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  • 2015/03/20 掲載

ビジネスにおける「勝てる形」が見えるか? 将棋用語に学ぶ「形勢を見極める力」とは

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将棋用語を借りると、物事における素人とは「勝てる形を知らない人」だ。言いかえれば、素人とは「ゲームの構造的に、負ける必然性のある手をつい指してしまう人」である。「勝てる形」を知らない人は、勝ちを相手に引き渡す手を次々と繰り出してしまい、気付けば勝利を自ら差し出してしまうのである。これは、人生における選択や、ビジネスにおける選択にも深く通じている。今回は、将棋用語から、選択という行為において、「いかに素人を脱皮するか」ということを探ってみたい。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

将棋記事

将棋電王戦FINAL第1局はプロ棋士が勝利!
人が将棋にロマンを感じる理由とは?

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将棋用語からビジネスで勝つための
「形勢を見極める力」を学ぶ
 2015年3月14日、将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが対局を行う将棋電王戦FINALの第1局が行われた。

 結果はプロ棋士の斎藤 慎太郎五段がコンピュータ将棋ソフトの「Apery」に勝利し、プロ棋士側にとって幸先の良いスタートとなった。とはいえ、2012年の第1回以降、プロ棋士とコンピュータの将棋対局ではいずれもコンピュータ将棋ソフトがプロ棋士に勝ち越しており、今回の電王戦はプロ棋士側にとって背水の陣といえる。

 このように勢いに乗るコンピュータ将棋をはじめとして、近年は「計算機を活用し、いかにゲームで勝利を勝ち取るか」を研究する情報科学の分野に注目が集まっている。

 将棋やチェスは、情報科学の文脈において「二人零和有限確定完全情報ゲーム」に分類される、という話から物語は始まる。そして、専門書によると、あらゆる「二人零和有限確定完全情報ゲーム」には必勝法が存在するということが数学的に証明されているというのだ。

 一口にゲームといっても、様々な種類のゲームがある。サイコロを使ったスゴロクや、トランプを使ったポーカーなどは、実際にサイコロを振ったり札を引くまで、どのような目やカードが得られるかわからない。一方で、将棋やチェスは盤面のうえのコマが双方のプレイヤーにとって一目瞭然で、全ての情報が互いに公開されている。また、数学的に、その局面にどのような状態が現われるかという「局面」は無限ではなく、有限である。

 もし、この「ゲームにおいて現われうる局面」の変化が少なければ、こういった条件のもとではゲームは成立しない。例えばそれの最も簡単な例は「三目並べ」としてよく知られているが、これは先手が最初に中心を押さえると、後手はどれだけベストを尽くしても良くて引き分けにしか持っていけない。

 三目並べに現われる局面は限られているので、あっという間に全ての「場合分け」を書き出すことができる。それが見えた時点で必勝法が確定してしまう。つまり、ゲームの最善手が解析されているのだ。

 必勝法が存在するのであれば、その時点で、将棋やチェスはどんな棋譜にも価値が失われてしまいそうなものである。どんな大名人であろうとも、どんな優れたコンピュータソフトであっても、それが「勝ったり負けたりする」というのであれば、その時点で最善の戦い方ではない。

 では、どうして将棋やチェスがプロ競技として成立しているのか。それは「ありうる局面の数が、有限とはいえど、人間にとっては実質的には無限といえるほど幅広い」ため。つまり、必勝法など、到底見つかりそうもないからだ。

 実際の所、ありうる局面の数を全て数えあげるのは、たとえスーパーコンピュータを使ったとしても、途方も無い時間がかかる。様々なアプローチで日夜研究がなされているが、「完全解明」がいったい可能なのかどうかということ自体、専門家の間でも「できる」と考える人と「できない」と考える人の意見が分かれているそうだ。

将棋の指し手の「選択の仕方」と
人生における「選択の方法」に共通する点

 いまだ完全解明されていない将棋は、それゆえにプロ競技として人々を熱中させている。

 突然だがここで、将棋を指したことがある人は思いだしてほしい。ゲームに勝利するために「最善の解がよくわからないなか、あらゆる情報を総合的に解釈したうえで、間違いかもしれないけれどとりあえず一つの選択肢を選ぶ」という行為を繰り返しているのではないだろうか。

 筆者は、このような将棋における指し手の選択のあり方には、生きているなかで行う選択のあり方に通じる部分がある、と思っている。

 たとえば、将棋用語と一般用語の間には深い交流がある。「王手をかける」といった言葉はもちろん、「局面」や「序盤、中盤、終盤」も元はといえば将棋用語である。

 「定跡」という言葉は、まさしくその代表選手であろう。「高校を出て、大学を卒業し、企業に就職活動する」というコースは現代のライフプランの定跡である。ここで面白いことには、早々に定跡を離れる将棋は「手将棋」「力戦形」と呼ばれるが、それはそれで一局のゲームとして成立するということだ。

 ビジネスという場を考えても全く同じことが言える。新たなIT技術が浸透するに従って、次々と新たな定跡が生み出されているのが、昨今のネット業界である。一昔前であれば、「ポータルサイト定跡」、その後は「ブログ・SNS定跡」、最近で言えば、「アイテム課金型スマホゲーム定跡」といったところであろうか。

 定跡通りに新サービスを立ち上げたとしても、必ずしもそれで勝てるわけでもない、というところ、まさしく将棋に深く通じるものを感じる。

  【次ページ】ビジネスにおいて「勝てる形」が見えるか?

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