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  • 2025/06/09 掲載

茂木健一郎氏:「Pythonできても意味がない時代」が到来、“文系の逆襲”が始まった

茂木健一郎氏インタビュー後編

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米中が主導するAI開発競争の中で、日本のIT企業やデジタル担当者に求められるのは「丁寧な実装力」だ。脳科学者・茂木健一郎氏は、AIを社会に溶け込ませるには、評価関数で捉えきれない“生きがい”や“違和感”といった人間特有の感性を扱う力が不可欠だと指摘する。今後、AIと人間が共存する方法について、茂木氏に単独インタビューを行った。
取材協力:脳科学者 茂木 健一郎

脳科学者 茂木 健一郎

1962(昭和37)年、東京生れ。脳科学者/理学博士。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部卒業後、同大大学院物理学専攻課程を修了。理化学研究所、英ケンブリッジ大学を経て現職。クオリア(意識のなかで立ち上がる、数量化できない微妙な質感)をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。主な著書に『脳と仮想』(小林秀雄賞受賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫賞受賞)、『ひらめき脳』、『「脳」整理法』、『生きがい』など。

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脳科学者 茂木健一郎氏

今後の企業はどうAIを使うべき?

 今後、あらゆるサービスやプロダクトは、AIが前提として組み込まれた状態で社会に実装されていくでしょう。この流れの中で企業がどうAIを活かしていくかは、極めて重要なテーマです。

 現在の世界は、米国のOpenAIやxAI、中国のDeepSeekといったプレーヤーがファウンデーションモデルを先導する米中の二極構造になっています。そうした中、日本がどう存在感を示すのかが問われています。

 私は、海外企業のAI基盤を現場に落とし込み、丁寧に実装していく作業にこそ、日本の強みがあると考えています。それは、日本のITベンダーがあえて自らを「AIゼネコン」と呼ぶような姿勢です。

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日本のIT企業は「AIゼネコン」の強みを生かすべきだという

 たとえば、どれほど優れたAIモデルがあっても、それをビジネスに使っていくには細かい調整が欠かせません。いくら「ChatGPTがすごい!」と言っても、それだけで飯が食えるわけではない。そこに身体性を与え、社会にフィットさせていくプロセスこそが肝心なのです。

 この意味で、日本のITエンジニアたちは、自らの仕事にもっと誇りを持っていいのではないでしょうか。世界的に見ても、総合商社のような複雑な調整型のビジネスができる国は少ないのです。

AI時代においても、日本は“AIの総合商社”的な立場で、グローバルに貢献できる余地があると私は考えています。

AIが人間の生きがいを奪うのは避けたい

 一方、AIの実装が進む中で、もう一つ重要なのは「生きがい」をどう守るかという視点です。手前味噌な話ですが、昨年、ドイツで『Ikigai(生きがい)』という著書が年間ベストセラー1位になりました。この「生きがい」は、実はAIアラインメントの新しいキーワードとして注目されています。

 米国のレックス・フリードマン氏やヤン・レクン氏らがポッドキャストで語った「Ikigai Risk(生きがいリスク)」という概念。これはAIが人間から生きがいを奪うような使い方をすべきではないという警鐘です。

 そもそも「生きがい」は評価関数にとらわれない、非常に人間的な価値です。AIは基本的に評価関数の最適化に基づいて動きますが、人間の生きがいは外部から数値化されるものではありません。

この“とらわれなさ”をどうAIとアラインさせるか。そうしたアラインメントこそが、今後のAI実装における日本ならではの役割になるのではないかと見ています。 【次ページ】これから求められるのは文系の人材?
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