• 会員限定
  • 2016/09/23 掲載

アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)とはいったい何か?

シンフォニーマーケティング 庭山 一郎社長が解説

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
ここ最近、BtoBマーケティングの世界で注目を集めているのが「アカウント・ベースド・マーケティング(ABM:Account Based Marketing)」だ。概念そのものは決して新しくはないが、米大手企業では2013年ぐらいから取り組みを開始し、いずれも大きな成果を上げているという。さらにここに来て、マーケティング・オートメーション(MA)ベンダーの一部もABMへの対応を謳いはじめた。MAとABMはどう違うのか。なぜ、ABMを導入すると売上が向上するのか。さらにABMを実現するにはどんなツールが必要なのか。本稿で庭山 一郎社長が徹底解説する。(2017年12月31日一部更新)

執筆:中村仁美、企画・構成:編集部 松尾慎司

執筆:中村仁美、企画・構成:編集部 松尾慎司

画像
ABMは決して新しい概念ではないが、とにかく成果が出るのが特徴だ

 最近、マーケティングの世界でABMというキーワードが注目を集めている。ABMにはまだ確固たる定義があるわけではないが、米ITSMAによれば、以下のように説明されている。

Account Based Marketing provides a vital strategy for companies that want to create sustainable growth and profitability within their most important client accounts. ABM focuses explicitly on individual client accounts and their needs. More importantly, it is a collaborative approach that engages sales, marketing, delivery, and key executives toward achieving the client’s business goals. All of these attributes contribute to the success of ABM in practice.

アカウントベースドマーケティング(ABM)とは、企業が持つ重要なクライアントにとって、持続的な成長および収益をもたらすための活力ある戦略を提供するものだ。ABMでは、各クライアントとそのニーズに明確に焦点を当てていく。もっとも重要なことは、クライアントのビジネス目標の達成に向け、セールス、マーケティング、デリバリの担当者、および主となる役員が協力してアプローチを行うことである。

 より端的に表現したのが、BtoBマーケティングを手がけるシンフォニーマーケティングの庭山一郎社長による定義だ。

ABMとは、顧客・見込み客データを統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す戦略的マーケティングのこと。


ABMはなぜ生まれたのか?MAとは何が違うのか

 ここ数年、日本のデジタルマーケティング分野では「マーケティングオートメーション(MA)」が注目を集めていた。MAとは、主にマーケティングの各プロセスを自動化するためのソフトウェア/サービスのこと。メール配信やセミナー管理、Webアクセス履歴、登録フォーム、リード管理、スコアリングなどの機能が搭載されている。庭山社長は「マーケティングをひと言で言うと『売れる仕組み作り』のこと。昨今はMAツールが流行り言葉になっているが、基本的にはBtoBに適したツール」と説明する。

 MAでは顧客や見込み顧客に対して、最適なコンテンツを最適な方法で届けることができるため、デマンドジェネレーションを期待した導入が進んだ。デマンドジェネレーションとは、見込み案件の創出のこと。リードジェネレーション(見込み客の獲得)、リードナーチャリング(見込み客の育成)、リードクオリフィケーション(見込み客の絞り込み)という、有望見込み客を営業部門へと渡すための一連のマーケティング活動全般を意味する言葉である。

photo
シンフォニーマーケティング
代表取締役
庭山 一郎 氏
 デマンドジェネレーションという言葉が米国で流行り始めたのは「今から16年前の2000年ぐらいから」(庭山社長)。その発端は、今はオラクルに買収されたEloqua(エロクア:現在のOracle Marketing Automation)というMA製品が登場したことによる。これがきっかけで、米国で急速に普及が進み、大手企業ではデマンドセンターという組織も作られた。

 しかしMAを活用し、有望見込み客(リード)を渡しても、なかなか営業が追わない問題が発生。「無視率(営業によるリードの不使用率)が多いことが問題として顕在化してきた」と庭山社長は説明する。

 米国では日本とは異なり、トップ企業のほとんどにマーケティング部門が存在し、同部門のメンバーにはマーケティングROI(mROI)が求められる。つまり営業のリード無視率を下げなければ、部門トップのCMOはその責務を負わされることになるわけだ。こうした中、「無視率の解決策を模索する中で登場したのがADRとABMだ」(庭山社長)。

 ADR(Account Development Representative)とは、リードを営業や販売代理店に配分する役割を担う組織を営業側に設置することで解決しようというもの。「サッカーにたとえるとトップ下。そこにボールを集めてキラーパスを出し、シュート(営業)を決めてもらおうという方法で、企業によってはBDR(Business Development Representative)、SDR(Sales Development Representative)と呼ばれることもある」(庭山社長)。

 そしてもう一つの方向性が、今回のテーマでもあるABMである。ABMでは、MAのように「人単位」ではなく、アカウントベース、つまり企業単位でマーケティングを考えるというものだ。企業単位であることの重要性は後述するとして、「新しい概念として登場したように見えるが、デマンドジェネレーションの問題を解決するための概念であり、デマンドジェネレーションの別物というより、それをベースにした進化形と言える」と庭山社長は説明する。

 具体的な違いは下図の通り。「ABMに取り組むと、営業が追いかけたいリードだけが提供されることになり、無視率が大幅に削減できる」(庭山社長)。

画像
従来からあるデマンドジェネレーションとABMの違い
(出典:Engagioの資料などをもとに編集部作成)


日本企業にABMが必要な理由

関連記事
 マーケティング先進国の米国において、MAによってリードの「無視率」が高くなった背景には、米国ならではの事情もある。これまで米国ではトップダウンで意思決定されることがほとんどだったため、営業も部門のトップであるCxOにしか会わないという手法を採用していた。したがって、リーダーやマネジメントクラスのリストを渡しても、無視されてしまっていた。しかし、「米国でも意思決定のダウンサイジングが進み、CxOにだけ会うという営業手法ではうまくいかなくなってきた。そこで無視率の低減、これまでの営業手法を見直すことができる手法としてABMに期待が集まってきた」と庭山社長は説明する。

 一方、日本におけるMAは、「メール配信ができる環境が整ってきたというステージが多く、無視率の改善というところまでは至っていない」(庭山社長)。

 では日本ではABMは無用かといえばそうではない。日本特有の課題、「縦糸しかなく、横糸がないことだ」と庭山社長は指摘する。多くの日本企業では事業部制を採用しており、事業部ごとに製品の開発、製造、販売、サポートはもちろん、展示会の開催までも完結していることが多い。この事業部制の最大の欠点は、隣の事業部が何をしているのかが見えにくいことだ。

「たとえば自分たちがずっとアプローチしたいと思っていた顧客が、実は隣の事業部の得意先だったということがある」

 つまり顧客を点でとらえがちで、面でとらえてこなかったのである。顧客を点でしか捉えられていないと、さまざまなビジネスの機会損失が生まれる。たとえばシステムインテグレータであれば、せっかく、常駐して情報システム部との関係を築いているのに、アプリケーションの導入決定権がある業務部門担当者と関係を築けていなかったばかりに、アプリケーション部分を他の会社に取られてしまうということが起こってしまうというわけだ。

この続きは会員限定(完全無料)です

ここから先は「ビジネス+IT」会員に登録された方のみ、ご覧いただけます。

今すぐビジネス+IT会員にご登録ください。

すべて無料!ビジネスやITに役立つメリット満載!

  • ここでしか見られない

    1万本超のオリジナル記事が無料で閲覧可能

  • 多角的にニュース理解

    各界の専門家がコメンテーターとして活躍中!

  • スグ役立つ会員特典

    資料、デモ動画などを無料で閲覧可能!セミナーにご招待

  • レコメンド機能

    ​あなたに合わせた記事表示!メールマガジンで新着通知

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

Salesforce Data Cloudを活用したデジタルマーケティング戦略

近年、デジタルマーケティングにおけるデータ活用がますます重要視されています。顧客エクスペリエンスの向上や競争力強化を図るために、企業は顧客データプラットフォーム(CDP)を活用することが求められています。データ量の増加やチャネルの多様化に伴い、顧客との一貫したコミュニケーションと体験提供が極めて重要となっています。 しかしながら、多くの企業は顧客理解のための十分なデータにアクセスできていないという課題に直面しています。データのサイロ化や情報の過剰化により、顧客の本質的なニーズや行動パターンを的確に把握することが難しくなっています。さらに、AIアシスタントの活用や顧客エンゲージメントの向上には、データの適切な抽出と活用が不可欠です。 本セミナーでは、Salesforce Data Cloudを活用したデジタルマーケティング戦略に焦点を当てます。セールスフォース・ジャパンとウフルが協力し、Salesforce Data Cloudの優位性や具体的な機能について解説します。 Salesforce Data Cloudがもたらすパーソナライゼーション、インサイト獲得、エンゲージメント向上などのユースケースを紹介し、デジタルマーケティングにおける新たなアプローチを提供します。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます