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  • 2013/12/09 掲載

竹中平蔵 教授の考える日本成長のシナリオ、イノベーション競争の時代を勝ち抜け

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「アベノミクスには批判もあるが、国内のみならず、海外からの期待も高い。しかし、企業はただ待っているだけで、成長戦略の恩恵にあずかれるというわけではない。企業が自ら、グローバル化、イノベーションなどの変革に取り組まなければならない」と説明するのは、慶應義塾大学 総合政策学部 教授の竹中平蔵氏だ。2020年の東京オリンピックに向け、政府と企業の双方が大胆な行動を起こすことで、マクロとミクロの好循環が生まれ、日本経済が再び成長軌道を描けるという。

「The Great Convergence(大いなる収斂)」の時代

 10月31日の「日立イノベーションフォーラム2013」に登壇した竹中氏は、「最近いろいろな国際会議で、よく話題になる一冊の本がある」として、シンガポール国立大学のリー・クワンユ大学院公共政策大学院の学院長である政治学者、マブマニ氏が書いた本『The Great Convergence(大いなる収斂)』を紹介した。マブマニ氏はインド系のシンガポール人で、シンガポールの国連大使をやり、そして外務大臣を歴任した人物でもある。

 ここでいう「収斂」とは、日本やアメリカのようにすでに所得水準が高い国の成長率は低いが、中国やベトナムなどのように所得水準の低い国は成長率が高いため、いずれどこかで「収斂」していくという理論のこと。

「我々がこの収斂の理論を経験するにしても、100年や200年ぐらい先の話だろうと思っていたが、マブマニ氏が指摘するのは、それがいま、ものすごい速度で目の前で起こっているということです。これに対して国際機関も各国の政府も企業も十分な備えができていないのではないか、そういう問題提起を行っています」

 マグマニ氏は本書の中で、現在アジアには中間所得層が約5億人いるが、それが2020年に東京オリンピックが開催されるときには、3.5倍の17.5億人になるという試算があると紹介している。

「かつてアメリカのジャーナリストのトーマス・フリードマンが『フラット化する世界』という本を書いて、まさに所得水準が収斂することを述べましたが、ある種類似するところがあります。確かに今まで経験したことのないようなことが、それもすさまじい勢いで起きている。それが目の前の事実です。今後それが7年、10年というタームで続いていくと思います」

 さらに将来、何が起こるかについては、また1つの新しい視点があると竹中氏はいう。「それがまさにイノベーティションが起こるかどうかということ」。

 昨年、出版された『MEGA CHANGE:THE WORLD IN 2050日本語版:2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する)』という本に、「2050年に向けた世界への重要なメッセージがある」と指摘する。それは「21世紀は、シュンペーター的イノベーションの競争の時代に入る」ということ。シュンペーターは、ケインズと並ぶ20世紀の代表的な経済学者で、資本主義のエネルギーの根源が「イノベーション」にあることを示した人物だ。

 いまアジアの近隣諸国が非常に高い発展を示し、すさまじい勢いで経済を引っ張っているが、これらの国々がある種の大きな課題に直面するといわれている。それが「中所得国の罠、中進国の罠」と呼ばれるものだ。

 低所得国から中所得国、つまり一人当たりのGDPが5000ドルとか1000ドルまでは成長可能だが、それを突き抜けてGDPが3万ドル、4万ドルといった先進国レベルまでいけるかどうかはよくわからない。これを中進国の罠という。「その先にいけるかどうかは、ひとえにイノベーションが起こせる国かどうか」。

「中国の中期予測では面白いことに意見が分かれているように私には思えます。先ほどのMEGA CHANGEでは、中国の2050年までの姿について、けっして有望ではないという見方をしている。同じように日本経済研究センターの中間予測でも、中国は完全に中進国の罠にはまって、当面はよいけれど、長期的には非常に大きな問題を抱えるとしています。その理由はイノベーションを起こせないから。それはなぜかと言えば、自由がないからです。自由がないところではイノベーションは起こせない。そういう厳しい見方が出ているのです」

 東南アジアで非常に勢いのあるインドネシアやタイでさえも、中進国の罠に関する懸念があり、日本やアメリカのようなイノベーションを起こせる国になるかというと非常に大きな不安を持っているのだという。

「それゆえに日本の企業といろいろな形で連携して、自らがイノベーションを起こしたいという非常に強い潜在的な願望を持っているように思います」

 一方で、中国の長期予測を行ったもう1つの面白い本があるという。それが『2052』という本だ。本書は、スイスのヴィンタートゥールに本部を置く民間のシンクタンク、ローマクラブのメンバーが書いたもの。ローマクラブが1972年に「成長の限界」を出してから、2012年でちょうど40年を迎えたが、実際40年の間に何もできなかったと指摘している。

「本書の中では、中国に対する評価はわりと高いのです。まず、これからは地球が非常に傷んでしまって、地球を修復するために、いままで考えられなかったような大きな投資をしなければならないとしています。イメージとしては、森林の修復とか、非常に大きな環境保全のための投資なのでしょう。そういったことを行うためには、30年から40年単位の投資をしなければならない。そうなると、やはり公的な部門や国の何らかの関与が必要で、そういう意味では(中央省庁に権力が集中している)中国は悪くないという見方です。これは以前から経済を発展させるためには、市場の活力なのか、国のある程度の計画的な誘導なのか、そういう議論にも通じるかもしれません。長期的にはこのように見方が分かれているということです」

 ただ、いずれにしても言えることは、いま近隣諸国で凄まじい変化が起きているということだ。長期的にはイノベーション競争が激化する時代には入っていくだろうと竹中氏は指摘する。

【次ページ】デフレ下における企業活動にまつわる大いなる誤解

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