IT経済基礎講座 記事
過去四半世紀のIT分野をリードしてきた企業を思い浮かべると、IBM、アップル、マイクロソフト、インテル、アマゾン、グーグル、フェイスブック、ツイッターなど米国企業が勢ぞろいする。だからといって、放送と通信の融合や著作権をめぐる問題などで、米国型の諸制度をそのまま模倣してもうまく事が運ぶとは限らない。なぜなら、現実の経済社会を動かすのは、法律などのフォーマルなルールだけでなく、長年にわたって積み上げられてきた業界慣行などのインフォーマルなルールでもあるからだ。
(04/11 00:00)
ITが企業活動に及ぼす影響は、組織再編などの大掛かりなものから、文書のデジタル化まで幅広い。そのため、IT時代の企業経営では、網の目のように張り巡らされた各種の制度変更が必要になる。この点は日本に限らず世界各国で共通のことだ。大切なのは、技術変化の激しいスピードに対処できる制度の「形成能力」であり、“ソフトな”インフラ力である。(03/16 00:00)
ITの進歩と普及は、「情報」にかかる費用を低下させて「情報の非対称性」を解消し、市場の機能を高める。だが、技術が進歩したからといって、法律などの「制度」に関する費用が自動的に下がるわけではない。むしろ、ITが新たな不均衡を生み、さまざまな制度改革を突きつけることで追加の費用が生まれる。2000年前後に相次いだ日本の商法改正は、近代日本における4度目の大きな制度改革であったが、実は、これにもITが深く影響していた。
(02/28 00:00)
これまでの連載では、ITの導入に伴う「仕組みの見直し」を、企業組織や産業組織の二層構造で考えてきた。しかし、ITはそれにとどまらず、企業が活動する舞台装置(=市場)を取り巻くさまざまな仕組みにも変化をもたらしている。それは市場が、効率的な社会的分業に欠かせない「情報処理機構」であると同時に、極めて「制度的な存在」でもあるからだ。この「市場の二面性」によって、会計制度や企業法制などのコンプライアンス(法令遵守)といった、一見するとITとは無関係に思えるような制度改革が求められるのだ。今回は、その基本原理を考えてみよう。(01/20 00:00)
社外に広がる英知を結集し、専門性の高い企業が連携の経済性を発揮すれば、行き詰まった経済に新風を起こすことが可能だ。その実像に迫った『ウィキノミクス』では、紙オムツ用の吸収剤が大陸間海底ケーブルに利用された例など、示唆に富む内容が豊富に取り上げられている。もちろん、範囲の経済性を発揮する総合型企業にも強みはある。大切なのは、両者の長所と短所を見極めて、イノベーション時代にふさわしい組織のあり方を考えることだ。そのカギをにぎるのが、今回説明する「Exit」戦略だ。
(12/16 00:00)
新しい技術と創意工夫が次々にわき起こるネット時代には、すべてを自社で揃えてしまおうとする「自前主義」や「総花的」経営は行き詰まってしまう。社内に多くの経営資源を抱え込む大企業が陥りやすい落とし穴だ。新規参入が相次ぐ競争的市場では、自社の外側に広がる新規性と多様性をうまく取り入れる連携力がものをいう。これが大企業の多角化を支えた「範囲の経済性」とは対極にある「連携の経済性」のメリットだ。
(11/18 00:00)
インプット市場で生まれる「規模の経済性」は大企業に有利なため、産業組織では独寡占化が促される。だが、同じスケール・メリットでも、アウトプット市場で生まれる「ネットワーク効果」の場合は、必ずしもそうはならない。1980年代のパソコン市場や1990年代のインターネット市場の急拡大が物語るように、「ある条件」が備われば、多くのスタートアップ企業が参入し、活発な競争を通じて多様な財やサービスが供給される。その条件とは何だろうか。PCやスマホ、キーボードなどの具体例をもとにみていこう。
(10/12 00:00)
米国同時多発テロ事件から10年が過ぎた。いくつかの報道によると、一連の犯行にはネットが駆使されていたという。今年7月には、ノルウェーで多くの死傷者を出す乱射事件がおきたが、犯人は極端に偏った考えをネットに書き込んでいたようだ。IT時代にこうした惨事を防ぐには何が必要か。リアルとバーチャルが乖離しやすいネット社会であればこそ、逆説的だが、対面による生のコミュニケーション能力が大切なようだ。(09/12 00:00)
ITが単なる情報処理マシンから有効なコミュニケーション・ツールへと変貌する中で、ネットワーク効果と連携の経済性という2つのメリットを持つ「ネットワークの経済性」が生まれている。ヒト、モノ、カネを囲い込む「大企業だけが有利」というかつての常識が通用しなくなり、多様なスタートアップ企業群が大企業に勝る収益力をつけているのはそのためだ。規模の経済性などの伝統的な概念と対比して、新しい経済性への理解を深めれば、この大変化を読み解くヒントが見えてくるはずだ。
(08/22 00:00)
ITの世界では新しいことが次々と生まれている。そのため、IT投資が効果をあげるには、永続的な企業改革が欠かせない。企業改革の実態は多様だが、インフォメーション・エコノミーの枠組みで整理すると、ダウンサイジング、リストラ、リエンジニアの3つに大別できる。それらの違いをしっかり見極めれば、何が成果につながるか、その道筋が見えてくるはずだ。(07/26 00:00)
東日本大震災からおよそ3カ月が経過した。IT関連資本ストックの被害額を推計すると、最大で4.4兆円とみられるが、この失われた資産の復旧投資が速やかに起きれば、7兆円の生産誘発効果と35.7万人の雇用誘発効果が見込まれる。だが、地震と津波による甚大な被害に加えて、原発事故に伴う放射能漏れと電力供給の制約などで、震災から3カ月経過した今も先行きへの不透明感が払拭できない点が気がかりだ。今回は、東日本大震災が日本経済に及ぼす影響をインフォメーション・エコノミーの枠組みで考えることとしたい。(06/17 14:00)
IT革新は「市場の取引費用」と「組織化の費用」の両方に変化をもたらす。それは単なるコスト削減効果ではなく、新領域の拡大というイノベーション効果を生むが、同時に、これまで最適であった市場と企業の境界に揺らぎを引き起こす。アウトソーシングかインソーシングかを選択する「コースの法則」で読み解くと、IT導入でトップ・マネジメントによる改革がなぜ迫られるのか、企業分割や合併(M&A)など高度な経営判断の本質が見えてくる。(05/20 00:00)
アウトソーシングすれば市場を利用するための取引費用が必要となる。ノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースは内部化(=インソーシング)によって、この費用を節約する点に「企業の本質」があると考えた。それでは、すべての取引を内部化してアウトソーシングをなくしてしまうのが良いのかといえば、実はそれもまた問題が多い。今回は、企業という内部組織が市場の価格メカニズムを駆逐してしまわないのはなぜか、インソーシングのデメリットについて考えてみよう。単純階層組織から多数事業部組織へと企業を発展させるポイントが見えてくるはずだ。(04/21 00:00)
IT導入の影響が及ぶ範囲は企業内の分業に留まらない。それは市場を通じた企業間の分業にも及んでおり、「企業と市場の境界」に鋭い変革を突きつける。前者はインソーシング、後者はアウトソーシングということもできる。今回はその深い意味について、ノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースが1937年に発表した「企業の本質」という古典的論文に遡って考察していこう。(03/14 00:00)
ITを使えば、どんな作業も「効率化」することができるが、そこに落とし穴もある。社内を見わたすと、かつて重要であったとしても、現在は意味を失っている業務もあるはずだ。ITの導入に際しては、企業の価値創造にとって何が必要か、本質を問う姿勢で業務の洗い直しをしなければ、「効果のない仕事を効率化する」ことでムダを増大させてしまう。既存の枠内で速さを競う「効率化」ではなく、革新が続くITを活用して新しい仕組みを「効果的に」創出していくことが重要だ。(02/18 00:00)
TPP(環太平洋経済連携協定)を巡る政策論争から社内公用語として英語を採用する動きまで、日本でもこのところグローバル化の機運が一段と高まっている。今回は、新春にふさわしく、やや長期の時間軸で情報化(=IT化)の潮流を振り返りながら、それをとりまくグローバルな政治・経済の枠組みの変貌を俯瞰して、2011年がどのような年になるのか、思いを巡らせてみよう。(01/20 00:00)
ITの導入は、企業の内部で分担されている業務の効率化だけでなく、分担された業務と業務との間を調整する場面にも影響を及ぼす。これは「分業」による「協働」という企業組織の根本的なあり方や仕組みに深く関わる問題で、各社それぞれに固有の特質があると考えられる。それゆえ、IT導入に伴う企業改革では、他社の事例を表面的に模倣するのではなく、分業と比較優位の本質を問う姿勢で社内の業務領域を見直すことが大切だ。(12/21 00:00)
企業の内部を見渡すと、職務の分担という形で、実にさまざまな分業が行われている。経済学の父とされるアダム・スミスが『国富論』で丹念に描写し たように、分業によって生産性が飛躍的に高まるからだ。ところが、前回みたように、経済活動では「分業にもとづく交換」があるために「情報」の問題が生じる。この矛盾こそがITを導入する場面で鋭く突きつけられる企業改革の課題なのだ。今回からは、企業幹部がアシスタントに任せず自らキー ボードを打つのは合理的か?という問いかけを、分業と比較優位の基本概念に立ち返って考えてみよう。
(11/17 00:00)
ITの導入が生産性の向上に寄与することは検証されたが、そうした効果は自動的に生まれるわけではない。ITの導入にあわせて、業務の見直しや人材の再訓練などを行い、かつてITがない時代に形成された古い仕組みを改めることが重要だ。その本質を追うと「分業に基づく交換」という経済活動の基本構造にたどりつく。今回は、子供のころに読んだロビンソン・クルーソーの冒険物語でこの点を考えてみよう。(10/28 00:00)
リーマン・ショックによるグローバルな経済の混乱からちょうど2年が経過した。ITによる「仕組みの見直し」について議論を深める前に、今回は特別編として、不透明感がなかなか払拭できない今の経済情勢の中でIT投資にどのような動きがみられるか、経済危機の震源地となった米国の現地調査(注1)もふまえながら取り上げてみよう。(09/27 00:00)
製造業に比べて生産性が低かったサービス分野でITの導入が進み、雇用を増加させている現象は、資源が非効率な分野にシフトしているということではなかった。高い生産性のIT製造分野とIT利用のサービス業は相互に強い関係性を持ちながら、マクロ経済全体として成長力の加速を実現していたのだ。このことは、データの改定と蓄積が進んだ2000年以降の研究で実証的にも確認された。(08/18 00:00)
ニュー・エコノミー論争は、グリーンスパンFRB議長(当時)の証言や後にノーベル経済学賞を受賞するクルーグマン教授の批判などが加わったことで白熱した。中には、もはや既存の経済学は古すぎて、新しい経済には適用できないという説さえみられたが、こうした言説は、その後のITバブル崩壊でみごとに否定され、今度はIT投資による生産性向上は幻想に過ぎない、というもう一方の「極論」が生まれた。
(07/21 00:00)
「ソロー・パラドックスは解消しつつある」という見方が次第に広がる中で、1990年代の後半に湧き起こったのが「ニュー・エコノミー論争」だ。この論争は、アジア通貨危機(1997年)で世界経済が混乱の渦中にあっても、なお順調に拡大を続ける米国経済の「高い成長率」と「景気の持続力」を巡って繰り広げられた。IT投資による経済再生で、景気循環が消滅し、永遠の繁栄がもたらされるという極論まで生むことになるこの論争の出発点をみておこう。(06/16 00:00)
IT導入の経済効果については、1990年代の米国を対象としたミクロ分析やマクロ分析に加えて、19世紀末から20世紀にかけてみられた蒸気機関から電力への技術変化など、産業革命後の技術革新が経済社会に及ぼした影響を探る歴史分析も盛んになった。それは、米国経済の再生を背景に、時間が経過すれば間違いなく効果が現れるはずだという解釈と結びつき、後にバブルへとつながる過剰な自信をも醸し出していった。(05/24 00:00)
前回も述べたように、1990年代序盤まで、米国ではITによる生産性の向上に懐疑的な見方が蔓延していたが、1990年代中盤以降になると、産業界の実感としても、研究者たちの実証分析でも、プラスの効果が確認されるようになった。この背景には、1991年3月から2001年3月まで続いた戦後最長の景気拡大があったが、その原動力こそ、企業のIT投資であった。日本経済が「失われた10年」に陥ったころ、米国経済は「もっとも健全な10年」を経験したのである。(04/19 00:00)
前回ご紹介したソローの書評は、バラ色の情報化社会論と現実とのギャップを感じはじめていた人びとの関心をひきつけ、ITと生産性の問題が学界や産業界で広く注目されるようになった。ただし、生産性論争が盛んになるにつれて、「Why?」というソローの深い問いかけは、次第に「YesかNoか」という極端な問題設定に変化していった。今回は、当時の時代背景とそこで繰り広げられた議論の変遷をみていこう。(03/17 00:00)
ミクロ経済学の応用として緻密な論理が積み重ねられた「情報経済学」と気宇壮大な文明論にまで広がる「情報化社会論」との間には埋めがたい溝があった。この状況に転機をもたらしたのが「ソロー・パラドックス(Solow Paradox)」だ。ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソローの鋭くも軽妙なコメントによって、米国でも生産性論争が湧き起こり、情報に関する経済論議を生産性分析や経済成長論といった主流派のマクロ経済学者が興味をもつ領域に導いた。今回はその起源と背景をみることにしよう。(02/23 00:00)
かつて文明論、未来論的に語られてきた「情報化社会」は、概念の整理と数値化の努力によって、定量的な実態解明がなされるようになった。ところが、実証分析が深まるうちに、「情報化の進展は本当に発展といえるのか」という思いがけない疑問が生まれた。情報化が進めば経済成長が鈍化するという分析結果が導かれたからだ。今回はこの「情報化のパラドックス」について解説しよう。(01/15 00:00)
情報化の進展はどのように数値化できるだろうか。多くの研究者が長年取り組んできた課題だ。さまざまな論考と実証研究が繰り広げられる過程で「産業の情報化」と「情報の産業化」という概念が生まれた。今回は、経済全体を鳥瞰し、情報化がどう進展しているかを把握するのに優れたこの概念について解説しよう。
(12/18 00:00)
ユニークな発展段階論を唱えた梅棹忠夫は、情報財という「奇怪なる擬似商品」の特殊な性質について、「立ち読みお断り」や「坊主丸もうけ」という親しみやすい表現で鋭い洞察を行った。「情報が疑似商品」だった1960年代に、将来は「商品が疑似情報」になると着想した彼の考え方は、その後の「情報経済学」で生まれた新しい概念に通じるものがある。今回はこの点を解説しながら「ネットブックはなぜ100円なのか」を考えてみよう。(11/19 00:00)