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  • 2017/07/27 掲載

「子どもが熱を出しました」にイラっとする管理職は許されるのか? 

働き方リテラシー

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「子供が熱を出しました」。この一言は、現代の共働き&子育て中ワーカーにとって、また、彼/彼女らの同僚や上司部下にとって、さまざまな思いを去来させる。保育園、幼稚園世代の子ども達は頻繁に熱を出すが、「職場」とは、そういった事情に対処しやすい世界ではない。なぜなら、子育ての当事者世代と、そうじゃない世代の双方が「社会人の常識」に呪縛され、自分もまわりも働きにくくしているからだ。どうすればこの呪縛を断つことができるのか。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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「イラッとすべきではない」と思ってもイラッとしてしまうこともある。子どものいる人もいない人も、効率よく働くにはどうすればよいのか

「社会人の常識」という「呪縛」

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 お客さまと一度約束したことは、反故にしてはいけない。「身内」の人間が休みになったとしても、それはあくまで当方の都合であり、「先様」に迷惑をかけていい理由にはならない。穴があいたら、誰かがそれを埋めなければならない。迷惑をかけてはいけない。

 この「社会人の常識」と呼ばれる「呪縛」の力は絶大で、休む方も、休まれる方も、しっかりと縛りつけられている。

 だからこそ、共働き&子育て中ワーカーは起床してから出勤時間までの極めて短い時間で、「仕事に出られるよう段取りをするための夫婦間の交渉」に頭を悩ませ、我が子の健康状態に対する不安にさらされながら「上司や同僚にイレギュラーな調整をお願いしないといけない申し訳なさ」に胃を痛め、上司や同僚は「気にしないで」と声をかけつつも「面倒なイレギュラー対応」をしながら心の中で舌打ちする。

 こうして複雑な思考や感情が当事者たちの間をかけめぐり、大きな精神的負担となっている。

「働きにくさ」の原因は「男性中心」という前提

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働く女性のうち、「出産後は就業継続しない」と考えている人は、たったの13.9%

 これは、あらゆる日本国民にとって無縁ではいられない話だ。内閣府発表資料「第1子出産前後の女性の継続就業率」の動向関連データ集によると、いまや、働く女性のうち、「出産後は就業継続しない」と考えている人は、たったの13.9%だ。つまり、大多数の働く女性は出産後も働き続けようとしている。

 こうした社会情勢の必然的なりゆきとして、世は「ワーク・ライフ・バランス」「ダイバーシティ」真っ盛りである。

 「特別な事情がなければ、20代のうちに結婚、出産をする。男性が働きに出て、女性は家事をする。すべての人がこのスタイルで働くべきであり、また実際にそういう状態にある」という社会であれば、子ども看護休暇にまつわる葛藤に象徴される、「個人個人の事情や都合に関する考慮や配慮」は、随分と少ないものとなる。もちろんそのほうが面倒は少なく、生産性は高い。

 こうした「従来の男性中心の世界観」は、いまだに「自覚なき前提」として多くの人の頭の中に息づいている。これだけ男女関係なくみな働く社会となっても、いまだに、漫画「働きマン」が活写したように、女性もまた「男性化」して働く、というイメージがある。ドラマ「逃げ恥」が描いたのは「子を持たず、稼働率100%を実現できるライフスタイルを女性が選ぶ権利があってもいいじゃないか」ということだった。

 「仕事に穴をあけるべきではない」「働く人は限りなく稼働率を100%に近づけるべき」という常識は、それを可能にする社会構造があってこそのものだ。今現在、その前提が崩れつつあるにも関わらず、「べき論」については変更がない。これは非常に辛い話である。

 「子どもが熱を出しました」に内心イラッとしたら、マネージャー失格なのか? この宙ぶらりんな状態にあって、「子育て事情は優先すべき」という概念は、新たな正義となりつつある。いまのご時世、「子どもの病気で仕事を休むなんて、あり得ないというのは、あり得ない」という感覚である。

 しかし本音のところ、多くのマネージャー諸氏は、部下に「休みます」と言われた瞬間、「内心はイラッすることや納得のできない気持ちはあるが、それをそのまま表現するのは憚られる」といったところではないだろうか。

 「ワーク・ライフ・バランス」「ダイバーシティ」これ自体は結構な話だ。しかし、「その政治的な正しさを実現するために、なんで自分が余計なスケジュール調整をやる必要があるんだ?」と思うのである。

 看護休暇だけでなく、部下の育児休業申請も同じ話だ。子どもができたことは、間違いなくめでたい話である。部下からそれを報告されたら、きっとそこでは「おめでとう」という言葉がふさわしい。それが大人のマナーであり、作法である。

 サイボウズの青野慶久氏、ドワンゴの川上量生氏、文京区長の成澤廣修氏を始めとして、経済界や政界の著名人が育児休暇をとるというニュースも増えてきた。

 世のマネージャーにとっては、もしかしたら、これらは苦々しいニュースなのかもしれない。確かに、企業トップは、育児休業を取ったら美談のように語られるかもしれない。しかし自分の部下が育児休業を取るという話は、美談でもなんでもない。それはただ、「今そこにある、どうにか調整をしなければならない余計な仕事が増やされること」なのである。

 現場にいる者たちは、目標達成するかどうかギリギリのラインで進行している仕事の現状も忘れるわけにはいかない。業績責任を負うマネージャーが、「そんな簡単に休むと言われても困るんだよ」と、内心「イラッ」としたら、そのマネージャーは「マネージャー失格」なのだろうか?

【次ページ】競争のカギは「ドライでさっぱりした働き方」

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