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  • 2017/08/31 掲載

バイオハッカーが世界を変える? DIYバイオ、バイオエコシステム最新事情

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ITテクノロジーの進展により、バイオ研究による社会イノベーションの創出は、よりオープンに、より一般的になりつつある。最先端テクノロジーと関連するビジネス動向について議論する「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 TOKYO」では、MITメディアラボ所長・伊藤穰一氏をホストに、業界が注目する「バイオテクノロジー」のキープレイヤーであるImpossible Labs 共同設立者 ティト・ジャンカウスキー氏、山口情報芸術センター 伊藤隆之氏、IndieBio CSO ロン・シゲタ氏が登壇、米国で発達する「DIYバイオ」や「バイオエコシステム」などの潮流について議論した。

庄司 里紗

庄司 里紗

ライター/ジャーナリスト。1974年、神奈川県横浜市生まれ。国立音楽大学卒業後、フリーライターとして活動を始める。インタビューを中心に雑誌、Web、書籍等で活動後、2012〜2015年の3年間、フィリピン・セブ島に滞在。親子留学事業を立ち上げ、早期英語教育プログラムの開発・研究に携わる。現在は人物インタビューのほか、地方創生、STEM教育、バイオテクノロジー、食の未来などをテーマに編集・執筆活動を展開中。明治大学サービス創新研究所・客員研究員。http://risashoji.net/

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15回目の開催となる「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 TOKYO」では、「DIYバイオの潮流とアントレプレナーの育成」と題されたセッションが行われた

バイオテクノロジーの新しい潮流「DIYバイオ」

 「DIYバイオ」とは、バイオ研究を研究室の中だけで行うのではなく、一般市民も参加できるオープンで開かれたものにしようというムーブメントや活動を指す言葉だ。2008年頃からDIYバイオに取り組む市民バイオロジスト(バイオハッカー)たちのコミュニティが次々に立ち上がり、今やそのネットワークは世界各国に広がりを見せている。

 最初の登壇者、ティト・ジャンカウスキー氏もDIYバイオロジストとして知られる一人だ。ジャンカウスキー氏は2010年に設立された世界初のバイオハッカー・スペースBioCuriousの創設メンバーであり、現在はサンフランシスコに拠点を置くイノベーション・プラットフォームImpossible Labsの共同設立者兼CEOを務めている。

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Impossible Labsの共同設立者、ティト・ジャンカウスキー氏

 ジャンカウスキー氏が目指すのは、持続可能な社会の実現だ。彼は危機的なレベルで進行している温暖化や気候変動の現状について述べ、それらをバイオテクノロジーが解決する可能性についてユニークな提言を行った。

「太古の昔、地球には今の何倍にも相当する4000ppmもの二酸化炭素(CO2)濃度があった。しかし、当時の地球には驚異的なCO2吸収能力を持つアオウキクサが大西洋全体を覆うほど繁殖し、大気中のCO2濃度を下げていた。そんなアオウキクサのDNAにこそ、温暖化解決の糸口がある」(ジャンカウスキー氏)

 アオウキクサのDNAを解明し、遺伝子を改変したり、人工的にデザインしたりすることで、植物のCO2吸収能力を飛躍的に高める方法を模索していると語ったジャンカウスキー氏。彼はまた、大量の二酸化炭素をリサイクルして石灰石を作り出したり、農作物の干ばつ耐性を高めたりする環境技術が、スタートアップやバイオハッカー・スペースから生まれていることにも言及した。

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バイオハッキングというアプローチで地球温暖化の解決を目指している

「今必要なのは、新しいアイディアを持った人。そこで私はさまざまな専門知識を持つ人々が集まるオープン・プラットフォームを立ち上げた。生物学者だけでなく、プログラマーや起業家、大企業の幹部から市民まで、気候変動を解決したい人たちが誰でも参加でき、協業しながら、革新的な技術の開発に取り組める。それがこのプロジェクトのエキサイティングなところだ」(ジャンカウスキー氏)

 ジャンカウスキー氏は、CO2除去技術で世界をリードする日本でのラボ設立に意欲を見せつつ、スピーチを締めくくった。

日本にも広がりつつある市民参加型のバイオラボ

 続いて登壇したのは、山口県山口市にあるアート・センター「山口情報芸術センター(YCAM)」の伊藤隆之氏だ。

 YCAMは、市民や多様な分野の専門家が「ともにつくり、ともに学ぶ」場を目指し、2003年に設立されたメディア・アート拠点。同センター内の研究開発チーム「YCAM InterLab」でR&Dディレクターを務める伊藤氏は、2015年末に実現したバイオラボ設立までの経緯と、バイオテクノロジーを市民にひらくプロジェクト「YCAMバイオ・リサーチ」について説明した。

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山口情報芸術センター(YCAM)からは伊藤隆之氏が登壇

「世界中で市民によるバイオラボやバイオハッカー・スペースが立ち上がり、一般の人々とのテクノロジーに関する知の共有が加速する状況を見て、YCAMもこれらのネットワークと連携する必要性を強く感じました。そこで館内にバイオラボを立ち上げ、ワークショップやフィールドワークなどを実施しました」(伊藤氏)

 バイオラボの立ち上げは「右も左もわからない状態から始まった」と語る伊藤氏。国内外のバイオハッカーやバイオアーティスト、そして大学教授などアカデミアの力も借りながら、安全で機能的なバイオラボを作り上げていったという。

 続いて伊藤氏は、YCAMで実施した6回の展示シリーズ『キッチンからはじめるバイオ』を紹介。野生の酵母菌を採取・培養して実際にパンを焼いたり、市内の森で植物サンプルを採取し、DNA解析によって種の確定を行うなど、プロジェクトの一連のプロセスについて解説した。

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「バイオテクノロジーはより身近なものになる」と話す伊藤氏

 伊藤氏のスピーチで印象的だったのは、コスト面をはじめ、バイオテクノロジー研究のハードルが予想以上に下がっている現状だ。「実験機材は日用品を代用して作ることができる」「外部機関に依頼したDNA解析の費用は1サンプルあたり400円程度」など、一般市民でも参加しやすい土壌が整いつつあることが示唆された。

【次ページ】スタートアップを支える米国の「バイオエコシステム」

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