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  • 2009/12/03 掲載

スマートグリッドとは何か?知っておきたい次世代電力ネットワークの基本【2分間Q&A(62)】

まったく新しい電力網で再生可能なエネルギーを推進

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次世代の電力ネットワーク、スマートグリッドは、これまでの電力ネットワークを抜本的に見直し、IT技術や新しい発電方法を組み合わせ、まったく新しい電力網と再生可能なエネルギーを推進するという、壮大な取り組みだ。今回は、この具体的な内容について見ていくことにしよう。

池田冬彦

池田冬彦

AeroVision
富士総合研究所(現みずほ情報総研)のSEを経て、出版業界に転身。1993年からフリーランスライターとして独立しAeroVisionを設立。以来、IT系雑誌、単行本、Web系ニュースサイトの取材・執筆やテクニカル記事、IT技術解説記事の執筆、および、情報提供などを業務とする。主な著書に『これならできるVPNの本』(技術評論社、2007年7月)、『新米&シロウト管理者のためのネットワークQ&A』(ラトルズ、2006年5月)など多数。

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まったく新しい電力網構想

 ITやエレクトロニクス技術の発展により、電力需要は世界的に増える一方だ。日本では夏になるとエアコンの消費電力が増え、電力会社が節電を呼びかけることもしばしばだが、特に深刻なのがアメリカだ。2003年に発生したアメリカ東部の大停電は記憶に新しいが、その後も電力需要は増え続け、散発的な停電がたびたび発生しているのが現状だ。特に、シリコンバレーを抱えるカリフォルニア州では、2006年に162分もの停電が発生している。

 この原因は、主に電力網の老朽化にあると言われる。アメリカ全土には約30万Km以上もの電力網が敷設されているが、発電所や変電所の数は追いつかず、このままでは電力需要の変動に追従することができない、というのが現状だ(図1)。


図1 年間事故停電時間の国際比較(一件あたり)


 このような状況の中、既存の電力網を再構築し、IT技術でリアルタイムなエネルギー需要を把握して効率良く電気を送電するしくみが提唱された。これがスマートグリッドである。スマートグリッドという言葉はスマート(洗練された)なグリッド(電力網)という意味だ。

 スマートグリッドは、2000年頃から検討が進んでおり、さまざまな実証実験が行われている。たとえば、米国コロラド州のボールダーという町では、エクセルエナジーという電力会社が中心となり、2008年から110億円を投じてスマートグリッドによる新電力ネットワークの大規模な実証実験を行っている。この他、フロリダやシカゴでも実証実験が行われている。

 オバマ政権では、2009年8月にアラバマ、米領サモア、コロンビア地区、イリノイ、メリーランド、ノースダコタ、そしてワイオミングの7つの州と地域を対象に、約1億1900万ドルの資金を拠出すると発表したが、2009年10月には34億ドル(約3100億円)という巨額の予算を投じて米国の送電網を刷新すると発表し、世界中から注目されるところとなった。

 このように、スマートグリッドを巡る動向は米国を中心に活発化しており、ヨーロッパや日本でもそれに触発された動きが進んでいる。

スマートグリッドとは何か?

 ではそもそもスマートグリッドとはどのようなものなのか、その仕組みを見ていこう。スマートグリッドとは、単に発電所や送電網にとどまらず、家庭や工場などの電力消費地とを光ファイバーなどのネットワークで結び、最新の電力技術とIT技術を駆使して、効率良く電気を供給することが目的の1つである。

 たとえば、現状の電力網のシステムでは、家庭やオフィス、工場などが消費している電力量をリアルタイムに知ることはできない。配電盤などには電力メーターが備え付けられているが、単に積算消費量や月間消費量を知ることはできても、それ以上のことはできない。

 そこで、既存の電力計の代わりに「スマートメーター」という機器をすべての家庭やオフィスなどに設置する。スマートメーターは電力線と併設されたネットワーク回線で消費電力などの情報を電力会社にリアルタイムに転送する。このシステムで、電力会社は供給先のエリアや個別の家庭に至る、詳細な電力消費量を把握することができる。

 また、その集計値に基づく正確な電気消費量予測を立てることもでき、これまで、最大ピーク消費量をベースに建設が進められていた発電所や変電所の計画を、具体的な消費予想をベースに計画的に配置することが可能になる。また、発電所側では、リアルタイムな需要に応じてきめ細かな発電を行えるので、これまでのような無駄な発電を行う必要がなくなる。

 この無駄の排除こそが、スマートグリッドの大きな目的の1つだ。しかし、これだけでは、アメリカの古い電力網に特化した話と理解されてしまう可能性もある。しかし、スマートグリッドの使命はそれだけに留まらない。図2は米国電力中央研究所のスマートグリッドの概念図である。ここには、太陽光発電や風力発電といった、電力消費地で発電される電力システムが描かれている。


図2 スマートグリッドの概念図


 スマートグリッドは、単に電力供給を安定的に行うだけでなく、家庭やオフィス、工場といった、これまで電力を消費していた場所に、クリーンな自家発電の仕組みをも導入し、従来のように大型発電所だけに頼らず、地域で必要な電力を消費地で生産できるという仕組みも備えていることが特徴だ。

 このように、スマートグリッドは、電力供給を合理化、最適化すると共に、クリーンなエネルギー(再生可能なエネルギー)を積極的に導入することで、従来の発電所が発生していた大量のCO2を削減して地球環境に貢献するという、国を挙げての壮大なエネルギー問題への取り組みなのである。先述した米国コロラド州ボールダーの実証実験では、太陽光発電や風力発電がスマートグリッドに接続され、電力の双方向配電が稼働している。

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