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  • 2012/03/09 掲載

「失敗学」と「エスノグラフィー」をBCPにどう取り込むか

【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向

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前回は、次世代BCPに必要となる3つのキーワード(コンセプト)のうち「シナリオ・プランニング」を重点に取り上げて紹介した。今回は引き続き、残り2つのキーワードである「失敗学」、「災害エスノグラフィー」とBCPの関係について取り上げたい。

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ 森田 進

ストラテジック・リサーチ代表取締役。各種先端・先進技術、次世代産業、IT活用経営、産学官連携に関するリサーチ&コンサルティング活動に取り組む。クラウド、仮想化プラットフォーム、エンタープライズ・リスクマネジメント/BCP、モバイル・プラットフォーム、情報化投資の各分野において研究およびエヴァンジェリズム活動を展開し、実績を積む。
URL:http://www.x-sophia.com/

これまでの連載一覧

登場人物
A氏:EAP(従業員支援プログラム)の世界で経験豊富なコンサルタント
森田:筆者

BCPを「失敗学」と統合させる

A氏:前回の話で「シナリオ・プランニング」についてはおおよそ掴めました。それでは「失敗学」についてはどうですか。

シナリオ・プランニングとは
シナリオ・プランニングとは、不確実な現実世界で変化しつつある動静を認識するために、物語というスタイルを取りながら、未来への道筋をいくつか示し、とるべき適切な対応策を見出すこと。シナリオは、企業・事業体が取り囲まれている環境についての認識の根拠となる要素(ドライビングフォースなど)で構成した「筋書き(物語)」のスタイルによって構成される台本であり、同時に現時点での未来に対する認識に関わるものである。

筆者:「失敗学」は、最近よく知られてきていますね。創造的設計論、知能化加工学が専門の畑村洋太郎氏(注1)が唱えているリスクマネジメントの考え方です。当初は主に工学とかものづくりの領域を対象としていましたが、最近は経営とかマネジメント全般にその対象を広げているようです。

 畑村氏は「人類は失敗から新技術や新たなアイデアを生み出し、社会を大きく発展させてきた」という前提に立ち、「恥ずかしいから直視できない」、「できれば人に知られたくない」という具合に、負のイメージでしか語られがちな「失敗」というものに対して、ガラリと認識を変えようとしたものです。

A氏:成功にばかり目を向けたがり、失敗を隠すことがリスクマネジメント上、まずい結果をもたらすということですね。

筆者:失敗を隠すことによって、凝り性もなくもっと大きな失敗を招いてしまい、結局、何も教訓を学べないまま後悔だけが残るというのが良くあるパターンですよね(笑)。組織が固定化・巨大化すると、えてして失敗を負のイメージでしか見られず、そうした貴重な体験から転化させるという気構えも薄れてしまいます。そこで、ネガティブにしか捉えられていない失敗のプラス面に目を向けるためのアイデアを集積させたものが失敗学で、この姿勢はBCPにも欠かせなくなるのではないでしょうか。

A氏:おっしゃることはよく分かりました。でも、こうした考え方を組織全体に浸透させ、目標に到達するまでがたいへんなような気もしますね。

筆者:おおかたのリスクマネジメントは、「失敗しないための対策」に傾きがちです。しかし、失敗体験が組織のトラウマになってしまうことのほうがずっと恐いのです。小さな失敗でも目を逸らさずに直視し、そこに失敗の法則性、失敗の要因を知ることのほうがずっと大切だということです。

 この過程のコミュニケーションツールとして、たとえばソーシャル・ネットワークは有用でしょう。意見交換・対話・議論をすべきときはおおいにするべきですから。

A氏:ソーシャル・ネットワークを活用した失敗の組織学習ですか。ピーター・センゲが提唱していた「学習する組織」というアイデアを思い起こさせますね。

「学習する組織」とは
MITの講師で、組織学習協会創設者のピーター・センゲ氏によって提唱された概念で、「目的に向けて効果的に行動するために集団としての『気付き』と『能力』を継続的に高め続ける組織」と定義されている。組織やチーム単位で学習していくことができれば、個として学習する総和を超えた高度な結果を残せるという考え方のこと。

筆者:はい。ソーシャル・ネットワークを活用すれば、組織の「暗黙知」を「形式知」へと形成させていくことが可能になります。これによって、長い目で見れば組織を危機から助けてくれるはずです。こうしたことを繰り返すことで、失敗が本当に致命的なものになる前に、未然に防止する態勢・体質・習慣へ変えていくことができるという考え方ですね。

A氏:なるほど。しかし、東日本大震災の場合でもそうでしたが、失敗は一つの原因によるものではなくて、複合的なものもあるのではないですか?

筆者:まさにその通りです。リスクとか失敗体験というのは、実際にはひとつの要因だけで起こることはむしろ稀で、ほとんどのケースではいくつかの要因が複雑に絡みあって起こっています。だからこそ、失敗することを嫌がるし、その原因を解明することを敬遠してしまうのです。そこで失敗学では、「ひとつの失敗の原因はいくつもの要因が重なっており、それらの要因には階層性がある」ということを重視しています。もっといえば、失敗の現われ方に階層性があるだけでなく、失敗原因にも同じように階層性があるとという考え方なのです。

photo
図 失敗原因の階層性
出典:『失敗学のすすめ』(畑村洋太郎 講談社文庫)


A氏:とかく、誰かに責任をなすりつけてしまい、組織としての学習はおろか、会社としての責任は何もなかったことにしてしまう風潮がありますからね。

筆者:失敗をよく観察してみると、不注意とか決まりを守らない(不順守)といったことだけでなく、無知によるものや判断ミス、検討不足などさまざまが要因が複雑に重なって起こっているはずです。ですから、失敗学では特定の個人やグループだけに責任を転嫁することで済ませようとするアプローチとは考え方を異にしていると言えるでしょう。

【次ページ】「ありのまま」というのは簡単そうでじつは最も難しい

注1 畑村洋太郎氏
工学院大学グローバルエンジニア学部、機械創造工学科教授。専門はものづくりと失敗学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学など。 最近では、ものづくり分野に留まらず、経営分野における「失敗学」にその研究を広げている。2011年5月に内閣官房に設置された東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会で委員長を務めた。

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