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  • 2009/10/07 掲載

「デモシカIT」から「これこそIT」へ:中堅・中小企業市場の解体新書(5)

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ITという情報武装率が中堅・中小企業でも高いことは、すでに本連載の第1回でも触れてきたが、「ITによる情報武装=経営に役に立つこと」、この常識は必ずしも通らない。今や企業経営や現場にとってITを活用することは前提になっているが、しかし旧来からの事務用機器や通信手段から置き換わっただけという指摘も多い。ならば「経営課題解決のためのIT」とは何かが問題だ。実際にその目的のためのIT活用も霞がかかってきており、外部からの情報提供や提案も枯れてきている。ましてや単なる「新たなITシステムの提案」もユーザー企業は受け取る機会も少なくなっており、そして販売店も提案できない(スキル不足)という閉塞感が漂っている。

ノークリサーチ 伊嶋謙二

ノークリサーチ 伊嶋謙二

ノークリサーチ 代表取締役社長
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て,98年にノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。

依頼がなければ提案できない「販売店」の実力

 寒い経済環境下で、中堅・中小企業のIT投資意欲は低下しており、たまにあるRFP(=Request For Proposal、提案依頼)に対して、たとえば10件もの販売店が殺到することが日常茶飯事のようだ。まさにユーザにとっては「入れ食い」状態だが、当のユーザー企業も10件もの提案を吟味するのは大変だろう。それを見極めるためのスキルも時間も大きな負担になってしまうので、必ずしも良い状態とは言えないことは理解できよう。

 そもそも10件もの競合では、一定の要求レベルがクリアできれば、あとは価格勝負ということになる。そのため、死にものぐるいで案件を獲得しても、相当に絞りこんだ額で受注しており、「価格主導の勝者なき闘い」に陥いることになっている。

 多くの販売店は、それでも少ない案件の中からなんとか商談を得ようと、価格重視の“安っぽい提案”に終始しつつある。そこでは、販売店が持つ「差別化要因」や「得意技」は発揮しにくく、しかもユーザーにとって本当に最適なシステムを提案できるかどうかは怪しい。

 このような状況なので、「入れ食い」と表現した中堅・中小のユーザー企業も、どう販売店やベンダーを見極めるのかは容易ではない。苦しい経済環境の中で生き残りを掛けるわけだから、その見極めは冷徹で明確な主体を持って決定すべき事項となる。

 しかし、残念なことに、現在多くの販売店やベンダーは「打診やフックがないと提案できない」という受身の営業が主流になっている。良し悪しはあるが、かつてのローラー営業のような飛び込みスタイルは少なくなり、あらかじめ打診があるものについて、ユーザ企業の要件を聞いて、それに見合うシステムを提案するということがほとんどだ。

 かつてのローラー営業は人件費がかかりすぎるし、小規模な案件や利益確保が見込めないユーザーへは営業すらしなくなる。営業はより企業数の多い地域やある一定規模以上の年商がある企業に集中する。そうすると販売店が1つの案件に群がり、価格勝負に陥る。そこでも結局価格の叩きあいになる、という悪循環に陥る。これではいつまでたっても小規模企業への経営に役立つIT提案はされないことになってしまう。

「デモシカIT」から「これこそIT」へ

 小規模企業であっても、IT導入が強く促される要因としては、次の2つが考えられる。

A:「決まりがあって、それを入れることが仕事の前提条件」
B:「これが無ければ仕事上困る、あるいは仕事をしにくい」

 こうした強い強制力があればITは否が応でも導入せざるを得ない。まずはこの条件に当てはまるものについて考えてみよう。

 まず、A:の代表的なものは企業間取引での専用ITインフラ、たとえばEDI(Electronic Data Interchange)システムなどがある。これは企業の基幹システムがどうであろうと、取引上必要なものであり、対応するシステムの導入が求められる。

 一方のB:も導入が強く促されるものだが、A:よりもしばりが少ない分、何かに代替されるか、システムの作り込みに温度差が出やすい。典型的なものがメールのセキュリティだ。本来はセキュリティの甘い会社と取引すること自体がリスクだが、問題発生のあとにしか、その重要さが理解されない。そのため、重要だが必須ではないため、後回しになっているITの代表的なものだ。

 「これでもいいか、これしかないので仕方なく使うIT」いわゆる「デモシカIT」と、「これを行う、進めるためにはこのソリューション、システムしかない」いわゆる「これこそIT」は、決定的に違うものだ。

 現実的な「これこそIT」だったのが、自動化、正確さ、早さによって、具体的な効果が見込まれる、いわゆる「定型業務」を支援するオフコン導入だった。これによって、ITは企業活動に極めて革新的な業務改善を行うことができた。

 ところが、企業個別の事業を助ける、あるいは牽引するための「ツール」、いわゆる企業個別的業務、属人的なナレッジなどの「非定型な業務」については、極論をいえば、願望や概念はあっても、企業にとって実現可能なシステムやソリューションというものは実際には得がたいものの1つとなっている。

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