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  • 2017/09/11 掲載

「駅すぱあと」のジオターゲティングはなぜユーザーに受け入れられるのか

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IoTにより、生活者を取り巻くさまざまなものがデジタル化し、その流れはパーソナルデータ、すなわち生活者の「生活習慣」ともいうべきものにまで及んでいる。企業のマーケティング活動においても、生活者との接点や情報取得管理の手法をどのように捉え直し、何が顧客にとってのメリットとなり得るのか、新たな視点での判断が必要だ。日ごろから「ジオターゲティング施策」に取り組む電通、東急不動産SCマネジメント、ヴァル研究所、ブログウォッチャーのマーケターが、次世代のエリアマーケティングをどのように推進していけばよいかについて議論を交わした。
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取得可能になった膨大なデータは、どこまで生活者の“リアル”と同期し、経済的な価値をもたらすのか

パーソナルデータを活用する「スマート社会」の到来が近づく

 GPSデータの活用によるジオターゲティング施策にはさまざまなものが登場している。ジオデータを取り巻く環境もまた日々進化を続けている。

 7月18日に開催された「アドテック京都」では「パーソナルデータマイニング&位置情報データー重要性と効果」というセッションが行われ、電通の朱氏をモデレーターに、3名のパネリストが自社での施策の取り組みや活用法について語った。

 朱氏は、直近の動向について言及。2017年8月には準天頂衛星「みちびき3号」の打ち上げが成功し、GPSデータの計測精度はさらに向上している。以前は10m程度の単位で計測されていたデータが、6cm程度にまで改善され、リアルな空間情報により近い、緻密なデータが取得できるようになってきた。

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電通 BIプランニング推進部 チーフ・プランナー 朱 喜哲氏。スマートフォン位置情報を活用したジオ・ターゲティング広告の黎明期から実用化と普及に取り組む

 一方、2017年3月にはジオターゲティング施策等で用いられるWi-Fiやビーコンなどの屋内測位データに関し、国土地理院が管理する「パブリックタグ」という標準規格の仕様書が公開され、ジオデータのプラットフォーム化計画が発表されている。

「ジオデータの正確性や規格整備が進むことで、物理空間からサイバー空間へ、パーソナルデータがどんどんデジタル化された“超スマート社会”の実現も不可能ではなくなっています」(朱氏)

 リアル社会がデジタル化し、さまざまなパーソナルデータが位置情報と紐づけられ、可視化される。こうした実経済における詳細なパーソナルデータの取得、それを活用したマーケティング施策については、期待と同時に生活者として不安があるのも事実だ。

ジオデータから「銀座」の活況を可視化すると…

 これについて「どんなデータがどのように使われるのか、生活者側の不安は当然あると思う」と述べるのは、ブログウォッチャーの酒田氏だ。酒田氏は、スマホアプリを位置情報データに対応させるソフトウェア開発キット(SDK)や、飲食店や大手スーパーの近くでチラシを配信するクーポンアプリの提供、位置情報データを用いたアドネットワーク展開等を手がける。

 実際、ジオデータのプラットフォームからはどのようなデータが得られるのか。酒田氏は、一例として東京の一等地“銀座”を例に挙げた。

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ブログウォッチャー プロファイルパスポート プロデューサー 酒田 理人氏。位置情報データプラットフォーム「プロファイルパスポート」の研究開発を行い、事業責任者に就任

「銀座の立地は、北にハイブランドや高級ブティック、中央には百貨店、南にはレストランや飲食店が分布しています。また、平日は昼と夜に混雑のピークを迎え、休日は昼下がりから夕方がピークとなります。買い物に食事、時間帯ごとに人が集まる場所も目的も異なるのです」(酒田氏)

 我々が肌感覚で認知していることも、数字やデータで可視化してみるとまた新たな発見や違った仮説が出てくることがある。酒田氏は、施設の注目度と、エリアの活性化への貢献には「強い相関関係が確認できるケースと、そうでないケースがある」と指摘する。

「話題性の高い商業施設がオープンすると、その施設に近いところはついでに足を運んでも、離れた場所までは行かない。その一方で、A店からB店へという“定番”の流れがあることもデータから裏付けられました」(酒田氏)

 酒田氏は、日付や時間帯によって街を訪れる人の動きはどう変わるか、データによって予測が可能となると述べる。すなわち、この街はどういう街で、店舗にはどんな人がどこから訪れるのか、位置情報を大量に集積することで、街の活況を示す“ヒートマップ”が浮かび上がるというのだ。

 これは広告主側にとっては、展開中のマーケティング施策が適正なのかという検証材料にもなるし、今後のヒット予測も含めた仮説検証の道しるべにもなる。

 とはいえ、“パーソナルデータを提供しないと損をする”というところまで、データ提供者である生活者の利益を高められるのか。商業主義の観点で見たイノベーションだけが進んでも、生活者の不安は解消されない。超スマート社会の実現には、生活者がパーソナルな情報を提供することにより享受できるメリットで満たされている必要がある。

ニーズに寄り添い、ポジティブなサービスに転化

 生活者が位置情報を提供して利用するサービスとして、身近なのは経路検索サービスだ。このジャンルの老舗である「駅すぱあと」は、iモード公式時代からモバイル環境の進化とともに、細やかなチューンナップを図ってきた。企業向けにAPIやASP、SDKなどを提供するほか、位置情報の履歴を元にしたアドネットワーク、検索・閲覧履歴を基にしたコンテンツ配信も行う。

 ヴァル研究所の菊池氏は「ユーザーに合わせた情報配信を行っている」と説明する。

「託児所、保育園、公園、病院、など乳幼児に関連する施設に立ち寄る頻度が高いユーザーであれば、ベビーグッズを販売するショップ、近隣施設のサービスなどをプッシュで通知するといったことです」(菊池氏)

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ヴァル研究所 部長 菊池 宗史氏。「駅すぱあと」のプロモーション、広告部門の立ち上げを経て、現在は同社のセールス部門、マーケティング部門、サービス開発部門のソリューション事業部の統括部長に従事

 Wi-Fiやキャリア通信からの接触状況を用いた情報配信以外に、ビーコンを用いた情報配信手法では、駅前に設置されている周辺情報掲示板にセンサーを設置。たとえば「いま銀座駅の改札を出た」という情報をビーコンでキャッチし、アプリからプッシュ通知が行われるシステムを用いて、近隣の飲食店情報などをプッシュする実証実験を行った。

「実際にやってみると、現地での運用負荷が思いのほか高かった。公共の場にある掲示板にセンサー機材を設置するとなると、盗まれないだろうか、バッテリーはどうするのか、細かいメンテナンスに悩まされる部分もあります」(菊池氏)

 実証実験を重ねて現在運用しているサービスでは、利用したことがある駅の履歴をビーコンデータで蓄積しておき、初めて降りる駅では、到着した時点で構内や出入口案内データをプッシュ通知してくれるサービスもある。

「ユーザーアンケートでは予想していたよりポジティブな意見が多く、初めて降りる駅やターミナル駅の複雑な構内では、『入口・出口情報がもっと欲しい』というニーズがあることがわかりました」(菊池氏)

 現状は、アプリの設定で「位置情報利用を常時ONにする」といったユーザーの同意を前提にしたサービス提供としている。

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位置情報を用いて、バスの運行状況をバス停のサイネージに表示する、到着予定をプッシュ配信するなど、よりきめ細かい情報提供も行われている

 この理由について、菊池氏は「ユーザーに受け入れられやすいアプローチが必要だから」だと述べる。強引なアプローチでパーソナルデータを取得すると、ユーザーから拒否反応を示されかねない。また、アプリ側でもデータ収集に関する審査基準が厳しくなる傾向にあり、たとえば、iOS 11以降のバージョンでは、バックグラウンドで動作するプログラムへの審査基準が厳しくなっているという。

 よりユーザーからのポジティブな声を拾い上げ、求められるサービスを作り続ける必要があると菊池氏は語った。

【次ページ】あべのキューズモールは活用に慎重、ジオターゲティングを“ウザい広告”にしないためには?

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