、かつ店舗を訪れた時に商品を手に入れる事が出来る。この点ではより従来の買い物に近く、より伝統的な消費者に受け入れやすい形態となっている。実際にトライアルを実施した10人中9人がこのサービスを大変気に入ったと回答している(2016年12月現在実施中)。

【次ページ】Amazon Goから考えるスマートリテール

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