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  • 2012/10/23 掲載

JT新貝康司副社長が語る、海外企業のIT統合における3つの重要ポイント

日本最大の大型企業買収から得たもの

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日本たばこ産業(以下JT)は、たばこ事業を中核に今や医薬事業、食品事業を展開する企業だ。2012年3月期からは国際会計基準(IFRS)に移行、同期の売上収益は連結で2兆338億円、うち32%を国内たばこ事業が、48%を海外たばこ事業が占めている。同社は、多様な価値を顧客に提供するグローバル成長企業を目指し、日本で過去最大のM&Aとなる英ギャラハー買収など、2度にわたる大型の海外企業買収/統合を成功させている。その際に同社が留意したポイント、またITが果たした役割とはどのようなものだったのか。Gartner Symposium/ITxpo 2012で、代表取締役副社長の新貝康司氏が語った。

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

レッド オウル
編集&ライティング
1964年兵庫県生まれ。1989年早稲田大学理工学部卒業。89年4月、リクルートに入社。『月刊パッケージソフト』誌の広告制作ディレクター、FAX一斉同報サービス『FNX』の制作ディレクターを経て、94年7月、株式会社タスク・システムプロモーションに入社。広告制作ディレクター、Webコンテンツの企画・編集および原稿執筆などを担当。02年9月、株式会社ナッツコミュニケーションに入社、04年6月に取締役となり、主にWebコンテンツの企画・編集および原稿執筆を担当、企業広報誌や事例パンフレット等の制作ディレクションにも携わる。08年9月、個人事業主として独立(屋号:レッドオウル)、経営&IT分野を中心としたコンテンツの企画・編集・原稿執筆活動を開始し、現在に至る。
ブログ:http://ameblo.jp/westcrown/
Twitter:http://twitter.com/redowlnishiyama

買収で一番重要なのは、自社で主体的に検討し、作業すること

photo
日本たばこ産業(JT)
代表取締役副社長
新貝康司氏
 冒頭、新貝氏はJTにおけるたばこ事業の海外事業の買収に伴うグローバル化について、次のように振り返った。1つは「“時間を買う”2度の海外企業の買収による成長」ということ。次に「日本人に過度に依存しないグローバル化」。そして最後が「そしてマルチナショナルで多様性に富んだ組織」だ。

 このうち、海外企業の買収に関連して、JTグループの海外たばこ事業を担当するのがJapan Tabacco International(以下JTI)で、スイスのジュネーブに本社を置き、日本と中国以外のたばこ事業を管轄している。1999年5月に米RJR Nabiscoの海外たばこ事業会社であるRJR International(以下RJRI)を約9,400億円で買収、2007年4月には英ギャラーを約2兆2,000億円で買収し、世界第3位の地位をより強固なものとした。

「これらの買収によってJTは、世界トップを狙うための基盤を盤石なものにすることができた。現在JTグループのたばこ販売数量の8割を海外事業が占めている。海外たばこ事業利益の大幅な増加が、経営の安定に寄与するようになった。」

 また新貝氏は2社めのGallaher社の買収目的を、地理的拡大および規模の拡大、世界マーケットの相互補完性、技術/流通インフラの強化だと説明。買収で一番重要となるのは、買収する会社自らが“主体的”に買収を検討し、作業を行うことだと強調する。

「たとえば投資銀行から投資案件を持ち込まれ、そこで初めて検討するということでは買収は絶対に成功しない。我々はどういう企業がターゲットになり得るのか、日々検討している。」

 また買収を進める上で特に留意しなければならない事項として、新貝氏は、買収目的の明確化、対象企業の選択、企業価値(=買収価格)の算定、適切なアドバイザーの選択と活用を挙げる。

 JTではGallaher社の買収を2006年12月に発表したが、実際の検討はその3年も前から開始したという。買収対象企業も当初は数社で、それを2006年半ばにGallaher社に絞り込んだ。

「買収プロセスの中ではいくつか節目が出てくる。入念に買収監査を行ってみると、我々が想定していたのとは違う姿が浮かび上がってきたり、あるいは契約交渉の過程では自分たちが望むすべての条件を獲得できるわけではない。その時には“なぜこの買収を行うのか”という当初の目的に立ち返り、どこまで手を打てるかを考えることが重要だ。」

 買収によってどれだけのシナジー効果が見込めるのかも十分に算定しておく必要がある。ただしこの点についても投資銀行などに試算を依頼すると、過去の事例を参考にして“こういう売上や事業ならこれぐらいの効果が見込める”というマクロな話しか聞くことができないという。

「その情報に依拠して買収を行うことはできない。そこで我々は買収交渉の前までに、世界中の各マーケットで、買収によって一体どんな効果が出るのかを1つ1つ、ミクロに検証していった。それらをすべて印刷すれば、3~4センチの厚さにもなる資料だ。そうして交渉に臨んだ。」

 また買収に関わる仕事をすべて外部に丸投げするのではなく、適材適所でアドバイザーに入ってもらい、そのチェックはしっかりと発注側で行うことも重要だという。

買収の成功可否は、統合作業の成功によって判断すべきもの

 次に新貝氏は、その買収が成功かどうかを決定付けるのは、買収のプロセスではなく、何と言っても買収後の統合作業にかかっていると強調する。

「買収の成功は買収の発表ではなく、統合の成功を持って判断すべきものだ。」

 Gallaher社の買収発表までは、JTIのジュネーブと東京で20名の人間が仕事をしていたが、買収後にはJTI、Gallaher社の全社員2万3000人を巻き込んだプロジェクトに変貌することになる。

「統合作業時には買収側、被買収側の社員だけでなく、双方の役員も普段の仕事が手に着かなくなる。こういう現実になることは常に頭に入れておかなければならない。」

 また不安定な状態が続けば、自社のチャンスだと思って取り組む買収が、競合他社に付け入る隙を与えることにもなり兼ねない。実際に1999年のRJRI買収時には統合計画を作成するのに8か月を要し、その間に人のモチベーションが大きく下がってしまった苦い経験があるという。そこでGallaher社の買収時には統合計画を100日で作ることにした。

「そのためにはJTIからJTにいちいちお伺いを立てていてはスピードが上がらない。そこでJTIに大幅な権限移譲を行った。また統合における基本原則を作り、全社員に繰り返し重要性を訴えることで順守を徹底させるという取り組みも行った。」

【次ページ】ITの統合作業時における重要な3つのポイント

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