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  • 2017/02/20 掲載

トランプ大統領下で起きうる「IT人材」3つのシナリオ 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(83)

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トランプ政権の入国規制が世界を揺るがしている。専門技術者の就労に必要なH-1Bビザも発給の厳格化が俎上に上がり、関連企業の株価が下落するなど、市場も敏感に反応している。実際にビザの発給が大幅に制限された場合、IT業界にはどのような影響が生じるであろうか。今回はこの問題について、いくつかのシナリオを考えてみよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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トランプ大統領の移民政策はIT業界にどのような影響を及ぼすのか
(© artisticco – Fotolia)


IT企業のグローバル展開に不可欠なH-1Bビザ

連載一覧
 連載の第71回で解説したように、優秀な頭脳の人的つながりと、その国境を越えた活動は、世界のサービス貿易を拡大させる直接の要因だ。

 H-1Bビザ発給数、ITネットワーク環境、所得水準などのデータを用いて、世界31カ国の対米サービス貿易を分析すると、トランプ大統領が廃止に言及したH-1Bビザ発給数は、対米サービス貿易拡大にプラスの影響を与えていると検証されている(久保田他[2016]、末永他[2014])。

 H-1Bビザとは、専門家(Professional)向けに発給される就労ビザのこと。米国移民法の規定では、3年間の滞在許可が得られ、その後さらに3年間の延長も可能で、合計で6年間の滞在が可能だ。

 発給要件は、職務内容や申請者の学位で判断され、米国に留学した学生が卒業後に米国で就職する場合、最も一般的なビザといわれている。

 受け入れ企業で就く職務の内容で専門性を判断されるため、転職したり、同じ企業でも専門性の異なる職種へ異動したりすれば失効する。2015年の総発給数は17万2,748件、国籍別にみるとインドが11万9,952件で約7割を占める(図1)。

画像
図1 H-1Bビザ発給件数の推移

H-1Bビザによる就労はIT産業発展のかなめ

 H-1Bビザはインド国籍の技術者向け就労ビザという色彩が強い。もっとも、ITをフル活用してオフショアリングするのであれば、国境を越えた人の移動は、一見すると不要ではないかと思える。

 だが、人材の国際移動(ヒト)とオフショアリング(技術)は代替関係ではなく、強い補完関係にある。改めて人材の国際移動とオフショアリング拡大のメカニズムを示しておくと、(1)世界各地から多くの留学生や技術者が米国に渡り(リワイヤリング)、(2)そうした人材が米国で就職したり起業したりする中で母国と国境を越えたビジネス活動を形成し(スモールワールド)、(3)ひいてはそれが国民経済レベルのサービス貿易拡大をもたらす、というものだ。

 こうしたメカニズムが働くのは、開発現場では技術者が顧客企業と直接密なやり取りをして詳細設計する業務が欠かせないからだ。そこで固まった内容をルーティン化し、安定したオペレーションの下で処理が可能になれば、オフショアリングが威力を発揮する。

 さらに、システムの運用開始後も、何らかの予期せぬトラブルはつきものだ。こうした異常事態が発生すると、現場での臨機応変な対応が欠かせない。システムの構築と運用に際しては、専門人材がリエゾンとしてオンサイトで果たす役割は極めて重要なのだ。

 受け入れる米国側の企業にとっても、派遣するインド側の企業にとっても、国境を越えた人材の交流は、ビジネス拡大の「かなめ」となっている。インドのIT業界は、H-1Bビザを通じた人材交流が重要であることを熟知しており、移民政策に関するトランプ政権の一挙手一投足に神経を尖らせている。実際にビザの発給に制限がかかった場合は、どのような影響が生じるであろうか。以下では、3つのシナリオを考えよう。

【次ページ】考えられる3つのシナリオとは…?

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