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2017年09月06日

ドラッグストア大手が「高齢者住宅」を建設・運営するワケ

大手ドラッグストア・チェーンの店舗は、高齢の生活者にとっては「なくてはならないワンストップ・ショップ」であり、ある意味、コンビニや食品スーパーよりも重要な小売業態と言える。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など「高齢者住宅」にテナントとして入るだけでなく、最近はその建設・運営を自ら手がけ「需要創造」するチェーンも現れた。高齢者の日常の買物はほとんど事足りるので、大きな病院までの送迎手段さえ確保すれば、交通不便な場所でも高齢者住宅が建てられる。地価の安さ、政府の補助、税制優遇、そしてチェーンの看板を活かし、収益を確保できる。

執筆:経済ジャーナリスト 寺尾 淳

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高齢化社会のあり方を模索する動きが続く

(© naka – Fotolia)


高齢者住宅は「スケールが大きい成長産業」

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 訪問介護、施設介護、バリアフリー改修、福祉用具レンタルのような「介護関連ビジネス」は、高齢者の数がどんどん増える一方の日本を代表する成長産業──かというと、そうとは言い切れない。

 2000年に介護保険制度がスタートした当初は「バラ色の夢」をふりまき、人材派遣、外食など異業種から参入が相次いだが、その後、介護保険の介護報酬の水準が何度も切り下げられると、経営難に陥って倒産する業者が出たり、異業種が手を引いたり、他社に買収されたり、成長産業とはとても思えない介護関連職種の低賃金が社会問題になったりした。現在は「少し前より、ややましになった」という程度だ。

 それに対し、本格的な立ち上がりは2011年と遅かったが、政策の後押しもあり右肩上がりの成長を続けているのが、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」など「高齢者住宅」を建設・運営するビジネスだ。

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 「サ高住」は国土交通省と厚生労働省が共同で所管しており、全国で登録された住宅数は今年7月末時点で6697棟、21万8851戸。制度発足翌年の2012年末と比べると、4年7ヵ月で棟数、戸数とも2.4倍に拡大した。

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サービス付き高齢者向け住宅の登録数の推移

(出典:国土交通省住宅局)


 都道府県別では大阪、北海道、埼玉、東京、兵庫が多い。順位は異なるが、棟数も戸数もベスト5である。

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サービス付き高齢者住宅登録数が多い都道府県

(出典:国土交通省住宅局)


 サ高住は本来、施設ではなく「賃貸住宅」なので、その入居資格や入居関連費用に介護保険制度は直接、関わっていない。対象には介護を受けていない高齢者まで幅広く含まれるから、そのマーケットはかなり大きい。

 基本的には高齢者夫婦世帯(2人)、単身高齢者(1人)のための住まい。2015年の国勢調査速報値によると、全国の高齢者夫婦世帯は621万世帯、単身高齢者世帯は601万世帯で、合計1222万世帯だった。それが2025年には10.1%増の1346万世帯、2035年には13.5%増の1387万世帯に増えると、政府は試算している。

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単身高齢者世帯、高齢者夫婦世帯数の将来予測

(出典:「日本の世帯数の将来推計」「国勢調査」をもとに国土交通省作成)


 現在の「サ高住」の戸数22万戸足らずに対し、希望すればその入居者になれる高齢世帯の数は1200万を超えていて、しかも今後、20年近くにわたり増え続けていく。

 「サ高住」を含めた高齢者向け住宅の数については、政府が2016年3月18日に閣議決定した「住生活基本計画」で「2025年には高齢者人口の4%がそこに住めるよう、146万戸を供給する」という数値目標を打ち出した。2014年の供給数は69万戸だったので、11年で77万戸増え、2.1倍になる計算だ。

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政府の高齢者向け住宅の供給目標

(出典:住生活基本計画(2016年3月18日閣議決定))


 実績値や、支援策をとっている政府の予測値を見れば、「サ高住」を含めた高齢者向け住宅の建設・運営を「スケールが大きい成長産業」と言っても、差し支えないだろう。同じ高齢者が対象のビジネスでも、介護保険制度発足時から迷走を続けた介護サービスとはまた違った世界が、そこには見えてくる。

高齢者の日常の買物のほとんどが事足りる

 高齢者住宅を成長産業と見て、住宅メーカー、マンションデベロッパーのような建設・不動産業界をはじめ、鉄道、電機メーカー、大手流通チェーンなどさまざまな業種が参入しているが、その中に、まだ小規模ではあるが「ドラッグストア」もある。

 6月末現在、全国の「病院」の数は8426、「一般診療所」の数は10万1840ある(厚生労働省「医療施設動態調査」)。その外来患者が、医師の処方せんを外の調剤薬局に持っていき、そこで薬を買う「医薬分業」率は、2016年度は71.7%に達している(基金統計月報、国保連合会審査支払業務統計/歯科含む)。その「調剤薬局」の数は8月1日現在で5万7743個所(厚生労働省「保険薬局数」)。小売業のうち「ドラッグストア」の数は、7月末現在1万4569店舗ある(経済産業省「商業動態統計」速報)。

 調剤薬局といえば、病院、診療所のそばに店を構える「門前薬局」をイメージする人も多そうだが、ドラッグストアの大手チェーンも医薬分業率の高まりに対応し、調剤薬局を併設した店舗を増やしている。2007年4月の医療法改正で、調剤薬局併設型のドラッグストアが「医療提供施設」と位置づけられたことも、それを後押しした。

 大手では、ツルハHDは1765店舗中419店舗(8月15日現在)、マツモトキヨシ(単体)は722店舗中49店舗(6月1日現在)、ウエルシアHDは1551店舗中1042店舗(5月末現在)、ココカラファインは1159店舗中103店舗(6月末現在)、サンドラッグは831店舗中70店舗(6月末現在)、スギHDは1067店舗中908店舗(7月末現在)に、調剤薬局を併設している。他社と一線を画していたコスモス薬品も2016年、調剤薬局事業に本格参入している。

 とはいえ、大手ドラッグストアにとって「薬」はもはや、主力商品ではない。

 経済産業省が集計した2017年7月の「商業動態統計」によると、ドラッグストアの商品別の売上高で「調剤医薬品」は全体の6%、「OTC医薬品(いわゆる「売薬」)」は14%で、合計でもたった20%にとどまる。売上高で薬を上回るカテゴリーは食品(27%)で、化粧品などビューティーケア、家庭用品・日用品、トイレタリーも、今のドラッグストアにとって重要な商材カテゴリーである。

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ドラッグストアの商品カテゴリー別売上高比率

(出典:経済産業省「商業動態統計」速報 2017年7月分)


 コスモス薬品などは食品の安売りで業績を伸ばし、「コスモス食品」と呼ばれるほど。各社とも基本戦略として店舗面積を拡大し、調剤薬局も入れれば、化粧品も日用雑貨も食品も売る。生鮮食品も置く。そんな店は近くのコンビニや食品スーパーともろに競合している。消費者の目線で言えば、コンビニや食品スーパーに寄らなくても、日常の買物の大部分がドラッグストア1店舗の中だけで、すんでしまう。

 病院に通院している高齢者なら、処方せんを出して薬を買い、日用品、雑貨、パンや飲料などの日配食品、さらに生鮮食品もついでに買って、全て1店舗内ですませられる。できないのは衣料品や電化製品や本などだが、それらは買物頻度が高くなく、高齢者なら頻度がさらに低下する。

 商品も販促も若い世代向けが多いコンビニも、足が遠のきがち。食品スーパーまで足を伸ばしたくても、足腰が弱ると行きづらく、おっくうになる。75歳以上の後期高齢者になれば、なおさらだ。

 「調剤薬局併設」という専門性、「生鮮食品も日用品もみんな揃う」という“よろず屋”的な利便性、そして価格が「コンビニより安い」「食品スーパーと張りあう」水準なら、「楽々、ワンストップ・ショッピングができる」ドラッグストアが高齢者から厚い支持を受けるのもうなづけるだろう。

【次ページ】高齢者コミュニティの「核施設」になる存在

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